分かれ道に差し掛かり、チナミとミヤビは男たちと別れた。
ケンカして家を飛び出しているため
名を呼ぶわけにはいかない。
逆に逃げてしまう可能性があるからだ。
周囲に建物はなく、鬱蒼とした森が広がっている。
彼女は灯りを手にしていなかった。
真っ暗な森に入って行ったとは考えられない。
もし入ったとしても、身を隠すためで
奥には進めないだろう。
ふたりは道なりに進んだ。
「マイちゃん、襲われたりしてないよね」
辺りを探りながらチナミが呟く。
「襲われたら、ウチらの責任だよね」
「……」
「だってさ、昨日捕まえてれば、こんなことになんなかったんだし」
「……」
「今日だってマイちゃん、すぐ追いかけてれば…」
「もう!」
ミヤビは声を荒げた。
「なんで、悪い方にばっか考えるの!?」
「だってぇ」
チナミが気弱な声をあげる。
ミヤビは彼女の手を取った。
「文句言ってないで集中してよ。
ゴブリンでもマイちゃんでもいいから
とにかく早く見つけるの」
不安や緊張が高まると騒ぎ立てて
それを紛らわせようとする。
チナミの悪い癖だ。
怒鳴ったり宥めすかしたりして
なんとか大人しくさせたが
それでも先を進むミヤビの後ろで
「でも……もし……どうしよ…」
などと呟いている。
魔力が高く、剣の腕も一級品なのだが
時折、精神的弱さを覗かせる。
「ねぇ、ミヤ…」
不安げなチナミの声に、ミヤビは苛立ちを募らせた。
「もう、いいからちゃんとしてくれる!?」
「違う、あれ」
チナミは光の玉をかざし、杖で森の中を指していた。
ミヤビはその先に目を向けた。
光の玉に照らされ、森の中に小さな小屋が二棟
浮かび上がっていた。
ミヤビは光を消すよう指示した。辺りが闇に沈む。
しばらくして目が慣れてくると、ぼんやりとだが
小屋が建っているのがわかった。
これなら、灯りを持っていないマイでも
見つけることができたかもしれない。
「行ってみよう」
ふたりは小屋に向かって走り出した。
「チィはこっちね。ウチは向こう見てくるから」
手前の小さな棟はチナミに任せ
ミヤビは奥の小屋に近づいた。
気配を殺し、扉に耳を当てる。
「ミヤ、これ開かないよ」
取っ手をガチャガチャさせながらチナミが言った。
「静かに!」
口元に人差し指を立て、注意する。
再び耳を当て中の様子を探るが、物音ひとつしない。
取っ手を掴み引いた。
難なく扉は開いた。
小屋は一部屋しかなく、入り口から全体が見渡せた。
中央に四人掛けのテーブルと椅子が四脚
奥には暖炉があり、家具は
洋服ダンスがあるだけだった。
「どう?」
背後からチナミが顔を覗かせた。
「誰も居ないみたい。行こ」
ミヤビはそう言って扉を閉めた。
部屋が暗闇に包まれる。
ふたりの足音が遠ざかる中
洋服ダンスが微かな物音を立てた。