Berryz Quest 第八話 ──その37── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

「もう!」
 
アイリは頬を膨らませた。
 
この状況下で、なに子供っぽいことを
やってるんだ。

してやったりと笑みを漏らすミヤビを睨みつける。
 
だがその瞳に怒りの色はなく
笑みが浮かんでいた。
 
ほら、と呆れ顔でぶっきらぼうに手を差し出す。
それに応えるようにミヤビも、手を伸ばした。
 
今度こそ、がっちり手を握り合う。

はずが、またもミヤビの手が抜け落ちた。
 
驚いたアイリが顔を向けると
ミヤビの顔から生気が失せていた。
 
次の瞬間、彼女の身体が
アイリから遠ざかっていった。

なんとか掴み取ろうと、身を大きく乗り出す。
 
バランスを崩し、城壁から身体が
投げ出されそうになる。
 
それを察知したサキが、アイリの背中を
引っ張りあげた。
 
なす術をなくしたアイリから
ミヤビが、どんどん遠ざかる。

彼女の身体は、音もなく地面に落下した。
 
うつ伏せになった背中に
剣が刺さっているのが見えた。
 
しばらくの間、なにが起こったのか
理解できなかった。
 
「ミヤー!!」
 
モモコの鋭い叫び声に、我に返る。

路地から人影が現れるのが見えた。
屋敷で見た、老人だ。
 
サキが素早く縄を引き上げ、外側に垂らした。
 
「ふたりとも、すぐに逃げて」
 
そう言うと、城壁に脚を掛けた。
 
「モタモタしてたら、捕まっちゃうから。
 真っ直ぐ、家に帰るんだよ。いいね」
 
唖然とするふたりを残し、サキは城壁から飛び降りた。
 
 
 
サキは地面に降り立つと同時に、弓を構えた。
近づいてくる家令に、すぐさま放つ。
 
家令は身体を捻って矢をかわした。
 
だが、屋敷で見せたような
軽い身のこなしではなかった。
 
「キャ、キャプテン…」
 
ミヤビが声をあげた。

最後の力を振り絞り、家令の足を指差す。
 
引きずる右足の甲から、血が滴っている。
 
「ミヤがやったの?」
 
サキが尋ねるとミヤビは弱々しい笑みを
浮かべながら頷いた。
 
「お手柄!」
 
そう言ってサキは、家令の左足に照準を合わせた。
 
「貴様だけは、絶対に逃がさん!!」
 
家令が叫んだ。

だが、サキは慌てることなく醒めた視線を送る。
 
「これでおしまい!」
 
最後に一本だけ残った、眠りの矢を放つ。
 
右足を負傷しているため
軸足となった左足は容易に動かせない。
 
矢は見事に家令の腿に命中した。
 
家令は一瞬、顔を歪めた。

そして、頬に厭らしい笑みをたたえたまま
その場に倒れた。
 
「ミヤ、大丈夫!?」
 
サキは横たわるミヤビに駆け寄った。
血は止まっている。

今、ここで剣を抜くのは、かえって危険だ。
 
「居たぞ、こっちだ!」
 
城兵の声が響き渡る。

複数の足音が、あちらこちらから集まってくる。
 
手負いのミヤビを連れて逃げることは不可能だ。
あっという間に、周囲を取り囲まれた。

サキは観念した。
 
「コヤツめ!」
 
眉間から血を流した男が、ミヤビの髪を掴んだ。
 
「乱暴はやめて!」
 
サキはその手を振り払った。
 
「なにを!」
 
城兵がサキに掴みかかる。
 
「そこまでだ!」
 
大きな声が飛んだ。

群がる兵たちをかき分け、団長が姿を見せた。
仁王立ちになってふたりを見下ろす。
 
「もう抵抗する気はないのだろう。
 手荒い真似をする必要はない」
 
城兵は忌々しそうに、サキから手を離した。
サキは立ち上がり、強い視線を団長に送った。




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