日中でも太陽が隠れると、もう肌寒くていられない。
気温15度くらいだと、もう暖が欲しくなってくる。
黄昏円盤堂でも早速ストーブを用意したようである。
反射式だと一番暖かいのだが、店舗となると隅々まで
あったかさが伝わらない。
だから、懐かしい「だるまストーブ」がいいらしい。
茜谷さんは近くのガソリン・スタンドから、ポリタンク二個分
灯油を買ってきて、そそくさとストーブに注いでいる。
こうなると、もう気分は「冬の到来」である。
北国の冬は長い。
来年の4月下旬まではストーブを欠かせないのである。
丸半年のあいだ「冬」と向き合って過ごさねばならない。
空から霙(みぞれ)混じりの雨が降ってきた。
冬という、暗くて長いトンネルに入ったようである。
さて、大谷さんの知り合いがやって来るというので、
今日も三人で早速ストーブを囲んで待っていたのである。
時計を見ると午後の三時半である。
そろそろ来てもいいのだが・・・大谷さんは特に気をもんでいる様子だ。
ソウル好きとは一体どんな人物なのか、みんな気にしている。
ほどなくして黄昏円盤堂のガラス戸が開いた。
どうやら、来たようである。
身の丈、1m60cmくらいの小柄で、中太りの男性であった。
メガネをかけていて表情が見えづらい。
まず、こちらから自己紹介して「集まり」の主旨などを説明した。
主旨などと行っても、そんな大袈裟なものは何もないのだが、
きっかけみたいな事を大谷さんが、真面目顔で説明している。
男性の名は、佐藤誠一といった。
年齢は35歳、市内に住んでいるらしい。
外見からは、とてもソウル音楽など想像も出来ない。
大体、外見と趣味は一致しないものである。
訊けば、60~70年代ソウルが好きとのことで、
モータウンからアトランティックまで大分幅広く聴いているようである。
これは音楽談義にバリエーションが加わった、というものである。
今度は四人で音楽話に花が咲こうというものだ。
そんな矢先、主人、茜谷さんが口を開いた。
「この音楽仲間の話をお客にしたら、もう二人ばかりいるんですよ・・・」
どういう事であろうか。場末の黄昏円盤堂でふと湧いた思いつきが、
こんなにも広がっていこうとは考えもしなかったことである。
「音楽梁山泊」になっていくのではないのか、そんな期待感と危惧感が
交錯した気分になってきた。
そのお二人とも全員一致で面談することに決定したのである。
さて、そんな雰囲気もあって、今日はソウルでも聴いてみよう。
こんな日は、オーティス・レディングがいい。
早速、エサ箱を漁る。・・・・・あった。あった。
天才は若死にする、の喩(たと)えどおり、
航空事故により、26歳で死亡した。
何故こんなに早いのであろうか。
アメリカは飛行機事故が多い。ブルース・ロックのS・レイヴォーンもそうだった。
サザン・ロックのレイナード・スキナードも然りである。
素晴らしい才能が、飛行機事故でいとも簡単に散ってしまう。
さて、オーティス・レディングである。
アメリカ国内でアトランティック・レコード のもとで全米デビューを果たす。
1964年 スタックス傘下のヴォルトからアルバム「Pain My Hart」を発表。
でも、日本人には「ドッグ・オブ・ベイ」が一番馴染みが深い。
作者は、スティーヴ・クロッパー (ブッカー・T&ザ・MG's )である。
熱いシャウトが五臓六腑にしみわたる。全篇、激唱のオンパレードである。