おはようございます、beataです。
少しずつ、朝を渡る風のにおいが変わり、秋の静けさが静かに満ちていくのを感じる季節になりましたね。
日々の慌ただしい決断の合間に、ふと立ち止まって自分の息づかいに耳を澄ませる時間は持てていますでしょうか。
先日、とあるテレビ番組で、静岡県を走る『大井川鐵道(おおいがわてつどう)』の取り組みが紹介されていました。
大井川鐵道には、豊かな自然を縫うように走る二つの路線があります。
そのうちの一つである井川線は、息をのむほど美しい車窓の風景を持ちながらも、本線と直接つながっていない背景もあり、日々の移動手段としては利用客がほとんど訪れない赤字路線でした。
これまでは、運行の数を減らしたり、普段は見られないダムの内部を巡るツアーを企画したり、沿線のホテルと提携した切符を販売したりと、なんとか「赤字を埋める」ための工夫が重ねられてきたそうです。
しかし、ローカル線の再生で知られる鳥塚亮さんが新社長に就任されたとき、そこには全く異なる光が投げ込まれました。
鳥塚社長が選んだ道は、1日5往復の全列車を『事前予約制のツアー列車』へと刷新し、1乗車の運賃を3,500円へと引き上げる『観光鉄道化』という挑戦でした。
日常の移動手段としての「通勤電車」から、非日常の体験を味わう「観光電車」へ。
それは、従来の「乗客の数を増やして売り上げを補う」発想から、「一回あたりの体験価値を高めて適正な単価をいただく」発想への、大きな転換だったのです。
私たちは普段、自社の事業やサービスを省みるとき、無意識のうちに「より多くの人に届けるにはどうすべきか」という問いにとらわれてしまいがちです。
しかし、なぜ私たちは、価格や量の競争に追い込まれると、焦りや窮屈さを感じてしまうのでしょうか。
それは、「価格を下げることで選ばれようとする営み」が、知らず知らずのうちに自らの価値の輪郭を薄め、経営の呼吸を浅くしてしまうからなのかもしれません。
番組のなかで、現地を訪れた観光客の方が「3,500円でこの景色と体験が味わえるなら、むしろ安いくらいです」と笑顔で語っていた姿が、とても印象的でした。
『乗らざるを得ないもの』に対しては、人は1円でも安さを求めます。
けれど、『心から乗りたいもの』に対しては、そこに込められた世界観や物語そのものに価値を感じ、惜しみなく対価を差し出すのです。
これは、鉄道会社だけの話ではありません。
私たち中小企業が日々の営みのなかで問い続けるべき本質も、まさにここにあるのではないでしょうか。
自社のビジネスは、お客様にとって『安くて便利な、乗らざるを得ない移動手段』になってはいないでしょうか。
それとも、『遠くからでもわざわざ訪れたくなる、心踊る乗り物』になれているでしょうか。
「価値を上げる」ということは、単に値札を貼り替えることではありません。
自社が本来持っている美しさや、提供できる体験の質に焦点(しょうてん)を当て直し、お客様の意識に届く「新しい視点のレンズ」をそっと手渡すことです。
私自身もいま、皆さまとともに「心から乗りたいと思っていただける列車」とはどのような姿なのか、模索と探求を続けている最中です。
今日、一回の決断を下す前に、ほんの数秒だけ目を閉じて問いかけてみてください。
「この選択は、自社を『乗らざるを得ないもの』にしているだろうか、それとも『乗りたいもの』へと導いているだろうか。」
その小さな意識の問い直しが、経営に静かな余白をもたらしてくれます。
高単価で誇り高く勝負できる価値は、どこか遠くにあるのではなく、すでに私たちが持っている日常の足元に、そっと眠っているのかもしれません。