無 念 | 「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽  

「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽  

かけがえのない大切な時の流れ・・・
心の窓を開いて望む一瞬の風景を、優しい言の葉で綴ります。



数日前のご葬儀のこと。ご出棺を見送る際に、ご遺族が皆さんに対して

ご挨拶をなさいました。その式場は、建物の1階部分がエントランスと駐車場に

なっており、まるで外というわけではないので、少しは風の遮りもあるのですが

とにかく風が冷たく時おり小雪も混じる中、マイクを持って話し始められた

ご遺族の挨拶が、ち~と長く(汗)、じっと立って待つ背中に突き刺さるような

風の勢い。その日の夜、珍しく発熱感があり、ふーふー言いながら眠れない

一夜でございました(++) 夜明け前には汗だくになって着替え、幸い翌日は

お休みだったために午前中は熟睡 ぐぅぐぅ 幸い、大事には至らなかったものの

咳と鼻声に苦しむ今日この頃 あせる 司会者としては最悪のコンディション ダウン



新しい年を迎え、希望に胸膨らませる中にあっても、病気や事件事故によって

尊い命が終わりを迎える場面は、時を選びません。

学生時代はあるスポーツの選手としてもご活躍。社会人となられてからも

大手企業のトップセールスとしても力を発揮し、海外勤務や長期出張も

精力的にこなし、多くの人々の尊敬と信頼に包まれて歩んでいらした男性に

襲いかかった病魔は癌でした。40代半ばの、最も働き盛りの頃に発症し

その後も辛い治療に耐えながら8年あまりも闘病なさり、最期まで頑張り

とうとうご家族に感謝のメッセージを残して、静かな眠りに就かれたのでした。

式場に設けられたメモリアルコーナーには、ご家族との思い出の写真が

まとめられた数冊ものアルバムをはじめ、会社の同僚やご友人と楽しそうに

笑う写真をパネルにして、展示してありました。さらには、病床で描き綴られたと

いうイラストや詩の色紙も数多く並んでいます。私が思わず手にとって

拝見したのは、奥様の誕生日にお祝いとして描かれたのでしょう・・・

「おめでとう!何もしてあげられないから、この絵のキャンディーで我慢して

くださいね。」と、箱の中に入った飴をリボンで結んだイラストには

「Happy Birthday to You」と、優しく添えてありました。


今年、大学受験を控えた一人息子さんには、「がんばれ!」と家族全員で

笑って応援しているイラストを残していらっしゃいました。そして彼が、先日

臨まれたセンター試験のわずか数日後、合格を信じて逝かれたのでした。

きっとご自身が歩まれた大学時代の武勇伝や、その後の人として男として

積み重ねてこられた経験談などを、息子さんにたくさん話して聞かせたいと

楽しみにしておられたでしょうし、絶対治ると信じながらも残された時間が

それほど多くはないと悟られた頃からは、病室での父と子の会話の中に

伝えておきたい生き方のアドバイスを、盛り込んでいらしたかも知れません。

遺族謝辞の際に、故人の弟さんが最期に兄弟で交わされたと言う内容を

語ってくださいました。

「世の中には、わざわざ自分で命を絶つ者もおる。まだ生きられる命を

 もらえるものなら、オレに譲ってほしい。代わりに精一杯生きてやる。

 まだ、やりたいことがたくさんあるんだ。なんでオレがこんな病気で

 死なないかんのか?頑張ってきたけど、もう疲れた・・・。」

「そうだな。必死で生きたくないヤツラの命をもらえるもんなら、兄貴は

 もっと仕事も頑張るし、家族の将来も見届けることができるもんな。

 でも、弱気になるな。まだ死ぬのは早かろうが!もうちょっと頑張れよ。」


頑張り尽くした兄に、さらに頑張れと声をかけることが、どれだけ残酷で

切ないものであったか、弟さんの震える声から痛いほど伝わってきました。

逝きし人の無念を、残されたご家族やお仲間が代わりに晴らすべく

故人の分までも与えられた命を大切に生きることを、あらためて誓われる

ひとときとなったことでしょう。


別日、60代初めの男性のご葬儀。ご遺影の笑顔は、なぜか見覚えが

あるような気がしてなりませんでした。打ち合わせに同行された勤務先の

関係者の男性にも、以前お会いした記憶があります。一昨年秋に担当した

ある男性のご葬儀の際に、弔辞や弔電の確認などにお力添えをして

くださった方でした。通夜を済ませ、帰宅して当時の施行資料を確認して

みると、意外な事実に私もちょっと驚いてしまいました。なんと前回のご葬儀で

友人代表の弔辞を読んでいらしたのが、今回の故人だったのです。

死亡診断書によると、この男性は3年ほど前に癌を発症しその転移によって

命尽きてしまわれたのですが、そうすると当時はすでに治療中の身でありながら

その場に立っておられたということになります。急逝されたご友人のご葬儀で

その功績を力強く讃え、後を引き継ぐと述べられたその胸中は、どのような

お気持ちであったのでしょうか・・・。80代や90代の高齢まで生き抜かれた

方々に、無念がないと言えば嘘になると思いますが、やはり若くして道半ばで

人生の幕を閉じ逝かれる故人の思いは、それぞれに強く深いものだろうと

想像できます。


どうか、今を未来を生きることにちょっぴり疲れてしまい

自ら絶とうなどと思ったりしている人がいるならば、知って欲しいのです。

私たちが当たり前のように生きている今日と言う日を

生きたいと願いながらも、叶わなかった人がいることを・・・。

一日でも長く生きて、いろんなことに挑戦したり大切な人を愛したり

誰かの支えになってあげたいと思いながらも、瞳閉じ逝く人がいることを・・・。



「窓辺の風景」 ・・・喜・想・哀・楽