【旅する占い師】ロジウラブックス営業雑感 -26ページ目

【旅する占い師】ロジウラブックス営業雑感

北海道から鹿児島に移住して10年経ちました。
☆旅する占い師!☆
鹿児島市 名山町バカンスを中心に県内各地のイベント等に出店しています。
タロット占い10分程度¥1000~

 

最後の占い - 未来を決める最後のカードを引く

日が暮れかけた閉店後の店内。
ホールの照明を落とし、厨房の片付けも終わり、俺はいつものように、静かなひとときを味わっていた。

忙しさが常になっていたこの数ヶ月。
だけど今日は、少し違う。

――ずっと胸の奥であたためていた、ある“終わり”を迎えるための夜。
そう、今日は俺自身のために“最後の占い”をする日だ。

もうお客さんの未来を読む必要はない。
誰かの背中を押すためにカードを引くことも、しばらくはないだろう。

それでも、自分の未来にだけは、けじめをつけたかった。


カウンターの一番奥。
いつものように、タロットカードのデッキを丁寧に両手で包み込む。
もう何百回と繰り返してきた動作。
でも、今夜はひとつ違う。

「最後の一枚を引く。この先の未来を、自分で決めるために」

そう呟いて、カードをシャッフルする。

手のひらに伝わるカードの感触が、まるで俺の人生そのもののようだった。
手応えがあるようで、儚くて、けれど確かに存在している。

十分に混ぜたあと、ゆっくりと一枚を引く。

指先に、自然と力がこもる。

デッキの上から一枚。
慎重に裏返す。

そこに現れたのは「世界(The World)」

俺はしばらく、その絵を見つめていた。
感情がじわじわと込み上げてきて、気がつけば、ひとつ深く息を吐いていた。


「世界」――完成と新たな始まり

このカードは、タロットのメジャーアルカナの最後の一枚。
「完成」「統合」「到達」、そして「次なる章への出発」を意味する。

そうか。
そういうことか。

今の俺にとって、これ以上ふさわしいカードはない。

占い師として、料理人として、一人の人間として。
ようやく、ここまで辿り着いた。

過去の失敗や痛みを抱えたままではあるが、それすらも含めて“自分の人生”として統合された。

そう実感できるようになったのは、この道を選び、自分自身の足で歩き始めてからだった。

父との和解。
元恋人との再会。
仲間との信頼。
お客さんの笑顔。

すべてが、“俺が生きてきた証”だった。


「最後」の意味は、終わりではない

引いたカードを両手で包みながら、俺は静かに呟いた。

「これは……最後の占いだけど、終わりじゃないな」

むしろ、ここからまた“新しい章”が始まるのだろう。

俺はもう、自分の未来を“占う”必要はない。
これからは“創る”だけでいい。

望む未来を、選び、その未来を生きる自分として、今を生きる。

それこそが、タフティメソッドであり、そして、俺が選んだ“生き方”だ。


未来を創る場所へ

「世界」のカードをデッキの一番上に戻し、カードを箱に納めた。

それはまるで、大切な本を本棚に戻すような、穏やかで静かな動作だった。

明日からは、新しい挑戦が始まる。

地方を巡る“占い×料理”のイベント。
新しい仲間と、新しい土地と、新しい出会いが待っている。

それでもきっと、俺は変わらない。
どこにいても、俺は俺だ。

“占いで心を温め、料理で身体を満たす”
そのスタイルは、この先もずっと俺の軸になるだろう。


夜の店内に、静かな音楽が流れていた。

俺は照明を落とし、最後にもう一度、カウンターに手を置いた。

「ありがとう」

店に。
タロットに。
過去の俺に。
そして、ここまで支えてくれたすべての人に。

心の中で、深く礼を言った。

これでいい。
これでようやく、“自分の人生”を手に入れた。

最後のカードが教えてくれたのは、終わりではなく、**「始まりの中にある完成」**だった。

俺は、もう迷わない。
俺は、俺として生きていく。

「俺は、こう生きる」

その言葉が、ゆっくりと心に沁み込んでいった。

 

自分の未来を選ぶ - 「俺はこう生きる」

日曜日の午後。 

店のランチ営業を終え、 スタッフが休憩に入った後、

俺はひとり厨房に残って、静かにコーヒーを淹れていた。

いつもなら次の仕込みに取りかかる時間だが、 今日は少しだけ手を止めて、 この数ヶ月のことを振り返ってみたくなった。

 

――タロット占いが全く当たらず、 客足が途絶え。 閉店を決意したあの日。

 

――両親に「だから言っただろ」と言われ、 彼女に「もう無理かも」と背を向けられ、人生のどん底に立ち尽くしていた俺。

 

あのとき不思議な男に「人生を再編集しろ」と言われて、 タフティメソッドと出会い、自分の“意識のスクリーン”を変えることを学んだ。

 

最初は半信半疑だった。 

だけど意識の中で描いた未来を、 「もう手にしている自分」として行動しはじめた時から、現実は確かに変わっていった。

 

――料理と占いを融合した新しいスタイルの店。

 ――テレビやSNSでの注目。 

――予約の取れない人気店へ。

それは偶然じゃなかった。

俺が選び、俺が動き、俺が創った現実だった。


未来は「予測」するものではなく、「選ぶ」もの

タロットカードをテーブルに置き、ゆっくりとシャッフルする。

「今日は、自分の未来を“占う”のではなく、“選ぶ”ためにカードを引こう」

そう決めて、一枚を引いた。

──【恋人(The Lovers)】

なるほど、と思った。 

このカードは“愛”や“選択”を意味する。

選ぶことで、人生が動く。 

誰かに決められるのではなく、 環境や年齢に従うのでもなく。 「自分で、自分の未来を選ぶこと」

俺の心に、はっきりとした言葉が浮かんだ。

「俺はこう生きる」


過去に縛られない生き方

若い頃は「こういう人生を歩むべきだ」 という型のようなものがあった。

いい会社に入り、結婚して、家を持って、子どもを育てて、 老後は静かに過ごす――

でも、俺はそのどれもうまくやれなかった。

 

結婚はしたが離婚し、 転職を繰り返し、夢を追えば滑って転んで、気づけば57歳、実家暮らし。

だけど今、自分の手で現実を動かすことを知った。

だからこそ、はっきり言える。

「俺は、過去に縛られて生きるのをやめた」 「他人の価値観で生きるのもやめた」

 

俺は、俺が望む未来を選ぶ。

料理を通して、占いを通して、人の心をあたためる仕事をする。

どんなに歳をとっても、俺の情熱は消えない。 

むしろ今が、人生でいちばん“熱い”と感じている。


新しい夢が見えてきた

最近、頭の中にある新しいアイディアが浮かびはじめていた。

──今の店のスタイルを活かして、地方を巡る“占い×料理”の移動イベントをやってみたらどうか。

その場でカードを引いてもらい、出たカードに合わせた料理を提供する。

 

食べる前に、人生を少しだけ見つめ直す時間があってもいい。

それはただのグルメでもなく、ただの占いでもない。

“心と身体、両方に栄養を届ける”体験型レストラン。

「いいじゃないか……やってみよう」

かつての俺だったら「どうせ無理だ」と口にしていた。

でも今の俺は、違う。 

未来は“予測”するものではなく**“選ぶもの”**なのだ。

そして俺は、選んだ。

**「自由に、情熱のままに、心を込めて生きていく」**という生き方を。


帰り道、心の中の宣言

その夜、スタッフと別れ、アパートに帰る途中、 空にぽっかりと浮かぶ月を見上げた。

静かで、広くて、優しい夜空。

「俺はこう生きる」

声には出さなかったが、 心の中ではっきりと宣言した。

57歳、人生の折り返しはとっくに過ぎた。 

でも、だからこそ面白い。

未来は、今この瞬間から変えられる。 

自分の“スクリーン”に、 どんな映像を映すのかは、 誰のせいでもなく、俺自身の選択だ。

俺は、光の差す場所へ進んでいく。

 

その光を、今度は誰かの人生に届ける側として――。

明日は、どんな未来を選ぼうか。 

そんなふうに考えられる今が、 最高に幸せだった。

父との和解 - 「お前、やるじゃないか」

店がSNSでバズり、全国から客が押し寄せるようになった。
今では予約が取れない店として紹介されることもあり、俺自身も目まぐるしい日々を送っていた。

けれど、どんなに忙しくても、頭の片隅にずっと残っていた“ある気がかり”があった。

──親父に、ちゃんと話ができていない。

もちろん、連絡は取っている。
母経由で「最近どうだ」と様子を聞かれることもあるし、「頑張ってるな」と短くメールが来ることもある。

でも、あの人と真正面から向き合って言葉を交わした記憶は……
正直、あまりない。

特に、俺が仕事を辞めて実家でぶらぶらしていた頃。
そして、タロット占いを始めた時期。

あの頃の親父は、俺に厳しい視線を向けていた。

「そんなもんで食っていけるのか」
「現実を見ろ」
「甘えるな」

言い方は不器用だったが、俺にとっては突き刺さる言葉ばかりだった。

だからこそ、今の俺をあの人がどう思っているのか――
ずっと知りたかった。


実家に帰るきっかけ

その日、久しぶりに母から電話があった。

「お父さん、今夜ひとりなの。たまには顔見せてあげて」

母が出かける用事があるということで、俺は夕方、ふらりと実家に立ち寄ることにした。

リビングには、テレビを見ながらお茶を飲んでいる父がいた。

俺を見るなり、「おう」と一言だけ。

昔から、変わらない。

「久しぶりだな」

「まあ、店が忙しいんだろ」

「ありがたいことに、な」

二人とも、ぎこちなく言葉を交わす。

それでも、今日は伝えたかった。
ちゃんと、俺の口から。

俺は深く息を吸って、お茶を一口すすったあと、言った。

「親父、今までありがとうな。いろいろ……心配も迷惑もかけたけど、今、ようやく自分の道を歩けてる気がする」

父は黙っていた。
俺は言葉を継いだ。

「タロットとか、占いとか……あの頃は理解されないのが当たり前だと思ってたし、正直、親父にも馬鹿にされてると思ってた」

「……まあ、そうだったな」

苦笑しながら、父がぽつりと返す。

「でもな、最近は違う」

「え?」

「お前の名前、テレビやネットでよく見る。
“占いと料理の店”だなんて、最初は冗談かと思ったが……ちゃんと、お客さんが喜んでるのを見ると、俺も、嬉しいもんだな」

俺は目を見開いた。

「親父……」

「お前、やるじゃないか」

静かに、けれど力強く、父は言った。

それは、今まで一度も聞いたことのない父の“本音”だった。

「俺は昔な、“変わったこと”が苦手だった。道を外れたように見える生き方を、どこかで否定してたんだと思う。でも今は、お前のやってることがちゃんと人に届いてる。それなら、俺はもう何も言わん」

俺は、不意に込み上げてくるものを堪えられなくなった。

「……ありがとう」

声が少し震えた。

57歳になって、こんな言葉を父親から聞くことになるなんて、
想像もしていなかった。


時間を超えて届くもの

俺と父は、そのまま昔の話を少しずつ交わしながら、
テレビの音だけが響く静かな時間を過ごした。

父は昔話の合間に、ふとこんなことを口にした。

「お前が小さい頃、よく冷蔵庫を開けて
『今日は俺が晩ごはん作る!』なんて言ってたの、覚えてるか?」

「……そんなこと、あったか?」

「あったよ。俺はそれ見て、“この子は料理人になるのかな”って、なんとなく思ってた」

「それ、早く言ってくれよ」

「言わなくても、お前はちゃんと進んだだろ」

父の目は、どこか誇らしげだった。


帰り道、心が軽かった

その夜、実家を出て歩く帰り道。
空は星が瞬き、空気は冷たく、どこか澄んでいた。

長い時間をかけて、やっと父と向き合えた。

否定され、反発し、心のどこかでいつも引っかかっていたその存在が、今日、静かに、温かく、「認めてくれた」

その重みは、言葉にできないほど大きかった。

「お前、やるじゃないか」

この一言が、心の奥で何度も響いていた。

俺はもう、誰かに認められるために頑張る必要はない。
でも、やっぱり親父のその言葉は、何よりも重く、そして温かかった。

「これからも、俺はやってみせるよ。あんたの息子として、恥ずかしくないようにな」

夜空を見上げながら、そっと、心の中で呟いた。

そして翌朝、また新しい一日が始まる。

父の言葉を胸に、俺は今日も、一皿一皿に魂を込めるのだ。

これはもう、俺の人生だ。
誰のものでもない。
俺が創った、俺の物語。

そしてその物語を、きっと、親父もどこかで誇りに思ってくれている――。

店が全国的に話題に!? - SNSでバズる

ある朝、店の仕込みをしていると、ナオキがスマホを握りしめたまま厨房に飛び込んできた。

「ユウスケさん!! すごいことになってます!!」

包丁を持っていた手を止め、「なんだなんだ」と眉をひそめると、ナオキは息を切らしながらスマホの画面を俺に差し出してきた。

画面には、SNSの投稿がずらりと並んでいた。

「【話題】占いでランチが決まる!?不思議だけど当たりすぎてハマる“運命のレストラン”が登場」
「今日のタロット“太陽”で、元気が出るチキンソテー!本当に元気出た!」
「料理がうまい、占いも当たる、スタッフも感じいい、こんなの通うに決まってる」

投稿のひとつには、俺の写真まで添えられていた。
料理を運ぶ姿を、誰かが撮っていたらしい。
小さな店内の一角に映る自分の姿。
笑顔で皿を差し出している。
なんだか不思議な気分だった。

「これ、どこかのインフルエンサーが昨日ランチに来てたらしくて……それがバズって、今、拡散されまくってるんですよ!」

「バズる、ねぇ……」

言葉だけは聞いたことがあった。
でも、自分がそんな現象の当事者になるとは
思ってもみなかった。


止まらない通知音と電話の嵐

「ユウスケさん、電話鳴ってます!予約、予約、また予約です!」

ホールではスタッフが慌てて電話を取っていた。

「すみません、今週の土曜日はすでに満席でして……」
「来月のご予約でよろしいですか?」

開店前だというのに、電話が鳴り止まない。

しかも、内容は地元のお客さんばかりではなかった。

「東京から行きたいんですが、新幹線で日帰りできますか?」
「福岡から友達と旅行がてら行きます!」
「誕生日なので、特別メニューをお願いできますか?」

俺は思わず厨房の壁にもたれかかる。

「……これは、来たな」

本当に、“来た”のだ。
あのときスクリーンに映した映像。
全国から人が訪れる、活気と笑顔であふれた店。

ただの空想だったはずのその映像が、いま、目の前の現実になっている。


お客様の“願い”と料理が交差する場所

昼の営業が始まると、すでに満席。

「こんにちは!“星”のカードが出たんですけど、おすすめは?」

「“節制”って出たんですけど、なんとなく今日はヘルシーな気分なんですよね」

「“女教皇”だったから、なんかスープ系が合いそうだなって思って!」

来店したお客さんたちは、あらかじめ自分で引いたカードや、事前にオンラインで占ったカードを見せてくる。

占いと料理。
一見、まったく違う世界のものが、この店では自然と溶け合っていた。

俺はその日、「塔」が出たお客様に、“崩れた後の再生”をテーマにした、香ばしい焼き野菜と、トマトベースの再構築風スープを出した。

お客さんはそれを一口食べて、涙を流して言った。

「……今日、仕事を辞めてきたんです。でも、これを食べて、次に進もうって思えました」

俺は静かに頷いた。

この店は、ただ料理を出す場所じゃない。

人が、自分の人生と対話する場所になってきている。


“バズる”という現象の本質

営業終了後、ナオキがコーヒーを淹れてくれた。
カウンターでそれを飲みながら、彼がつぶやいた。

「ユウスケさん、ついに全国区ですよ。これ、次のステージ来てますよ」

「かもな」

「でも……ユウスケさん、なんか落ち着いてますね」

「うん。興奮してないわけじゃないけど……こうなるって、どこかでわかってたんだよ」

ナオキが目を丸くした。

「わかってた……?」

「ほら、タフティメソッドだよ。“未来を決めて、その自分として今を生きろ”ってやつ。俺、毎日やってたからさ。満席の店、笑ってるお客さん、全国から訪れる人たち……それを、ずっと“意識のスクリーン”に映してた」

「マジか……ほんとに、現実になるんですね……」

「なるさ。自分で決めれば、あとは“流れ”が連れてってくれる」

俺は静かにタロットカードのデッキを手に取った。

一枚、ゆっくりと引いてみる。

──「運命の輪(Wheel of Fortune)」

思わず笑った。

「また、これか」

ナオキがのぞき込んで目を見張った。

「これって、変化とか転機のカードですよね?」

「そう。“流れが変わる”ってやつだ」

そして、心の中でつぶやいた。

俺は、この流れに乗る。
もう流されるんじゃない。
自分で波を起こし、自分で進んでいくんだ。

全国的に話題になったって、それは通過点にすぎない。

これからが本番だ。
この流れを、自分の未来に繋げていく。

包丁を握る手に、不思議な力が宿っている気がした。

料理で、誰かの人生を照らす。
占いで、心に希望の光をともす。

そのすべてが、“俺らしい人生”になってきている。

SNSでバズる、なんてことがただの偶然で終わらないように。

俺は、明日もまた最高の一皿を作るだけだ。

実家を出る決断 - ついに独立する

「ユウスケ、お前、最近えらく雰囲気が変わったな」

久しぶりに実家へ帰った日、父がそう言った。
母も、台所から顔を覗かせて、微笑むようにうなずいた。

「テレビで見たわよ。お店、すごいじゃない」

「まだ始まったばかりだけどな。でも、ようやく“自分の場所”ができた気がする」

そう言うと、二人とも何も言わずにうなずいた。
静かな、けれど深い理解がその場に流れた。

夕飯を囲んで昔話をしているうちに、俺は、ようやくこの言葉を口にする覚悟ができた。

「……親父、母さん。本格的に、家を出ようと思ってる」

しばらく、箸の動きが止まる。
けれど、思ったよりも深刻な空気にはならなかった。

父がゆっくりと口を開いた。

「もうとっくに、その時は来てたんだろうな。お前が自分の足で立ち始めたってのは、会わずとも伝わってきた」

母も、少し寂しそうに笑った。

「一人前になったわね。やっと“息子”から、“一人の男”になった気がするわ」

その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。

長い間、俺はここに縛られていた。
いや、“守られていた”というほうが正しいかもしれない。

仕事に疲れ、恋に破れ、タロット占いを始めても思うようにいかず、57歳にしてようやく人生を動かし始めたばかりの俺にとって、この家は最後の砦だった。

けれど今、ようやく自分の足で立てるようになった。
もう“戻る場所”としての実家ではなく、“感謝の原点”として、ここを心に持ち続けることができる。


「出る」ことは、逃げることではない

かつての俺は、「実家を出る」ということにどこか後ろめたさを感じていた。

両親を一人にしていいのか。
何かあったらどうするのか。
自分だけが自由になることに、罪悪感すら抱いていた。

だが、父も母も、本当はずっと見守ってくれていたのだ。

俺が“本気で自分の人生を生きる”決断をするのを、静かに、根気強く、待ってくれていた。

父が言った。

「いいかユウスケ、出ていくことは、逃げることじゃない。背を向けることでもない。“出る”ってのは、“進む”ってことだ。お前が進むなら、俺たちはそれを祝福する」

その言葉が、胸の奥で何度も何度もこだました。

「ありがとう、親父」

俺は素直にそう言った。


荷造りと、整理されていく想い出たち

数日後、
俺は実家の自室で、黙々と荷物をまとめていた。

昔の写真、古びたレシピノート、タロット占いを始めた頃のメモ帳、彼女との思い出の品……

どれもこれも、今の自分を構成する“ピース”だった。

けれど、もう全部を持っていく必要はない。
必要なものは心にある。部屋の棚に残した数冊の本に、「ありがとう」とつぶやいた。

過去に感謝を伝えながら、
俺は未来に向けて部屋を空にしていった。


引っ越し当日

荷物は多くなかった。
数日分の服と、調理器具、そして何より大切な――タロットカードのデッキ。

ナオキの紹介で決まった住み込み部屋の鍵をポケットにしまい、
最後に仏壇に手を合わせた。

「これから、本当の意味で自分の人生を生きていきます」

母が玄関まで見送りに来てくれた。

「無理しないでね。でも……思いっきり好きにやりなさい」

俺は、深く一礼した。

「ありがとう。また、時々顔出すから」


新しい扉の前で

引っ越し先の部屋に着いたとき、
荷物を置いて最初にしたのは、カーテンを開けて外の光を部屋いっぱいに取り込むことだった。

そこには、今までの人生では味わったことのない、自由と緊張が入り混じった空気が漂っていた。

けれど、それが何よりも心地よかった。

これからは、どこに進むかを誰かが決めるのではなく、自分が選んでいく。

「よし、やってやるか」

そうつぶやきながら、新しいキッチンに立ち、久しぶりに自分だけのために料理を作った。

温かい味噌汁と焼き魚、そして炊き立ての白米。

一口食べた瞬間、なぜか涙が出た。

俺は今、本当に“自分の人生”を生き始めたんだ。

ようやく“ここ”にたどり着いた。
実家を出ることは、自分と向き合い、「生きる場所」を選ぶということだった。

そしてそれは、過去と決別するのではなく、過去を抱きしめたうえで新たな扉を開ける行為だった。

部屋の静けさの中で、俺はそっとタロットカードのデッキを開いた。

今日のカードは──

「愚者(The Fool)」“新しい旅立ち、無限の可能性、恐れを超えた自由な一歩。”

まさに、今日の俺にぴったりのカードだった。

「ようこそ、俺の新しい人生」

そう言って、俺はカーテンを少し開けたまま、窓から差し込む月の光を眺めながら眠りについた。