V2を逃した羽生が見せた隠れた進化


フィギュアスケートの世界選手権の男女フリーが28日、中国の上海で行われ、ソチ冬季五輪金メダリストの羽生結弦(20歳、ANA)は、2つの4回転ジャンプに失敗、フリーの得点が伸びずに、SP2位だったハビエル・フェルナンデス(スペイン)に逆転されて2位に終わった。体調不良と怪我からくる調整不足が響いたようだが、フィギュアの専門家は、羽生に隠れた進化があることを指摘した。


エルナンデスと笑顔で写真に納まる羽生(写真:中西祐介/アフロスポーツ)


フィニッシュを決めると、羽生は残念そうに首をひねった。


「ダメだ」。そう口が動いた。ショートを1位で折り返して、2位のフェルナンデスに2.46点差をつけてのフリー。冒頭に組み込んだ4回転サルコウは、飛べずにダブルトゥループとなってしまい、続く4回転トウループでは、着氷に失敗して転倒した。それでも表情を変えず、そこから立て直してプログラムに組まれたジャンプをすべてノーミスでクリアして場内を沸かせたが、羽生に続いて演技をしたフェルナンデスが、4回転を2つ成功させ、わずか2.82点差で逆転を許した。日本人として史上初となるはずだった世界選手権のV2には手が届かなかった。2013-2014年シーズンにGPファイナル、ソチ五輪、世界選手権とフィギュアの3大タイトルを制覇、2014-2015年も、GPファイナルを制していたが、3大タイトルの連覇も「4」で止まった。同じくオーサーコーチが教えている“友人”の勝利を自分のことのように祝福した羽生だったが、インタビューアーを前にすると悔しさを隠さなかった。


「正直いって悔しいです。4回転を決めることができなかったのが悔しいです。足がフワフワして体をしっかりとコントロールすることができませんでした」


V3を果たした昨年12月の全日本選手権の後に、体調不良を訴え「尿膜管遺残症」との診断で緊急手術を行った。ようやく1月末に練習を再開したが、今度は、右足首を捻挫。結局、世界選手権に向けての準備がスタートしたのは3月初旬から。元全日本2位で現在、インストラクターとして後身の指導をしている中庭健介氏は「今回のジャンプの失敗は、明らかに練習不足が影響していたと思う」と指摘した。


「4回転サルコウは、元々公式戦での成功率は高くなかったが、今回はジャンプへの入り際、浮き際がまずかった。手を締めて回転の体勢に入るのが遅かった。4回転トゥループは、浮いた後に重心が背中、踵に移ってしまったのが原因でしょう。ただショート、フリーを通じて、大きな進化、変化が見えたと思います」


中庭氏はV2を逃した演技の中に隠れた進化があったと言うのだ。




「ショートの演技を見たときに『あらっ』と驚くほど、動きの質がシャープに鋭く変わっていたんです。プログラムの楽曲の中には、ジャーンとかバーンというアクセントのある音があって、その音にあわせて、手を上げたり、ふっと浮いたりという動きがあるのですが、そこがシャープになっていたんです。動きに幅が生まれ、腕が5センチほど長く見える錯覚があったほどです。
 元々スケーティングや、スピンの評価は、抜けている選手ですが、表現力につながる動きの質、レベルが変わりました。ジャンプを失敗したフリーではどうなるのかと注視していましたが、その動きのシャープさはキープされていました。まるで新しい羽生選手を見ているような印象を持ちました。
 おそらく今季は怪我とアクシデントで次の試合に間に合わせることだけに神経と時間を使い、氷に乗れない時間も多かったと思うのですが、その時間を利用して、滑らなくともできる動きの部分を磨いたのではないでしょうか」


昨年11月に、この同じリンクで行われたGPシリーズの中国杯での6分間練習中に中国のエンカン選手と激突して、頭部挫創、左太もも挫傷など計5カ所に重症を負った。それでも試合出場を続けてきたが、再びアクシンデントに襲われ、満足に練習のできない状況が続いたが、その中で隠れた進化、変化を遂げていたのだ。


 探究と努力を怠らぬ羽生らしいエピソードだが、それこそが羽生の強さの秘密であり金メダリストとしてのプライドであり使命感なのだろう。


「ただ……最後まで……このリンクで(シーズンの)最後まで滑りきることができたのは良かった。山あり谷ありで、良かったり悪かったりの繰り返しでしたが、いろんなことを経験できたスケート人生だけでなく、僕の人生の中でも生きてくると思います。(来シーズンへ向けて)体も作りなおさなければならないとも思った」


 今シーズンの総括を羽生は、そんな言葉で締めくくった。


今季テーマに掲げながらできなかったショートの演技後半での4回転、フリーで3つの4回転ジャンプを入れるという難解なプログラムへの再挑戦は、来季への持ち越しになった。だが、度重なる故障でメンタルが鍛えられ、たくましくなり、《表現力》という隠れた進化を遂げてきた羽生ならば、再挑戦をクリアして、ライバルたちがの手が届かない、さらなるステージへ向かいそうである。


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