告知していたコラボのお話です。
なじゅさんのお部屋はこちら→💜
蛍さんのお部屋はこちら→💛
どうぞお楽しみ下さい。
それではあらためまして
この先すずの妄想です。
翔ちゃんとかずくんはラブラブ。大丈夫な方はどうぞお進みください。
「あ…れ?」
打ち合わせが解けて、ザワザワと空気が緩んでゆくスタジオ。
何気なくクルクルと繰っていたスマホに一枚の写真を見つけておれの指はピタリと止まる。
それは2体並んだ小さなフィギュア。
近頃ファンの人達は、おれらを模った小さな人形をあちこちに連れ出しては、写真に収めて楽しんでるらしい。
そんな話はどこからともなく聞いてはいたけれど、
「これってさ…」
その写真はおれを、過ぎし春の日へと一気に連れ戻した。
「二宮。」
掛けられた声に、それまで仲間と他愛なくじゃれ合っていたおれの視界は、一気にぼやけて静止する。
「外、暖ったかいぜ?」
半分開かれたレッスン室の扉から顔を覗かせ、おれを捕えるニコリともしない紅顔。
ひとつ年上の先輩。
櫻井くんだ。
おれは応えもせず、咄嗟に体育座りの膝を引き寄せてくちびるを隠す。
すれば、
「にのちゃん、あったかいんだって。」
寄り添うアーモンドの瞳が、小鳥のさえずりのように楽し気に囁いて、行っておいでよとばかりに背中を小突いた。
だけどおれは、膝を抱えたままうつむく。
だって、おれにはわからないんだ。
櫻井くんの考えてることが。
暖ったかい…の言葉の先は何?
近頃はいつだっておれを惑わせる視界の隅の彼に心の中で問いかける。
でも本当は気付いている。
櫻井くんはおれを連れ出したいんだって。
ふたりだけになれるどこかへと。
だけど…
確信はない。
だって…
言ってはくれない。
だから…
だから…
おれの気持ちはメビウスの輪をぐるぐると回る。
そして結局、
「え…そうなんだ。」
取って付けたように呟くと、スタジオの隅っこでノソリと立ち上がるのだった。
駆け寄るのも悔しい。
だからって、気の短い彼が焦れて立ち去ってしまうのは悲しい。
だからそれほどノロくなく、けれどほどほどかったるそうに、おれは扉へと進む。
やがてそこへと辿り着けば、櫻井くんは深い二重まぶたを伏せて薄く笑い、おれに背を向けスタジオの廊下をつま先を外へ外へと投げるように歩き始めるのだった。
やっぱり連れて行くの?
やっぱり…ふたりきりになりたいの?
高まる胸の鼓動を振り払いながら、
「ねえ、行くなんて言ってない。」
何に足掻いているのか文句を垂れる口。
「は?」
振り向いた強気な瞳は、
「付いてこいなんて言ってねえし。」
すぐにフイっと前を向き直り歩き続ける。
「じゃあ、なんで…なんで…」
なんでおれの名前を呼んだの?
「だって…櫻井くんが、あったかいって…」
誘ったんじゃん。
速度を増す薄い背中を、
「さくらい…くんっ!」
掴むように呼んだその時、
フワッ
突然、生温かい風のベールが顔を撫で、前髪を押し上げた。
「な?暖ったけえだろ?」
玄関ドアを押し開け振り返った櫻井くんの笑顔は、
花が…
笑ってる。
それは美しく優し気で、
「う、うん。」
おれからすっかり言葉を奪ってしまった。
「あそこ…」
櫻井くんが指差す先には、テニスコートを囲むミントグリーンのフェンスが陽を浴びて光っていた。
「うん…」
こんな都会の真ん中に、なんの飾り気もなく忽然と置かれたそれに軽く驚きながら、小径を跨ぎ、散らばるように植えられたまだ若芽も見えない落葉樹を過ぎる。
両手をパーカーの前ポケットに突っ込んで進む櫻井くんの足取りは、さっき迄よりずっと軽やかで、
「ねえ、待って。」
離れてゆく距離がもどかしくて、
「はやく」
一瞬立ち止まり振り向いた彼の元へ、おれはとうとう駆け出した。
「たんぽぽ咲いてるかもしんない。」
「ほんと?」
春の煙った風に包まれて、おれたちは初めて視線を絡めて笑った。
踏み固められた土に、名もない草が張り付き広がる原っぱは、
たんぽぽ…
たんぽぽ?
見渡したところで、
「咲いてないじゃん。」
おれは口を尖らす。
「しょうがねえじゃん。」
櫻井くんも真似るように口を尖らすと、ドサッとその場に座り込む。
見上げる瞳に促されて、
「よっしょ…」
並んで座れば、満足気に細められるそれ。
その横顔につい見とれれば、地面についた手に櫻井くんの手が重なった。
「あ…」
ピクリ…震えるおれの小指。
「え?」
うそだ。そんな気付いてないみたいな顔…
「さくらいくん…」
おれは至極平然とした櫻井くんを、おずおずと見上げ口を開く。
「手が…さくらいくんの手がおれの手を踏んでる。」
だけと、櫻井くんは誰もいないテニスコートを眺めたまま、その手を退かすことはなかった。
「しょおちゃん、これ見て?」
おれが、横を過ぎる翔ちゃんにスマホの画面を差し向けると、
「お、ふちっ子アラシ。」
翔ちゃんはその上をサラリと目で舐め、通り過ぎようとする。
「ちょっ、よく見てよ。」
その腕をムギュと掴んで引き戻せば、今度は画面に目を凝らし、
「おっ、これ、かずと俺だ。」
途端に口元を綻ばせる。
「でしょ?そんで…」
おれは更に画面の上に指を滑らせ、翔ちゃんの目の先で写真を引き伸ばすと、
「ほら、よく見てよ?」
と、促した。
「ん〜?」
一寸、謎解きでも仕掛けられたかのように、真剣に見入った翔ちゃんが、
「え…えぇ…」
力の抜けた声を漏らす。
そこには踏みしめられた草の上で重なり合う、翔ちゃんとおれの手があった。
「身に覚え…あるよね?」
ちらと見上げてほくそ笑めば、
「恥ず!」
翔ちゃんは珍しく顔を赤らめるのだった。
このポージング。
偶然なのかなあ、それとも故意なのかなあ。
おれは首を右へ左へ傾げては、画面の中の小さなふたりを眺める。
まさか…見られてた?
はたと顔を上げて、おれは苦笑いする。
そんなはずもない。
あれは、遠い春。
翔ちゃんとおれが初めて持った、ふたりだけの秘密なのだから。
fin