「あなたは珈琲嫌いなんだろう。しかし苦いだけの珈琲を飲んでいて、嫌いというなら同意できる。どうですか、私が珈琲の認識を変えて見せましょう」
「嫌だね、私は高度資本主義の成長と一緒に不眠を促しているコーヒーがにくいね。コーヒー豆がごりごりと粉砕されるところを見ると、心の中が冬の空くらい晴れ晴れするくらいだ」
「本当かね、私もそれを見ていると心が揺らぐ、それでは一緒に珈琲の味の旅についてきてくれるか?」
コーヒー嫌いの男はちょうどコーヒーカップがちょうど入りそうなくらい口をぽかんと空けている。
かくしてコーヒーの短い旅が始まった。
私たちは神保町の豆香社に足を運んだ。
店に入ると目の下に大きなクマを付けた店員がカップを磨いていた。
コーヒー好きは六つほどコーヒーを注文し、口を開いた。
「珈琲には苦味と酸味しかないといわれているが、焙煎とその豆の持つ酸味がうまく合わさると甘く感じるのだ」
「僕はそういった珈琲が好きである」
しばらくコーヒー好きの談義が続き、お会計にとコーヒー好きが立ったとき異変が起こった。
クマを付けたコーヒー屋の店主は会計を受け取らず、一番うまいコーヒーを持ってこいというのだ。しかも私にである。
次回に続く