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木村 『櫻井さん、帰ってきてからどこにも触ってない?』
あず 『はい。何歩か歩いただけで、ドアノブ以外には一切触れてません』
木村 『申し訳ないけど、盗まれたものがあるかどうかは指紋採取が済んでからにしてもらうよ』
あず 『はい。全部終わってからで大丈夫です』
木村 『・・・・・なんか、落ち着いてるね』
あず 『そ、そうですか?』
木村 『櫻井さんくらいの年頃の女のコだったら泣き出しちゃいそうだけど?』
あず 『私は、刑事ですから』
木村 『うん。確かに、しっかりした刑事だね』
あず 『え・・・・?あ、ありがとうございます!』
(桐沢さんのおかげだ・・・・)
桐沢 『二課の桐沢だ。入るぞ』
鑑識官 『お疲れ様です、どうぞ』
おもてから桐沢さんと鑑識官のやり取りが聞こえた。
警察手帳を懐にしまいながら、桐沢さんが入ってくる。
あず 『桐沢さん!』
桐沢 『櫻井、大丈夫か?』
あず 『はい!』
桐沢 『それで、犯人の手がかりは?』
木村 『指紋とゲソ痕(足跡)の採取中です』
桐沢 『足が着くような痕跡は、なにひとつ残していない可能性が高いからな・・・・・・近所の監視カメラのデータ分析も進めてくれ』
木村 『はい』
素早く現状を確認しつつ、テキパキと現場を指揮していく桐沢さん。
(私も、怯えてなんかいられない・・・!)
木村 『櫻井さん。こっちで事情聴取お願いします』
あず 『はい!』
鑑識や所轄の警官たちが去った後、ひとりで自分の部屋を眺める。
いつもの面影は、まるでない。
無くなったものは何もなかった。
ただ、これをどうやって片付けたらいいのか・・・・
思わずため息が零れた。
桐沢 『・・・・・・櫻井?』
あず 『え?あ、桐沢さん。帰られたんじゃないんですか?』
桐沢 『・・・・・・今夜は、ウチに来い』
あず 『え・・・・?』
桐沢 『この状況じゃ、ゆっくり寝れないだろ』
あず 『で、でも・・・・』
桐沢 『ほら、準備して来い。俺は下で待ってるから』
あず 『はい・・・・ありがとうございます』
桐沢 『ほら。遠慮すんな』
あず 『・・・・・お邪魔します』
促されて中に入る。
ガチャッと鍵のかかる音がした。
・・・・正直、ほっとした。
家からここに到着するまで、誰かに狙われている、
誰かに見られているという恐怖心が、ずっと消えなかったから。
思わず、深いため息が漏れる。
桐沢 『・・・・・櫻井』
ふわっと、桐沢さんが私を抱きしめた。
桐沢 『よく頑張ったな』
あず 『・・・・・桐沢さん・・・・』
桐沢さんの手が、トントンと背中を叩く。
桐沢 『怖かったろ?』
優しい声。
あず 『・・・・はい・・・・怖かった、です・・・・』
言ってしまったら、堪えていた涙が一気に頬を伝った。
桐沢 『・・・・櫻井・・・・』
あず 『・・・・・』
グスッと鼻をすすると、桐沢さんはぎゅうっと私を抱く腕に力を込めた。
桐沢 『こんなに震えて・・・・俺のせいだな』
あず 『ち、違います、桐沢さんのせいなんかじゃ・・・・・!』
焦って顔を上げる。
桐沢 『いや、堺警視監は櫻井を狙うことで、俺に揺さぶりをかけたんだ』
苦々しく言い捨てる。
桐沢 『悪かった・・・・櫻井』
桐沢さんはそう言うと、指で優しく頬に伝う涙を拭った。
あず 『・・・・桐沢さんのせいじゃありません』
桐沢 『・・・・ありがとう』
切ない目をして、消え入りそうな声で囁く。
あず 『・・・・・・』
桐沢 『・・・・・・』
桐沢さんの瞳に、私が映っている。
何か言いたい、でも、何か言ったら気持ちが溢れてしまう。
そんな空気が、2人を包んでいた。
桐沢 『・・・・もう、こんな時間か』
振り切るように目を逸らして、桐沢さんが呟く。
つられるように時計を見上げると、時刻は2時を差していた。
桐沢 『ホラ、とっとと風呂入って寝ろ』
わざとらしいくらい明るく、桐沢さんは言った。
あず 『・・・・今日は停電しませんよね?』
私もわざと明るく返す。
桐沢 『可能性はあるな・・・・懐中電灯くらい準備しとくか』
あず 『あるんですか?』
桐沢 『ない』
あず 『・・・・即答ですか!』
桐沢 『あ、アロマキャンドルならあるぞ』
あず 『・・・・見かけによらず乙女チックですね』
桐沢 『アホか。結婚式の引き出物だ!』
あず 『アハハ。じゃあ、お風呂お借りしまーす!』
おどけて、バスルームに向かう。
一刻も早く、身体に染み付いた恐怖を洗い流してしまいたかった。
(・・・・眠れない・・・・・)
私は何度目かの寝返りを打って、ため息をついた。
目を閉じると、血で書かれたかのようなあの警告文が、まぶたにチラつく。
何枚毛布を重ねても、震えが止まらなかった。
(・・・・お水もらおう・・・・)
私は起き上がって、そろりとベッドを出た。
桐沢さんはリビングのソファで寝ているはず。
いくら私がソファで寝ると言っても、聞き入れてくれなかった。
桐沢さんをおこさないように、そっとドアを開ける。
あず 『あれ?』
リビングには明かりがついていた。
ソファに腰掛けていた桐沢さんが振り返る。
桐沢 『・・・・櫻井?どうした、寝たんじゃないのか?』
あず 『・・・・桐沢さんは、寝ないんですか?』
桐沢 『ああ、コレ飲み終わったらな』
そう言って、カラカラと氷の入ったグラスを揺らす。
テーブルを覗き込むと、焼酎の瓶と、分厚い捜査資料が見えた。
あちこちに付箋が貼られ、マーカーで線が引かれていた。
あず 『・・・・仕事ばっかりしてないで、寝て下さい』
桐沢 『お前こそ。早く寝ろ』
あず 『私は、ちょっと喉が渇いただけです。さっきまで爆睡してましたもん』
桐沢 『・・・・・』
あず 『焼酎、美味しそうですね』
桐沢 『飲むか?』
あず 『いいんですか?』
桐沢 『1杯だけならな』
あず 『やった!』
桐沢 『でも、1杯飲んだら、ちゃんとベッドに入れ』
あず 『は、はい・・・・』
桐沢 『・・・お前が寝付くまで、傍に居てやるから』
あず 『・・・・・・』
桐沢 『・・・怖くて、眠れないんだろ?』
あず 『え・・・・?』
桐沢さんは、全部お見通しみたいだった。
桐沢 『大丈夫だ。もうあんなことは起こらない。俺が傍にいる』
ふわりと、桐沢さんの大きな手が、私の頭を包む。
手の温もりに、ふいに涙が溢れる。
桐沢 『安心しろ。もう怖いことなんて、なにもない』
あず 『・・・・はい』
桐沢 『俺の前では、我慢しなくていいから』
あず 『・・・・はい』
涙は、もう止めることができなかった。
桐沢 『俺に、甘えろ』
あず 『・・・・はい』
ベッドに入ると、桐沢さんは脇に腰かけて手を握ってくれた。
ドキドキしてもいいシチュエーションだけど、
不思議と心臓は落ち着いていた。
あず 『・・・・・』
桐沢さんの顔を見上げる。
桐沢 『・・・どうした?』
桐沢さんは、穏やかに笑った。
見る者を安心させるような、包み込むような、力強い笑顔。
まっすぐな瞳。
あず 『・・・いえ・・・・』
安心感が胸に広がって、ふっと全身の力が抜けた。
あず 『桐沢さん・・・・』
桐沢 『ん・・・・・・?』
あず 『ありがとうございます・・・・・』
桐沢さんは何も言わずに、もう片方の手で私の髪を撫でた。
誘われるように、目を閉じる。
桐沢さんの手の温もりを感じながら、深い眠りにつく。
もう、あの赤い文字は蘇ってこなかった・・・・。
「俺に甘えろ」だってぇ~(*^▽^*)
大人の男のセリフですねぇ☆
言われてみたいですねぇ☆