2021年4月の東スポの記事です。

世界国別対抗戦の後
元国際審判員で国際スケート連盟(ISU)の名誉理事を務める平松純子氏(78にお話を伺っています

「4回転半」と「AI」…羽生結弦が思い描いた “未来” へフィギュア界は進んでいる



《途中から》

2018年6月に国際審判員を引退した同氏はジュニアのころから羽生の演技を現場で見続けてきた。フリーの演技について「欲を言えば最後の2つのスピンをもっとスピードに乗せ、完璧に締めてほしかった」と話したが、これは期待の裏返し。過去の功績も含めて「彼はジャンプからスピン、ステップ、曲との調和まで全てが芸術作品。小さいころから今日まで、彼はずっと進化しています」と舌を巻いた。

 そんな平松氏は前人未到の4回転半に対しても「私の時代はトリプルアクセルですら大技。それが4回転半なんて…。まだ一回も見たことがないので、練習しているところをのぞいてみたい(笑い)。私が元気なうちに、ぜひ成功させてほしい」と期待を膨らませる。

 そして、もう一つ。平松氏は〝本業〟でもあるフィギュア界の採点制度にも言及。数年前に某企業から日本の関係者を通してISU側に「AI(人工知能)」を導入する提案があったと言い「最終的には人間がジャッジすべきですが、例えばスピンの速さやジャンプの降りる角度、空中の姿勢などが数値化されて明確になるのなら導入は賛成です」と条件付きでAI採点に前向きだ。

 これは、まさに羽生が思い描いているのと同じ未来なのだ。早大在学中の昨年に完成させた卒業論文「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャ技術の活用と将来展望」では、手首やヒジの関節など最大32か所にセンサーを付け、ジャンプの感覚を数値化する研究を行った。

 平松氏は何かと物議を醸しているフィギュア界の採点事情についても「審判はルールを基にセミナーを受け、同じ事例で討論したり勉強しています。でも、やっぱり人間だから甘い、辛いの個人差は出る。表現の部分は人が判断すべきだけど、正確な数値に頼ることで感情が入らなくなることもある」と持論を展開。その上で羽生の取り組みについて「彼のような立場の人が新しい研究をして、フィギュア界を切り開いてくれるのは素晴らしい。私は古い人間ですが、自分がしてきたことを若い人が引き継ぎ、それを進化させてほしい」と未来を見据えた。

 

4回転半とAI――。数々の金字塔を手にした羽生は今、新たな2つの未来を体現しようとしている。