Berryz Quest 第八話 ──その14── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

夕暮れ時、モモコは馬車道から一本入った
路地を歩いていた。
 
洗濯物を取り入れる婦人と挨拶を交わし
右に折れて真っ直ぐ進んだところで
小さな広場に出た。
 
ベンチに腰掛ける若いカップル、パイプを吹かす
老紳士など人影はまばらで、地元の子供が
嬌声をあげながら駆け回っている。
 
ここはまだ知られていないらしい。
モモコは安堵の息をついた。
 
頑として動こうとしないミヤビを置いて
ひとりで街に出たのだが、どこもかしこも
観光客でごった返していて、息がつまりそうになった。
 
この場所も、次に来た時には、同じように
なっているかもしれない。

少し寂しい気分になったが、そうならない内に
楽しんでおこうと気持ちを入れ替え
欄干に向かって駆け出した。
 
「あれ?」
 
そこで意外な人物を見つけた。

モモコは欄干に腰掛ける
その人物の元へ近づいた。
 
「キャップ、なにやってんの、こんなところで」
 
サキがこちらを見た。

「ああ、モモ」と呟いて、顔を正面に戻す。
 
「夕日がね、いっちばん、綺麗に見える丘が
 あるって、教えてもらったの」

「誰に? ああ、街の人にか」
 
モモコは独り合点したが、サキは黙ったまま
首を縦に振った。
 
モモコはサキの隣で欄干に両腕を載せ
寄りかかった。
 
空は茜色に染まり、陽が今まさに海に
溶け込むようにして沈んでいた。

海にもその陽が映り、まるで二つの太陽が
融合するようだ。
 
巣に戻る海鳥が、鳴き声をあげながら飛んでいる。

細波がキラキラ光り、その上を
帆を紅く染めた帆船が滑っていく。
 
幻想的な風景に、ふたりはしばし見惚れた。
 
「綺麗な景色だね」呟くようにサキが言う。
 
「うん、モモも好き」自然と口をついて出た。
 
「こんな素敵な夕陽、初めて見たよ」
 
ため息をつくサキに、モモコは思わず顔がほころんだ。

お気に入りのこの場所を
サキが気に入ってくれたことが嬉しかった。
 
太陽が沈みきるのを見届けて
ふたりはアイリの家に足を向けた。

真っ赤だった空が白んでいき、そして徐々に
インクを混ぜるように灰色が濃くなっていく。
 
途中、城の前を通ると、城壁の上に光の玉が
灯るのが見えた。

警護のためではあるが、ライトアップされた城は
美しく、観光客の目を楽しませるのに、充分だった。
 
「今日さ、色んなとこ歩いて、お話して、思ったんだけど」

「うん」

「みんな明るくって、優しいいい人ばっかで
 住みやすそうで、いい街だね」

「そうだね」
 
ポツリポツリと語るサキに、モモコは相槌を打った。

「あっちの方に、有名な森があるんだってね」
「ああ、エッバ・ミゴの森ね」
 
サキが指差した先は、すでに真っ暗で
なにも見えなかったが、この辺りで
有名な森といえば、エッバ・ミゴの森しかない。

地元の人から教えられたのであれば
間違いないだろう。
 
明日、行ってみようと思うと言うサキに
 
「あのね、シルフが棲んでるんだよ」
 
と教えると、サキは目を丸くした。

一緒に行こうと提案すると
サキは笑顔で頷いた。
 
「ミヤと、あのアイリって子も誘って
 みんなで行こうよ」
 
ノリノリのサキに対して、モモコは苦笑いを浮かべた。
 
「あのふたりは…行かないと思う」
「なんで?」
 
尋ねてくるサキに、昼間の状況を説明する。
 
「なんで、あんなに意地になってんのか
 わかんないんだよね」
 
キャップ、わかる? と尋ねてみたのだが
サキも首を傾げるだけだった。
 
「アイリも、ちょっと拗ねちゃっただけで
 本気じゃないと思うんだよね」
 
「なんで拗ねてんの?」
 
出会ったときに、頭が弱いとか、子供だとか
言ったからだろうか。

サキがそう呟いたが、モモコはどちらも違うと
首を振った。
 
「ふたりともアイリのダジャレで笑わなかったでしょ
 だから」
 
サキは思わず足を止めた。

そして「そっち?」と声をあげた。



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