Berryz Quest 第八話 ──その34── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

「なにゆえ、城兵を拒まれる。
 我らが足を踏み入れると、都合の悪いことでも
 おありか?」
 
丁寧だが、強い口調で団長は言った。

だが家令は頬に笑みをたたえ
とんでもございませんと手を振った。
 
「我らの不始末は、我らで始末をつけます。
 幸いなことに、火元は中庭の小屋。
 他の皆さまのお屋敷に延焼することは、ございません。
 どうぞ、職務にお戻りください」
 
ただの使用人ならともかく、一切を取り仕切る家令に
ここまで言われれば、無理やり踏み込むわけにも行かない。
 
断固とした拒絶に、なにかあるなと感じていても
引き下がるしかなかった。
 
「後日、殿下からこの件に関して
 尋ねられることがあるかもしれぬ。
 その時は、嘘偽りなきよう」
 
「もちろん」
 
家令は、先ほどと寸分たがわぬ姿勢で一礼した。

後ろ髪引かれる想いで、踵を返そうとしたその時
燃え盛る燃料庫から、小さな影が飛び出すのが見えた。
 
「なんだ、あれは?」
 
団長は目を凝らした。

必死で消火活動をする男たちの間を走り回っている。
そのうち二人は、どう見ても子供だ。
 
家令が身体を向けた。
 
「ほう、あれは当家のメイドたちですな」
 
表情を変えず、平然と言い放つ。
 
「メイド?」
 
確かに、子供たちと共に走り回る中に
女性らしきシルエットが、ふたつあった。
 
「男どもに混じって消火を助けるとは、感心、感心」
 
家令はそう言って目を細めたが
団長にはどう見ても消火を手伝っているようには
思えなかった。
 
男たち数名と、追いかけっこをしている。
そんな風にしか見えない。
 
追っている男のひとりが、斧のような物を振り上げた。
その前を逃げまどっていた女性の足がもつれる。
 
転んだ女性に、斧が振り下ろされようとした
その瞬間、子供のひとりが矢を放った。
 
命中し、男は棒のように後ろに倒れた。
 
「あれが消火を助けてる?」
 
団長が指差す。
だが、家令は慌てない。
 
「屋敷で起こる初めての火災に、はしゃいでるようですな」
 
──後で叱ってやらねば。
 
そう呟き、家令は、ほんの少しだけ眉を寄せた。

やがて、逃げまどう女子供が、門に近づいてきた。

後ろから追うのは、子爵の屋敷には
似合わない、荒くれ者だ。
 
「水、くんできます!」
「ウチも!」
「アタシも!」
「モモも!」
 
そう言って彼女たちは、団長の横をすり抜けた。
 
「待ちやがれ!」
 
その後を、剣を手にした荒くれ者が突進してくる。
 
団長は、脇を通り過ぎようとする荒くれ者に
鉄槌を喰らわせた。
 
荒くれ者が転がった。

門扉から玄関に続く階段に、頭をしこたま打ち付ける。
荒くれ者は、頭を抱えながら悲鳴をあげた。
 
「なにしやがる!」
 
だが団長は、そんな男を怒鳴りつけた。
 
「火事だというのに、メイドの尻を追い回すとは
 どういった了見だ!!」
 
「メイドだと!」
 
打ち付けた頭をさすりながら、男は声をあげた。
 
「メイドなんかじゃねぇ! アイツら侵入者だ。
 夜中に、城に忍び込んだ、不届き者なんだよ!!」
 
アンタらがしっかりしないから、こんなことになったんだと
声を荒げる男に、城兵たちは色めき立った。
 
あの者たちを追えと、団長は剣を抜いた。
集まった城兵が、オーと応える。
 
ここに来て初めて、家令の顔に苛立ちが浮かんだ。




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