事代主命(ことしろぬしのみこと)はスサノオの息子である大国主命(おおくにぬしのみこと)の息子です。
八重言代主神、八重事代主神(やえことしろぬし)ともいいます。
「ことしろ」というのは「言知る」という意味で、託宣を司る神様です。
神託を受けるシャーマンの機能を神格化したような神様です。
元々「言(こと)」と「事(こと)」は同じ意味でした。
「言」には事実と同じように重い意味があったようです。
「言葉(ことば)」は「言(こと)」に「端(は)」が合わせ、より軽い意味を持たせた形になります。
「言葉」「言羽」「辞」「詞」は全て軽い意味を持っているそうです。
大国主命は出雲大社の祭神として有名ですが、事代主命は元々葛城(奈良県西部)で祀られていた田の神でした。
一言主(ひとことぬし)という託宣の神の神格の一部を受け継いで、託宣を司るようになりました。
一言主と事代主が同じ葛城の神であり、名前も類似していることから同一神とする見方もあるようです。
奈良県御所市には事代主を祀る鴨都波神社(かもつばじんじゃ)という古社があります。
ここが事代主の最初の本拠地と言われており、全国の鴨(賀茂・加茂)という名の付く神社の起源になります。
鴨というのは葛城一帯を支配していた豪族賀茂氏の事です。
この地から木津川・淀川系(溝咋神社・三島鴨神社等)、出雲(美保神社等)、三島(三嶋大社等)へと広がっていったそうです。
賀茂氏は代々事代主を氏神としていたので、その勢力の拡大と共に広がっていったのかもしれません。
事代主がなぜ金運の神様になるのかというと事代主が釣り好きだったことから、海に縁のある「えびす神」と同一視されているからです。
えびす信仰の総本社は兵庫の西宮神社ですが、えびす信仰の広がりとともに元々事代主を祀っていた松江市の美保神社は似た性格を持つえびす神と同一視するようになりました。
逆のパターンもあり、大阪の今宮戎神社は元々えびす神を祀っていましたが西宮のえびす神と差別化を図るため今宮のえびす神を人気のある事代主としたそうです。
これはおそらく室町時代後半と言われています。
それから大阪周辺に事代主を福の神として祀る神社が広まっていきました。
えびす神は七福神の一人として有名ですが、その中で唯一日本古来の神です。
他の6神は全てインドや中国に起源があります。
えびす神は古くから信仰されている神でありながら記紀には登場してこない為、記紀の中で同一の神を探し出す説がいくつもあります。
事代主説もその一つですが、もう一つ主流なものが「蛭子命(ヒルコノミコト)」説です。
蛭子命(水蛭子、蛭子神)はイザナギとイザナミとの間に産まれた最初の子です。
不具の子であったためオノゴロ島から海へ流されてしまいました。
流された蛭子命が流れ着いたという伝説が各地に残っており、海の向こうからやってくる海神としてのえびす神と同一視されるようになりました。
えびす神を蛭子命としている神社もたくさんありますが、その代表的なものが西宮神社になります。