北京五輪へ フィギュア羽生結弦 

カメラマンが"神写真"解説 ショート「序奏とロンド・カプリチオーソ」

 
 
《途中から》
 
時の様子について、小海途さんはこう語ります。「演技前の表情を見たときに、外に発散するような演技というよりは、自分の内の戦いを見せる演技なのかなと想像するような表情や様子でした」小海途さんは、全日本選手権で初めてこのプログラムを撮影。「激しさや葛藤のようなものが表現されていると感じました。羽生選手の平昌から4年間の歩みや、コロナ禍の世界の歩み、そういったものを全部内封するような感じがしました」2018年の平昌五輪からの4年間は、羽生選手にとって苦しいことも多く起きました。平昌で2連覇を達成した後、過去に公式大会では成功例のない4回転アクセル(4回転半ジャンプ)への挑戦を始めましたが、その道のりは厳しいものだったといいます。スケートをやめたい・・・そんな思いを口にしたこともありました。そして、世界を一変させた新型コロナウイルスのパンデミック。スケート界でも次々と試合が中止されました。この状況下でスケートをしてもいいのか・・・羽生選手自身もそんな思いを抱えたこともあったといいます。しかしそんな状況の中でも、小海途さんは、プログラムの最後に、ある思いを感じたといいます。「最後に葛藤やその歩みが実を結んで、エンディングを迎えるという背景を感じました」
 
 
■羽生選手と写真の"力"羽生選手の撮影は、小海途さんにとって、写真の力を実感させてくれるものだといいます。「動画の方が情報量も多く、動画から受け取るものの方が多いんじゃないかと思うこともありますが、羽生選手を撮影するとスチールも捨てたものじゃないなと思います」羽生選手はスピードがあり動きも複雑ですが、激しく動いているはずなのに、たたずんでいるような写真が撮れることがあるといいます。



 
「羽生選手は、動いていると思えないような優しい表情をしていたりする。そこを切り取るとたたずんでいるようにも見えるんです」動きの中で切り取られた「静」。ショートプログラムのブルーの衣装も、氷と溶け込ませるように撮れるといいます。また、羽生選手の撮影には、こんな醍醐味も。「自分で考えて、想像して想定していっても、それをいつも上回る演技や展開が待っています」スチールカメラマンの撮影ポジションは抽選で、思った位置で撮影できることはほぼないといいます。しかし。「羽生選手の場合は、どこにいても良い写真が撮れます。狙って撮るというよりは、自分のいる場所で身を任せる。集中して追っかけていれば良い写真が撮れます」■ショートプログラムの見所ショートプログラムは、サン=サーンス作曲の「序奏とロンド・カプリチオーソ」。バイオリンで演奏されることが多いですが、今回、羽生選手はピアノのバージョンを使用しています。小海途さんが特に好きな部分は、演技の中盤、フライングキャメルスピンが終わってから、トリプルアクセルの着氷までの一連の流れだとか。「音楽と一体となって滑る羽生選手の魅力が良く表れているシーンだと思います。スケーティングの音やジャンプの着氷の音がもはや音楽の一部になっている滑り、また彼の体の動きに合わせて音楽が鳴っているのではと感じるほどの同調性。それは、さながら羽生選手が演奏者であり指揮者のように見えます。何度も見たくなるシーンですね」