『現実はただの鏡だった件について』
第一部:目覚めの第一歩
意識のレンズ – 現実を変える眼鏡 #008
月曜日の朝。
信介は昨日の出来事を思い出しながら、鏡の前に立っていた。
「俺は失敗者じゃない。俺の人生はこれからだ…」
昨日、娘に返信を送ったあの瞬間から、何かが少しだけ変わった気がする。
自分の中の声が少しだけ優しくなった。
だけど、鏡に映る自分の顔は相変わらず疲れ切っている。
「見た目はまったく変わってないな」
そう呟きながら、クローゼットを開ける。
くたびれたスーツが数着、無造作に吊るされている。
「今日はこの灰色でいいか…」
ネクタイを締めて玄関に向かう。
その時、ふと靴箱の上に置かれたサングラスが目に入った。
「…そうだ。少し視点を変えてみるか。」
信介はそのサングラスを手に取り、かけてみた。
レンズ越しに見える世界は、少し色が変わって見える。
「現実も、こんな風に少し変わってくれたらな…」
通勤電車の中。
相変わらずの満員電車。
信介はサングラスをかけたまま、周囲の人々をぼんやりと眺める。
「この人たちも、みんなそれぞれの現実を生きてるんだよな…」
窓ガラスに映る自分の姿は、どこかぼんやりしている。
会社に着くと、田中がやたらとテンション高めに声をかけてきた。
「課長!昨日のドラマ見ました?」
「いや、見てない。」
「ええー!あんなに面白いのに!」
田中はニコニコしながら、自分の席に戻っていく。
信介はデスクに座り、PCを立ち上げる。画面には相変わらずの赤字グラフ。
「現実ってのは、そう簡単には変わらないんだな…」
その時、ふと、自宅で読んだスピリチュアル本の一節が頭をよぎった。
『あなたの意識のレンズが、現実を映し出している』
「意識のレンズ…」
信介はサングラスを取り出し、再びかけてみた。
「もし、これが俺の現実を映しているレンズだとしたら?」
サングラス越しに見える世界は、少しだけ暗く見える。
「俺が見てる現実って、ただの色眼鏡なんじゃないか?」
ふと、デスクの電話が鳴った。上司の小山からだ。
「吉田、お前、今月の報告書、まだか?」
「…すみません。もう少しで仕上がります。」
「もう少しじゃ困るんだよ。早く頼むぞ。」
ガチャン。
電話を切った後、信介は深いため息をついた。
「俺の現実が暗いのは、俺が暗いレンズをかけて見てるからかもしれないな…」
その時、スマホが震えた。
『娘:今日、夜の7時に駅前のカフェで待ってるね。』
信介の心臓がドクンと鳴る。
「…今日、会えるんだ。」
ふと、サングラスを外して窓の外を見た。
曇り空だったはずの空が、少しだけ晴れ間を見せていた。
「俺のレンズを変えたら、現実も少しずつ変わるのかもしれないな…」
