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私たちは大急ぎで、大井競馬場近くにある廃墟を目指していた。
”大井””廃墟”のキーワードを出して、天王寺さんが揺さぶりをかけると、
あの若者は動揺し、あっさりと堺警視監の監禁場所を吐いたという。
みんなとは現地で待ち合わせている。
あず 『・・・・ちょっと意外でしたね』
桐沢 『堺警視監のことか?』
あず 『はい。さっきの女性の話だけ聞いてると、悪いことなんかしそうにない人みたい』
桐沢 『人間なんてそんなもんさ。”100%悪人”なんていない。”100%善人”もな。誰にだって、いい心も悪い心もある。その中からなにを選び取って行動するか・・・・・・その違いだけだろ』
あず 『そうですね・・・・』
悪いことをしたから、その人のすべてが悪・・・・っていう簡単な測り方ができるほど、人間は単純にはできてない。
あず 『・・・・堺警視監の良心が、結果的にこういう形でご自分を助けたんですね』
厄介なことに首を突っ込むなんてまっぴら、という人が多いこのご時世・・・・
もしも堺警視監が普段あの女性に親切にしてなかったら、
あの人だって、知らん顔していたかもしれない。
それどころか、注意すら払わずに見過ごしていたかも。
そしたら・・・・今頃私たちはまだ、堺警視監の家の前でウロウロしていたはず。
あず 『あの人を助けたから・・・・今度はあの人に助けられた』
桐沢 『そうだな』
あず 『だからって、堺警視監のしたことは許されないですけどね』
桐沢 『ああ』
あず 『とにかく、全員捕まえなきゃ!』
桐沢 『もちろんだろ』
パトカーは廃墟から少し離れた路地に滑り込む。
そこにはもう、他のメンバーが揃っていた。
路地に集まって突入の手順を打ち合わせる。
桐沢 『天王寺と京橋は西側、花井と八千草は東側。俺と櫻井は裏口から突入する。浅野と一課の3人は正面の逃走経路を抑えてくれ』
一同 『はい!』
桐沢 『中に居る奴らは全員、銃を持ってると思った方がいい』
最後に、全員で腕時計の時刻を秒単位で合わせる。
桐沢 『今からちょうど10分後ジャスト、一斉に突入だ。気を抜くんじゃないぞ。いいな』
一同 『はい!』
私たちはそれぞれの持ち場に向かった。
銃を構えて、裏口の壁際に背中を押しつけるように並んで立つ。
桐沢 『・・・・あと5分か』
あず 『はい』
桐沢 『俺が鍵を撃って先に入るから、お前は後ろから来い。隣に並ぶんじゃないぞ』
あず 『・・・・・でも』
桐沢 『これはお前が女だから言ってるんじゃない。想定外のことが起こった時に、共倒れになるわけにはいかないんだ』
あず 『でもそれじゃあ桐沢さんが・・・・・』
桐沢 『突入に不慣れな人間を先に行かせるバカがどこにいる?分かるだろう?』
あず 『・・・・・分かります』
桐沢 『よし、いい子だ』
桐沢さんはちょっとおどけて私の頭をくしゃっと撫でた。
・・・・・・・分かってる。
理屈では分かっているけれど、胸がモヤモヤする。
命が惜しくないといえば、嘘になる。
一瞬でも油断したら、撃たれる。
私の前には、私の盾になるように桐沢さんがいて、
ドアを一枚隔てたその先には、銃を持った人たちがいる。
開ければすぐそこに、銃口が待ち構えているかもしれない。
桐沢さんがそれに晒されるのだと思うと、たまらない気持ちになる。
怖くて体が震えた。
桐沢 『・・・・・櫻井』
桐沢さんが、前を見据えたまま口を開く。
あず 『・・・・はい・・・・・』
桐沢 『俺は・・・・』
あず 『・・・・・・・』
(・・・・・な、何・・・・・?)
心臓が破裂しそうなくらいドキドキいっている。
私はじりじり背中を焼かれるような思いで、桐沢さんの横顔を見つめた。
桐沢 『・・・・・・・・・・・・・だからどうするとか・・・・俺にはまだ言えないけど・・・』
あず 『え・・・・?』
桐沢 『・・・・いや・・・・・』
桐沢さんは思い直したように首を振って、口を結んだ。
腕時計を見下ろして呟く。
桐沢 『・・・・あと3分だな』
あず 『・・・・桐沢さん・・・・』
(さっき言いかけたことは何・・・・?)
あず 『・・・・あ、あの・・・・全員無事に帰りましょうね』
桐沢 『・・・・ああ』
あず 『絶対ですよ』
祈るような思いで、言い募る。
無意味だと分かってはいても、みんな無事に帰れるっていう保証が欲しかった。
桐沢 『ああ、約束する。約束するから・・・・無鉄砲な真似だけはするなよ。ちゃんと俺の後ろをついて来い』
あず 『・・・・・・・・』
桐沢 『俺も約束する。だからお前も約束してくれ』
あず 『・・・・・分かりました。破ったら承知しませんからね・・・・』
桐沢さんはほほ笑んで、また前方に視線を戻した。
突入まで、あと1分・・・・・
あず 『・・・・・・・』
桐沢 『・・・・・・・櫻井』
桐沢さんが突然、思い切ったように振り返った。
ふわっと風が起こったかと思ったら、桐沢さんの唇が、
私の唇に触れた。
(え!?)
突風みたいなキス。
唇はすぐに離れ、桐沢さんもクルリと背中を向けた。
桐沢さんは何事もなかったかのように前方を見据えたまま、
独り言みたいにささやいた。
あず 『・・・・・き、桐沢さん・・・・私・・・・・』
私も、桐沢さんが好き。
桐沢 『いい、何も言うな』
あず 『・・・・桐沢さん・・・・』
桐沢 『俺も・・・・これ以上は言えない』
あず 『・・・・・・はい』
俺とお前は、上司と部下。
声に出さずとも、桐沢さんがそう言いたいのがわかる。
それが・・・・・桐沢さんと私の立場。
だけど、それでも好きだと言ってくれた。
胸の奥から、力が涌いてくるのが分かった。
桐沢 『・・・・時間だ。下がれ』
あず 『はい』
桐沢 『行くぞ』
そう言って、桐沢さんは鍵に向かって発砲する。
あず 『はい!』
勢いよくドアが開く。
私は桐沢さんの背中を追って、中に突入した。
やっと告白してくれた~(-^□^-)
ハピエンなら付き合えて、
ノマエンだと、やっぱり上司と部下のままで・・・・
ってなるんだろな~