Berryz Quest 第参話 ──その4── | Berryz LogBook

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Berryz工房を中心とした、ハロプロについてのブログです。
彼女たちを登場人物にした、小説も書いてます。

木陰に腰掛け、ふたりは互いの顔に傷薬を塗りあった。
地面には傷を癒す魔法陣が描かれている。

「ウチ、白魔術、苦手なんだよね」

と顔をしかめるチナミに代わってリサコが創ったものだ。
その効果も相まってか、先に塗った腕の傷はすでに塞がりつつあった。

「でもチィちゃん、ホントに凄いね」


「リサコさぁ、さっきから凄い、凄い言ってんだけど

 ホントに思ってんの?」

チナミはそう言って疑いの目をリサコに向けた。
あまりに言い過ぎたため、そろそろ「凄い」のインフレが始まったようだ。

「ホントに、ホントに思ってるよ!

 だって凄いんだもん、チィちゃん」


「だってさぁ、言われたことないんだもん

 キャプテンからもミヤからも」


「それはぁ、あれだと思うよ。

 ずっと、ずっと一緒に居すぎて、わかんないんだよ」

長年行動を共にしていると、己のことも含め、成長や客観的な実力が
冷静な目で見ることができなくなる。

というようなことを言いたかったのだが

リサコの言葉でそれが伝わったか疑わしい。
チナミは「そうかなぁ」と呟いただけで、天を仰いだ。

「でもリサコも凄いよ。だって、ほら! もう怪我治ってきてるもん」

そう言って腕を差し出す。

そんなことないと恥ずかしそうに首を振ったが
白魔術の方があってるんじゃないかと言われ、顔を上げた。

「それママにも言われた!」

「ママって、おかあさんに言われたの?」

そうではなく、薬屋のマーサのことだと言うと

チナミは納得のいかない表情ながらも、そうなんだと相槌を打った。


しばらく他愛もない話で盛り上がっていたが、ひとつあくびを噛み殺すと
チナミは眠いと呟いて草むらに身体を横たえた。

「ダメだよ! 見回りするんじゃなかったの?」

すでに夕闇が辺りを包んでいた。

いつ魔物が現れてもおかしくない。
リサコは懸命にチナミの身体を揺すったが

彼女は起き上がろうとしなかった。

「大丈夫。どうせ出るのは夜中だし、今のうちに眠っとかないと」

「でも…」

「平気だって。リサコも疲れたでしょ。ちょっとだけ、ちょっとだけ寝よ」

そう言うとチナミは寝返りを打った。

リサコは呆れたようにため息をつくと

「もういい、アタシ見張ってるから」と膝を抱えて背を向けた。

──ホントは凄くなんかないのかもしれない。

いくら魔力が高くても、それを生かさなければ意味がない。
投げやりなチナミの態度に、リサコは腹を立てた。
もう絶対に凄いと言わない。そう誓った。

この夜は月も出ておらず、完全に暮れてしまうと

深い闇に包まれた。
遠くの家々から漏れる灯りが揺れるだけで

すぐ側の街道すら見えなかった。

袋から松明を取り出すが、火を点ける道具がない。
チナミの杖に炎の魔術が刻まれているはずだったが
呪文を知らなければ使いようがない。


「チィちゃん…」

しかたなく、すでに寝息を立てているチナミを揺すって起こす。

「……なにぃ」
「暗いんだけど」
「えっ、暗いのが怖いの?」
「違う!」

暗くて周りが見えないんだと声を上げる。
そういうことね、とチナミは呟き、起き上がって杖を掴んで呪文を唱えた。
そして掌を差し出すと、水晶玉のようなものが現れ、青白い光を放った。

「凄い! なにこれ?」

言ってしまった後で、リサコは顔を歪めた。
ついさっき誓ったばかりにも関わらず

思わず口をついて出てしまった。

「これ? ただの光の玉だよ」

リサコの決意など知るはずもないチナミは
笑顔でリサコの手をとり掌の上に光の玉を浮かせた。

「魔力をこめると光が強くなんの。やってみて」

淡い光を放つ球体に、しばし見惚れていたが、リサコはひとつ頷くと
光の玉に魔力をこめようとした。だが、どうも上手くいかない。
光は強まるどころか、徐々に力を失っていき、辺りはまた闇に包まれた。

「もう」

ため息をつきながらチナミが玉に手をかざした。
するとどんどん光が増していき、ついにはまるで昼間のような明るさになった。
不思議なのは、これだけ辺りを照らしているにも関わらず
直接玉を見ても眩しくないことだ。


「こんなもんかなっと」

チナミが手を遠ざけると、光は弱まっていき周辺を照らしだす程度になった。

「それでしばらく保つよ。じゃあウチはちょっと寝させてもらうから。おやすみ」

そう言ってチナミは身体を横たえた。

始めて見るその物体に、リサコは目を輝かせた。

立ち上がってあちこちに振り向ける。
立ち並ぶ木々が、はっきりと見えた。

その先になにがあるのだろうと、小走りに近づく。

闇の中に、畑を仕切る白い柵が浮かび上がってきた。
その手前に流れる水路が、光を反射してキラキラと輝いている。

松明なんかよりずっと明るいし、風に揺られて消える心配もない。
なによりも熱を持たないので、燃え移る心配もないし火傷することもない。

もっと明るくならないかと、魔力をこめた。

が、やはり上手くいかない。
唇を突き出し首をひねる。やっぱり、ちゃんとしたやり方を教えてもらおう。
リサコはチナミの場所まで駆け戻った。

「ねえ、チィちゃん…」

が、すでにチナミは腕を枕に深い眠りについていた。

寝息と共に肩が上下する。
寝顔を覗き込み、リサコはため息をついた。

あとで訊くしかないかと傍に腰を下ろす。

玉を顔の前に掲げる。なんて綺麗な光を放っているのだろう。

「やっぱり…チィちゃん、凄いや」

リサコはそう呟くと、監視するのも忘れて玉を飽きることなく見つめた。



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