少し照れたように「もうすぐ30です」 羽生結弦が蜷川実花との撮影で見せた表現力

2024年8月23日 19:00
 
photo 写真映像部・佐藤創紀
 
 

 

 

《抜粋》

 

1年ぶりの蜷川実花との撮影は「今年もよろしくお願いします」「お願いします」と互いのにこやかな挨拶とともに始まる。


「ずっと変わらない若さ!」と言葉をかけられると、少し照れたように「もうすぐ30です」と笑って羽生は答える。

「奔放に動いてください」

 その言葉とともに、思うままに表情としぐさをつける。

 広大なスタジオの中には、いくつもの情景がセッティングされている。衣装を変えつつ、それぞれの情景で撮影に臨む羽生は、ときに指示を受けて、あるいは自ら物語を想像(創造)するかのように自在に動き、表情をつくってみせる。パソコンのモニターに次々に映し出される画像に、見守る人々から驚嘆の声が何度ももれる。あどけなくも見える少年のような、クールな、妖艶な──さまざまな雰囲気を瞬時に醸し出すさまは、驚嘆のほかなかった。

 創造性は被写体としてのふるまいだけにあったわけではなかった。撮影時にはBGMが流され、その音楽にも自然と体が反応する姿があったが、衣装を見て自ら曲をリクエストすることも。あるいは、セッティングされていた小道具を見て「これもう1個ない?」と尋ねる場面もあった。クリエイションの意識の高さがそこにもうかがえる。

 すべての撮影が終了する。

「ありがとうございました」とにこやかな挨拶の言葉にはどこか心弾んだ軽やかさがあった。1年を経て、スタジオで見せたのは、より懐の深くなった表現者としての姿だった。

(ライター・松原孝臣)

 

 

 

黒猫AERA 2024年8月12日-8月19日合併増大号掲載記事だね