伶奈の走り去る姿を、窓から見送ったりかは、ため息を吐きイスに腰を下ろした。
「ウチらの心配、なんだったんだろうね」
「ホントだよ、せっかく相談に乗ったげたのに」
頬杖をついて汐里が呆れたように言った。
そして紗耶の顔を覗き込む。
「紗耶は大丈夫?」
紗耶は口元に笑みを浮かべて「大丈夫」と頷いた。
が、二人には無理をしているようにしか見えなかった。
「ウチらも、そろそろ帰ろうか」
カバンを背中に担ぎ、りかが立ち上がった。
二人もそうだねと言って腰を上げた。
コーヒーショップを後にし、まずはどうして怒っているのかを探るのが先決だよね、などと言いながら、駅に向かう。
もうすぐ到着というところで、汐里がふいに立ち止まった。
「ちょっと、危ないじゃん。どうしたの」
ぶつかりそうになり、りかが声を上げる。
すると汐里は「あれ」とあごでしゃくってみせた。
駅の入り口、改札へと続く長いエスカレーターの横に、彼女らと同じ高校の男子が佇んでいた。
手持ち無沙汰で、時折ゴルフのスイングをしている。
りかは俯き加減で歩を進める紗耶の肩を叩いた。
「見て、ほら」
おもむろに顔を上げた紗耶は、その場で固まってしまった。
彼女らに気づいた男子生徒は、居住まいを正し、気まずそうに手を上げた。
躊躇する紗耶の背中を、りかが押す。
「行きなよ」と笑顔で送り出す汐里。りかも笑みを浮かべながら頷く。
「ごめんね」
紗耶はそう言って手を合わすと、駅に向かって駆けだした。
男子生徒は大げさな仕草でカバンを背中に担ぎなおした。
紗耶が何か言って笑いかける。
そしてふたりは手を絡ませ、振り返ることなくエスカレーターで地下へと吸い込まれていった。
その姿を見送ったりかと汐里は、揃って大きなため息を吐いた。
りかが冷やかな視線を汐里に送る。
「なに、物欲しそうに見てんの」
「別に」
不機嫌な表情で汐里は応えた。
そして「りかこそ」と言って、軽く肘鉄を喰らわす。
りかは腕組みをして口をへの字に曲げた。
再度、わざとらしく大きなため息を吐く。
「よし、カラオケ行こう」
そう言って汐里の肩を抱く。
「なんでよう。早く帰りたいんだけど」
不満を漏らす汐里だったが、そのじつ満更でもないようで、激しく肩を揺すぶられると、笑みを浮かべた。
ふたりは肩を組み、酔っ払いのようにふらふらしながら「こぶしの『きっと私は』でも歌うか」なんて言って、路地へと消えていった。
──完──