「選手のためだけに衣装をつくりたい」羽生結弦らを担当するデザイナー 伊藤聡美のフィギュアスケートへの想い

 

 

 

《抜粋》

 

ベストオブコスチュームは羽生結弦『Origin』

 

その中で、羽生結弦さんの衣装は2014-2015シーズンから手掛けていて、1番長い付き合いとのことです。羽生さんならではの製作過程について教えてください。

 

羽生さんは、ご自身の中でイメージがほぼできていると思います。

 

 

『MUSE ON ICE』でも

 

『序奏トロンド・カプリチオーソ』について

 

チョーカー案は羽生サイド

 

背中が大胆に開き、立体的なギャザーのボディに首の長さが際立つチョーカー。

こうした衣装は羽生選手にしか着られない衣装だ。

羽生選手サイドも「羽生選手にしか着られない衣装」を理解していて

なおかつ音楽のイメージや振り付けを想像してデザインを選んでいると感じる

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男子シングルはシンプルな衣装が主流になっている中で、フィギュアスケートは

音楽・振付・衣装も大事な要素であり、

これがアートスポーツだとて体現してくれる唯一無二のスケーターだ。

 

 



私と羽生さんとマネージャーさんとの間でやり取りをして製作しますが、色に関してはほとんど指定があり、音楽を必ず送ってくれます。そのいただいたものを受けて、私のインスピレーションから、デザイン画にしていきます。

何回も提案しているので、「羽生さんであれば、これを選ぶだろうな」とわかりますし、実際にその通り選ばれることが多いです。

 

 

 

 
 

 

具体的には、色もそうですし、やはり全体の雰囲気ですね。羽生さんは他の選手には着ることができない衣装を着こなせてしまいますし、それはご本人もわかっていると思います。そして、その「羽生結弦らしさ」をジャッジや周囲に貫く強さがあります。

 

 

色は青が定番と言っていいほど、たくさんつくってきました。デザインでは中性的な衣装がよく選ばれますが、ロック調の音楽の時はライダース風の衣装も製作しました。全く違うテイストの衣装も着こなせるのでそういった所も羽生さんの強みだと思います。

 

羽生さんを採寸した際に、初めて見るようなサイズで驚かれたそうですね。
 

スタイルは人それぞれであることを前提にした上でのお話ではありますが、身長もあり首も長く、あの細いプロポーションは維持するだけでもすごいことですが、維持どころか年々細くなって、刀のように研ぎ澄まされていっているように思います。

 

伊藤さんはご自身のベストオブコスチュームとして、羽生さんの『Origin』(2018-2019 / 2019-2020シーズン)を挙げています。その理由について教えてください。

 

これまで青や淡い色のイメージがあった中で、黒と紫という2つともダーク寄りな色に挑戦して、装飾も自分の中で今までで1番、手が込んでいます。

楽曲は羽生さんの憧れていたエフゲニー・プルシェンコさんの『ニジンスキーに捧ぐ』をモチーフにしたもので、私もすごく好きだったので「この曲で滑るんだ」とうれしかったですし、だからこそ今までとは違う雰囲気でつくろうと思いました。

初代の黒Originはプルシェンコさんの衣装を踏襲して黒と金、羽生さんのお名前からインスピレーションを得て羽根の装飾を施しました。

 

 

 

 

画像: 羽生結弦『Origin(黒)』(2018-2019シーズン)

 

 

2代目のOriginは、「黒ではなく違う色で」とリクエストがあったので、今まで羽生さんが着ていない紫を提案しました。デザインには薔薇や蝶々もあるのですが、ニジンスキーの「薔薇の精」をイメージしています。羽生さんだからこそ提案できたデザインです。

フィギュアスケート衣装は、選手本人と音楽、そして振り付けとがマッチすることで完成しますが、その意味でベストの衣装です。

 

 

画像: 羽生結弦『Origin(紫)』(2019-2020シーズン)

 
これまで大きな失敗もあったそうですが、ずっと関係性が続いているそうですね。
 

衣装に穴が開いているのに気付いたりとか……思い出したくないです……。

これ以外にもミスはいくつもあります。私自身「もう来年はないだろうな」と心配した中でも依頼をいただけているのは、本当にありがたいことです。

 

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最近で言うと、これまでは主にパワーネットという素材を使っていましたが、メッシュ状の生地なので、見た目にスポーツ感が出ます。そこで、そのイメージに合わない場合は、光沢のある綺麗なニットのような素材が入荷してきたので、そちらを使うようにしています。

 

ボーヤン・ジン選手が北京オリンピックでその素材を使った衣装を着てくれましたが、良い形のなびき方と、光沢感になったと思います。

 

 

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黒猫ボーヤンの北京オリンピック時のお衣装好きなんだけど

 

『レゾン』の衣装の生地が

この‘’良い形のなびき方と、光沢感‘’があるボーヤンと同じ素材を使っておるのではないかと思うのキョロキョロ

 

 

『レゾン』は回転した時の衣装の裾の靡き方が絶妙で

 

‘’良い形のなびき方と、光沢感‘’←これだろー!って思っちゃう

 

 

画像: ボーヤン・ジン『Night Fight + Eternal Vow』<br>(2021-2022シーズン)