(side S)
3月某日。
芝生に並んで座って、公園を駆け回る小学生を見ることもなく見てた。
平日、午前11時。
普段だったらふつーに学校行ってる時間。
未知の感染症が世界的に流行って、予防のために全国の学校が一斉休校になる、っていう、どっかの下手なSFみたいな話で、
春休みが終わるまで学校がなくなった。
別にずっと家にいなきゃいけないってわけじゃないんだろうけど、おおっぴらに遊びに出ることも憚られて、
なかなか、一緒に出かけることもなかったわけで…。
小学生のころはほとんど一緒だった、隣の家に住むニノとも、中学受験した俺とそのまま公立に進んだニノとでは生活範囲も変わって、遊ぶ友達も変わって、
それでも登下校は一緒にしてて。
それも、この休校騒ぎで途切れてて。
今、人生で1番ニノと会ってない気がする、高1最後の春休み。
何を話すでもなく、芝生にふたり、並んで座る。
呼び出しといて、なんにも話さないニノは、ここ数日一気に季節が進んでポカポカ陽気の3月の太陽に目を細めて、じっと前を見てる。
もともとインドア派で、思わぬ長期休暇に、ラッキーって家にひきこもってゲームばっかしてたんだろう。日焼けしてない真っ白な横顔が、陽にあたってつるんと光ってる。
「なあ…なんか、機嫌悪い?」
「別に」
そんなこといいつつ、いつもはきゅっと上がった口角が下を向いて、ムッと口を尖らせて。
たっぷり時間を取ったあと、口を開いた。
「外は、いいんだって」
「は?なにが?」
「だからぁ、外で遊ぶのは、いいんだって。室内は良くないけど、外なら換気もいいし、ちゃんと手洗い、消毒したら、いいんだって、テレビで見た」
「ああ、うん……」
「だから……」
「え、だけど…ニノ、外に誘っても出ねえじゃん」
「そんな事ねーし」
「Wi-Fi飛んでないとこは行かねえって言うじゃん」
「別に……たまにはいいし」
うつ向いて、そのまま黙る。
少し伸びた髪から見える耳が赤い。
「もしかして…俺に、会いたかった?」
顔を覗き込む。
「そんなこと、言ってねーし」
耳だけ赤かったニノの、真っ白な頬に赤みがさす。
「いいじゃん!言ってよ、会いたかったって」
嬉しくてぎゅっと距離を詰める。
「ばっか!濃厚接触!」
「大丈夫だって外だし」
「1mあけなきゃだめなんだって!」
体を捻って避けようとするニノに、ジリジリと近づいた。
「呼べよ、すぐ行ったのに。なんだよー、遠慮しなけりゃよかったー」
「なんだよそれぇ」
「俺も会いたかったもん、ニノに」
何いってんの、バカじゃないの、って、ちっちゃい声でなんか言ってる、ニノの横に座る。
少し、間をあけて。
なんかニノのいる右側がじわじわじわってあったかい。
ポカポカ陽気に負けないくらい、なんだか暖かく感じたのは、一体何なんだろな。
毎日でも遊びたい、仲のいい友達は他にもいる。
だけど…
くっついてないのにくっついてるみたいな、なんだか痺れるみたいな感覚の意味は、まだわかんないけど、
ぽっかぽかな日差しの中、どちらからともなく伸びた指先が、芝生の上でそっと触れた。
春は、もうすぐ。