「宇宙エンジン」著/中島京子(角川文庫)

幼稚園トラウムキンダーガルテンの同窓会に出掛けた葛見隆一。同窓会を企画した倉橋ミライは、母礼子の介護をしながら、父を探している。礼子は、かつて幼稚園教諭でシングルマザーでミライを産んでいたが、認知症が進んでしまい、父の手掛かりがない。短編小説『宇宙厭人ゴリ』の作者であるわたし、隆一、ミライが1970年代に消えた男の消息を探す物語。

 

「楽譜?これの?」

「うん」

 そう言うと、倉橋ミライは、またカウンターにの下にもぐって今度はギターを取り出した。チューニングしながら、彼女は、こんなふうに言った。

「そうなんだけど、ちょっとだけ考えてみてくれないかな?クズミさんが幼稚園に行ってたころって、ベトナム戦争やってたんだよ。ジョン・レノンとかなんかの時代よ。母は、そのころ二十代後半から三十くらいまでを過ごしてるわけで、頭の中がラブ&ピースだったの」

 

同窓会のたった一人の出席者である隆一とミライの会話。ここから父親捜しが始まる。薬学研究室の教授、ヨガ講師、元コピー機営業マンで今は会社社長。いろいろな人に会って話を聞く。ジョンとヨーコが♪Power to the People~ とやっていた頃のこと。あさま山荘事件、三菱重工爆破事件等よくわからないけど、子供なりになんとなく感じていた世の中の熱気というのか、冷めていなかった時代の空気を思い出します。先日企業爆破事件の犯人が死亡したとのニュースがあったし、まだ歴史とは呼べない近い過去のできごとに思いをはせてしまいました。作者と年齢が近いので、子供の頃を思い出しながら楽しく読みました。私よりも若い世代だと、この面白さはわからないだろうな。。感想を聞いてみたい気もします。