「ちょっと、いっちゃん」
りかが尖った声を出す。
あとの二人も突き刺すような視線を送った。
三人の顔を見回し、伶奈は気まずそうに腰を下ろした。
が、表情を明るくすると身を乗り出し力説しだした。
「あのね、ドクターイエローが走ってるんだよ!」
「ドクター……?」
「前に教えたじゃん、点検用の新幹線。正式名称は『新幹線電気軌道総合試験車』って言うんだけど、車体が黄色いから、通称ドクターイエロー」
伶奈の鉄道話など話半分、いや三分の一ほども聞いていない彼女らにしてみれば、「前に教えた」と言われてもピンとこない。
三人の反応に苛立ちをみせながら、伶奈は説明を続けた。
「検査用だから、ダイヤに載ってないんだよ。いつ走ってるかわかんないの。
だから見ることが出来たら幸せになるって言われてるの」
そのドクターイエローが三島駅で停車しているらしい。
彼氏の知り合いの鉄ヲタから目撃情報があったのだ。
「三島に停まっていたってことは、こだまダイヤだから、四〇分くらいで品川に着くわけ」
身振り手振りで懸命に説明する伶奈だが、三人はピンとこない。
ちらりと壁の時計を見上げ、苛立った表情を見せた。
「とにかく、このチャンスを逃す手はないのね。
もう時間ないから。ウチ行くね!」
「ちょっと、彼氏さんとのケンカは?」
「えっと……なんだっけ、それ」
首を傾げ笑顔でそう言い放つと、伶奈はカバンを抱えて店から飛び出した。
「あっ!」
りかは腰を上げ、後を追うとしたが、相手はバスケ部のエースだ。
走り去る伶奈の後姿を、窓から見送る事しかできなかった。