いつも通り名前は

"櫻井 あず"で進めてまいります・・・・


なにとぞ、ご理解くださいませ・・・・



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京橋さんのマンションから帰宅して、お風呂に入った。

湯船に浸かりながら、そっと唇に触れてみる。


(私、どうして抵抗しなかったんだろう。素直にキスを受け入れてしまうなんて、どうかしてる・・・・)


京橋さんとの出来事をなるべく客観的に考え、整理整頓しようと試みる。

でも、すぐにキスの感触が蘇ってまた混乱する・・・・。

そんなことを何度も繰り返していた。









警視庁特命二課では、翌日も京橋さんの疑いを晴らそうと、みんなで材料を探した。

でも、なかなか思うように出てこない。


八千草 『困りましたね。まったく手がかりが掴めないなんて』


浅野 『さすが知能犯』


天王寺 『今頃犯人は俺たちの無能さを笑っとるで』


花井 『ボス、鑑識の木村から何か報告はありませんか?』


桐沢 『いや、まだ入って来ていない。木村も気にかけて動いてくれてるんだが、現時点では犯人になかなか辿り着けないようだ』


あず 『監視カメラに姿は映ってるのに、どこの誰だか分からないなんて・・・・』


みんながため息をつき、二課は重い空気に満ちていた。









犯人の手がかりが掴めないまま、私は公休に入った。

せっかくの休みだから、遊んだり休んだりしたい・・・・。

と思いつつも、頭の中は事件のことでいっぱい。

それに、相変わらず、京橋さんの自宅謹慎は解けていない。


(自宅に行ってから一度も連絡していないけど、捜査の進展、心配してるんじゃないかな・・・・)


私は携帯を手に、電話しようと思った。

が、ふと手を止める。


(電話だとややこしいな。直接会って話したほうがいいんだけどな・・・・とは言え、また家に行くのはどうなんだろう・・・・あ、もしかしたら日替わりの彼女と出掛けてるかも。今日は彼女のいる曜日だし・・・・でも・・・・)


あず 『あー、もう嫌になってきた!』


私は頭をぷるぷると振った。


あず 『こうなったら行っちゃおう!だって仕事の大事な用件だもん!!』


私はこれ以上考えないように、さっさと出かける準備をした。









京橋さんの家の玄関前に立ち、ベルに手を伸ばす。


(突然来たこと、どうか怒られませんように)


深呼吸をしてベルを押した。

ピンポーン

しばらくしてドアが開いた。


京橋 『いらっしゃい』


にこやかに迎えられ、逆に驚いた。


京橋 『どうしましたか?さあ、入ってください』


あず 『あの、突然すみません。事件の進展とか気になってるだろうなと思って・・・・』


京橋 『実は私もそれに関して興味深いことが分かり始めてきたのです』


あず 『興味深いこと?』


京橋 『はい。さあ、どうぞ?』


京橋さんは中に入るよう、手で促した。






京橋 『櫻井さん、ソファーにかけていてください。コーヒーでよろしいですか?』


あず 『どうぞお構いなく』


京橋 『そうは行きません。せっかくいらしてくださったのですから』


京橋さんは手際よくコーヒーメーカーをセットした。


あず 『お体の具合はいかがですか?』


京橋 『お陰様ですっかり良くなりました』


あず 『それはよかったです。安心しました』


京橋 『それにしても櫻井さん、せっかくのお休みの日に私の家に来るとは大胆ですね』


あず 『え・・・・』


(確かに、いきなり彼氏でもない男性の家を訪れないよね、普通・・・・まして女好きとわかってる京橋さんの家だし・・・・)


あず 『暇だし、京橋さんの病気も心配だったから・・・・』


京橋 『理由はそれだけですか?』


あず 『はい』


京橋 『妙に優しいですね。何か企んでるのですか?』


あず 『そんなことあるわけないじゃないですか。考えすぎです、考えすぎ!』


京橋さんはクスクス笑うと、カップにコーヒーを注ぎ始めた。


あず 『それより、もしお出掛けになるようだったら仰ってください』


京橋 『何のことですか?』


あず 『だって今日は彼女のいる曜日ですし・・・・』


京橋 『自宅謹慎中に彼女と会うわけにいかないじゃないですか』


あず 『・・・・・・』


(ちゃんとそういうとこ、守ってるんだ)


京橋 『前にも話したとおり、私は自宅に彼女を入れない主義ですし』


あず 『どうして入れないんですか?』


京橋 『面倒を起こされたくないからです。他の曜日に来られたりでもしたら大変ですから』


あず 『用意周到なんですね』


京橋 『でないと、日替わりで付き合ったりできません』


あず 『そ、そうですか・・・・』


(ここまで堂々とされると、反論する気も起きない・・・・)


京橋さんはコーヒーカップを手に隣に座った。


京橋 『どうぞ』


あず 『ありがとうございます。いただきます』


コーヒーに口をつけてほっとしたところで、話を切り出した。


あず 『捜査の進展なんですが、なかなか思うように進んでいないんです』


京橋 『なにやら私と犯人は靴のサイズも一緒とか』


あず 『はい。靴の付着物も調べたんですが、これといった手がかりがなくて』


とそのとき、京橋さんの携帯が鳴った。


京橋 『ちょっと失礼します』


そう言って、電話に出た。


京橋 『はい、京橋です。お疲れさまです・・・・・・なるほど、やはりそうでしたか・・・・はい・・・・はい・・・・分かりました。やってみます』


電話を切ると、京橋さんはソファーを離れ、パソコンに向かった。


京橋 『櫻井さん、すみませんが一件調べさせてください』


あず 『え?あ、はい。どうぞ』


何のことか分からないけれど、承諾する。


京橋 『電話は、鑑識の木村さんからでした』


あず 『連絡、取り合ってたんですか?』


京橋 『はい。彼とは謹慎中もやり取りしてまして。一緒に犯人を探ってるんです』


あず 『そうだったんですか』


京橋 『さっき、興味深いことが分かり始めてきたと、あなたに申し上げましたが』


あず 『はい。気になってたんです!』


京橋 『実は、木村さんと探った結果、銀行のATMと信号のネットワークは外部から書き換えられていたことが分かったのです』


あず 『外部?でもサーバールームの鑑識カメラに犯人の姿が・・・・』


京橋 『確かに犯人は忍び込んだのですが、その場でシステムを書き換えたわけではなかったのです』


あず 『えっと・・・・すみません。話がよくわからないんですが』


京橋 『つまり、別の場所で書き換え、わざわざ私を犯人に仕立てるために、サーバールームに忍び込んでみせた、というわけです』


あず 『わざと監視カメラに映ったってわけですか?』


京橋 『はい。これは稚拙な罠なのです。もっぱら、警視庁の上層部はいまだに私を疑っているようですが』


京橋さんは鼻で笑うと、すごい速さでキーボードを打ち始めた。


(罠・・・・。でもどうして京橋さんが罠に?)


解せないままコーヒーに口をつけた。


京橋 『櫻井さん、申し訳ありません。せっかく来ていただいたのにお相手できず・・・・』


京橋さんがパソコンに向かったまま謝ってきた。


あず 『あ、いえ。私のことはお気になさらずに』


京橋 『そう仰られましても・・・・。なるべく急ぎますのでお待ちください』


あず 『・・・・はい』


京橋 『なんなら、お笑いのDVDでも観ていてください』


(暇だし、観ようかな?)


あず 『じゃあ、お言葉に甘えて・・・・』


DVDをセットしてお笑いを観始めた。




クククッ、クククッ

京橋さんが笑い出した。

(笑ってるってことは仕事に集中できてないってこと?)


私はDVDを止めた。


京橋 『え、なぜ止めたのですか?』


あず 『京橋さんが仕事に集中しているのに私だけ見るのは・・・・』


京橋 『気を遣ってくださってるのですか?』


あず 『いちおう』


京橋さんはキーボードを打つ手を止めて、私を振り返った。


京橋 『ずいぶん、かわいいところがおありなんですね』


あず 『か、かわいい?なに言ってるんですかっ!?』


私はぷいっとそっぽを向いた。

自分なりに平然を装ったつもりだった。

が・・・・。


京橋 『素直じゃないところが余計にかわいいですね』


京橋さんには見破られていた・・・・。


あず 『バカなこと言わないでください!』


京橋 『そういうひねくれたところ、計算ずくですか?』


あず 『違います!』


京橋さんは、ムキになる私をちらっと目の端に捉えると小さく笑った。







京橋 『ようやく突き止めました・・・・』


しばらくして京橋さんがつぶやいた。

私はソファーを離れ、パソコンの脇に立った。


京橋 『ネットワークを書き換えた時の発信元がわかりました』


あず 『どこですか?』


京橋 『A大学のセミナーハウスです』


あず 『それって売春組織の聞き込みで行った大学ですよね?』


京橋 『偶然にもそうなんです』


あず 『ってことはまさか、学生が犯人?』


京橋 『十分ありえます。今現在もセミナーハウスから、各省庁や大企業などのコンピューターに侵入しようとしている形跡が見られます』


あず 『侵入?』


京橋 『こうなったら真犯人を見つけて上層部に突きつけてやりますよ』


あず 『真犯人を見つけるって、どうやって?』


京橋 『決まってるじゃないですか。セミナーハウスに行きます』


京橋さんは椅子から立ち上がった。


あず 『待ってください!今、謹慎中じゃないですか。独自捜査は禁止されています!』


京橋 『禁止だからといって動かないでいられますか?犯人をこのまま野放しにしていいのですか?』


あず 『早く犯人を捕まえたい気持ちは分かります。でも謹慎中だということを忘れないでください!』


京橋 『申し訳ありませんが、それでも行かせていただきます』


京橋さんはきっぱり言うと、出掛けようと一歩踏み出した。


あず 『ダメです!』


私は京橋さんの行く手を阻んだ。


あず 『絶対に行かせません!』


京橋 『そこをどいてください』


あず 『どきません!』


京橋 『櫻井さん、お願いですからどいてください』


あず 『だったら・・・・私も連れて行ってください。それならばどきます』


頑なな京橋さんに、最後は私が折れた。


あず 『どうしますか?連れて行ってくれますか?』


真顔で問う私に、京橋さんはふっと笑った。


京橋 『ありがとう』


(え・・・・)


いきなり素直になられて、一瞬怯んでしまった。


(なんかずるい。いつも不意に素直になるんだもん。認めたくないけど、ぐっときちゃうじゃん・・・・)


言葉を返さないでいると、京橋さんが私の顔を覗きこんだ。


京橋 『今、私に惚れましたね』


あず 『!?』


惚れる?

悔しいけど・・・・否定できそうにない。


京橋 『図星ですね』


でも認めるわけにいかなくて、突っぱねる。


あず 『こんなことで惚れる私じゃありませんから。そんなに私、簡単じゃありませんから!』


京橋 『強がってるんですね。認めてしまえば楽になれるのに』


あず 『嫌です、絶対に嫌です、認めるなんて!』


京橋 『そんなに意地を張るってことは、惚れてることの裏返しです!』


あず 『違います!』


京橋 『自分に素直になれないなんてかわいそうな人ですね』


あず 『もう、ほっといてください!』


京橋さんは全然素直になれない私を鼻で笑った。


京橋 『まあいいでしょう。さあ、とにかく急ぎましょう。私が車を出します』


京橋さんはお財布や車のキーをポケットに入れ、準備を整え始めた。

その背中を見ながら、私は必死に訴える。


あず 『あの、とにかく惚れてませんから!』


京橋 『またその話ですか』


あず 『信じてください!』


京橋 『・・・・・・』


あず 『誤解ですから!』


京橋さんはジタバタする私を振り向くと、含み笑いをした。


あず 『っもう!!』


一瞬でも京橋さんいぐっと来てしまった自分を怨みたくなった。


京橋 『さあ、行きますよ』


私は京橋さんと家を後にし、犯人の潜むセミナーハウスへと向かった。