【プロ3年目の羽生結弦に迫る】“無”から“いいもの”を作るのは難しく楽しい、自らが語ったその力の源泉とは?

 

田中充さんの記事です。

3月11日に仙台市内のホテルで行われた単独インタビュー。

 

 

 

 

 羽生さんは座長を務め、被災地から希望を届けるアイスショー「notte stellata 2024」の3日間の公演を終えた直後にもかかわらず、柔和な表情でいくつもの質問に向き合ってくれた。

 

 疲れを見せることなく、こちらの意図をくみ取り、投げかけた質問に「いいですね」「(聞いてもらえて)うれしいです」とインタビュアーの気持ちを乗せてくれながら、次々と印象的な言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

《部分抜粋》

 

構想はなくても、経験という財産は手中にある。だからこそ、何もない状態からでも、次を作っていくことできるということが、プロとしての矜持なのかもしれない。

 

 「何もないからこそ、つくらないといけないですし、つくり出していくからこそ、難しさはもちろんありますが、楽しく、面白いのだと思います。いま、求められているのは、ざっくり言えば『いいもの』なんですよね。具体性がないけれども、僕が求められている『いいもの』って何なのか──。それを自分が『無』から作っていくことを、みなさんが望んでくださっているんだと思います」

 

 過去の再現ではなく、「無」から作り出す新しく、そして求められている「いいもの」──。単独公演という発想に驚かされた「プロローグ」から、まだ1年半も経っていないのに、次を求める期待は常に高くある。羽生さんは応えるように、想像を超えるスケートと表現で新たな世界を生み出していく。

 

 

今も「羽生結弦という存在は重荷」なのか?

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このインタビューでは、プロになってから羽生さんが自らの存在をどう感じているかを知りたくて、同じ質問をした。

 

 「ハハハ、重いですよ。やっぱり、それはすごく重いと感じていて、競技者時代から変わっていないですね。ですが、自分自身が、皆さんの期待に応えられるかという怖さだったり、実際、応えられているのかなという不安だったり、そういう思考がいまも絶えずありますが、きっとその思考がなくなってしまったり、重荷だと思わなくなったりしたら、そのときが自分の限界だと思います。

 

 僕はまだ、みなさんの期待に応えられる理想像が見えていて、そこを目指したいと思えています。つまり、自分の中でのポテンシャルが(手を上のほうへ動かして)まだここまであるのではないかと思えるからこそ、不安が生じたり、あるいは、まだこれしかできていないから応えられるかもしれないという怖さがあるのだと思います。

 進化を続け、理想へ届けていくにはものすごく大変ですが、そこを目指す気持ちが、いわゆる原動力の一つになっていると思って受け止めています」

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羽生結弦の前にある「壁」とは

 
羽生さんは競技者時代、点数や成績という評価軸を前に、乗り越えるべき壁が常に目の前にあったと振り返る。そして、目の前に壁があることは大好きだったという。
乗り越えた先には、自分にしか見ることができない光景があったからだろう。ただ、プロになってからは、誰かが壁を用意してはくれなくなった。競技という枠、得点という評価軸を飛び越え、これまでの物差しでは測ることができない世界に身を投じたからだ。
 

「いまは、壁を見つけにいっている状況ですね。自分が『もっとこうしたい』『強くなりたい』と思うから、そのために壁を(自分で)作って越えていくというイメージです。

 たとえば、ここにすごく大きな階段があって、僕自身は小さな蟻だとします。あくまで階段は階段であって、壁ではないはずなんです。だけど、『次のステージに上がりたい』と思ったら、蟻のような存在の僕は階段を壁ととらえて登らないといけないですよね。自分から壁を見つけて、進化するために登っていくという感覚です」