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マーケティングスタディ:書籍「生命保険のカラクリ」

大手出版社である文芸春秋のある取組みが話題を呼んでいます。昨年10月に出版した新書「生命保険のカラクリ」(岩瀬大輔著)を、インターネット上でPDFにより全文無料で読めるようにするというものです。

著者は既存の生命保険には次の2点の問題点を挙げています。(1)従来の生命保険の高コスト体質、(2)売り手と買い手との間に存在する情報の非対称。この全文無料公開の試みは、作者の「もっと多くの人に読んでもらいたい」という強い希望で実現したようです。

今回は、この書籍の「フリー」という試みをマーケティングの視点から整理してみました。使用したフレームは「図解 実践マーケティング戦略」(佐藤義則 日本能率協会マネジメントセンター)で紹介されている以下の2つです。

 (1)プロダクトフロー
 (2)マインドフロー



■プロダクトフロー

プロダクトフローには、前提となっている考え方があります。それは、「購買には心理的な障害がある」というもの。どういうことかと言うと、「財布の中身と相談する」という表現があるように、(衝動買いは別として)何かを買う時には何かしらの迷いがあります。これが「心理的な抵抗」のことです。

プロダクトフローの説明ですが、売りたい商品・サービスを3段階に分けて考え、以下のような3つのステップを設定しています。(図1)

$思考の整理日記-100310 プロダクトフロー


つまり、いきなりスキンケアセット商品を買うのは抵抗がある消費者でも、このプロダクトフローの3段階を踏むことで、「購買への心理的抵抗」が下がります。よって、本当に売りたい商品(スキンケアセット)を買ってもらえるというわけです。

このプロダクトフローに「生命保険のカラクリ」を当てはめると、(1)あげる商品:無料PDF、(2)売れる商品:書籍、になりそうです。

それでは、(3)売りたい商品は何かと考えてみると、「生命保険」になるかと思います。もちろん、筆者の目的はまずは生命保険について様々な人々に知ってもらいたいという思いがあるはずですが、現実的なビジネスとしては、生命保険の販売があるのではないでしょうか。



■マインドフロー

マインドフローというのは、AIDMAのような商品認知~購買~リピートまでの購買ステップのことです。「図解 実践マーケティング戦略」では、7つのステップを定義しています。(図2)

思考の整理日記-100310 マインドフロー


ここで、前述のプロダクトフローである、(1)無料PDF(あげる商品)、(2)書籍(売れる商品)、(3)生命保険(売りたい商品)、をこのマインドフローに当てはめてみました。モデルは、無料PDFで知り、詳細を書籍から読み、生命保険を購入した場合のフローです。(図3)

思考の整理日記-100310 マインドフロー+プロダクトフロー


図から、生命保険についてまずは知ってもらうために、本だけではなく無料PDFのダウンロードにより、効果的に施策が実施されていると思いました。



今回取り上げた「生命保険のカラクリ」の著者である岩瀬大輔氏は、ライフネット生命の副社長です。今後のライフネット生命と、書籍のフリーあるいは電子化については注目したいですね。



※参考情報

日経ビジネス「この本、丸ごと無料です」
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100225/213027/

生命保険 立ち上げ日誌 書籍は「フリー」になるか
http://totodaisuke.asablo.jp/blog/2010/02/27/4910657

現代ビジネス 対談 岩瀬大輔×坪田知己
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/280?

「生命保険のカラクリ」PDF全文ダウンロード (2010/4/15まで)
https://f.msgs.jp/webapp/wish/org/showEnquete.do?enqueteid=20&clientid=12820&databaseid=czs

生命保険のカラクリ (文春新書)

図解 実戦マーケティング戦略

書くということ

今こうしてブログの記事を書いていますが、この「書く」という行為は実際にやってみるとなかなか大変な作業だったりします。というのも、書く前段階として何かを考えているわけですが、思考が浅かったりまとまっていない状態では、思うように文章が進まないからです。この書くことについて、「知的複眼思考法」(刈谷剛彦 講談社+α文庫)では次のように書かれています。
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書くという行為は、もやもやしたアイデアに明確なことばを与えていくことであり、だからこそ、書くことで考える力もついてくるのです。(p131より引用)
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この指摘は、ブログを更新する理由にそのまま当てはまります。ブログの題材は、日常生活や仕事、またはニュースなどから得た気づきとそれにより考えたことが主ですが、考えただけの段階では、まだ頭の中では整理しきれていないことがよくあります。そこで、書いてみることで頭の中を整理し、ひいてはそれが考える力をつけることになると思っています。



もう少しブログを書くことについて掘り下げてみると、上記の理由だけではネット上に公開することへの説明にはなっていないことがわかります。単に書くだけであればそれをPC内やノートなどで保存しておけばいいからです。

公開するということは、それはつまり第三者の目に触れるということです。偶然にしろ必然にしろ、その人がクリックしてわざわざ自分の時間を割いて読んでくれる。やや大げさに言えば、その割いた時間に対して、読んでくれた後に無駄な時間だったと感じてもらわないことが、書く側としての責任ではないかと思います。その意味で、公開する前提として「下手な文章は出せない」という意識があり、それが自分の書いた文章を推敲する動機にもなるのです。



ここで公開することから書くことへと話を戻しますが、「思考の整理学」(外山滋比古 ちくま文庫)という本にはこう書いてありました。
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書き進めば進むほど、頭がすっきりしてくる。先が見えてくる。もっとおもしろいのは、あらかじめ考えてもいなかったことが、書いているうちにふと頭に浮かんでくることである。そういうことが何度も起れば、それは自分にとってできのよい論文になると見当をつけてもよかろう。(p137より引用)
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今回の記事て言うと、上記の「公開する理由」がそれにあたります。書く前の段階ではそこまで考えていませんでしたが、書いていくうちに頭の中が整理された結果及んだ考えでした。今後も時間を作り、更新していきたいです。


知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

マーケティングで見る浅田真央とキム・ヨナ

バンクーバー五輪で女子フィギュアのショートプログラム(SP)が行われました。結果は浅田真央が73.78点で2位、キム・ヨナは78.50点で1位。報道結果でしか知りませんが、二人ともノーミスでの非常にハイレベルな演技だったようです。

この前の日曜だったかと思いますが、「NHKスペシャル 浅田真央 金メダルへの闘い」という番組が放送されました。浅田真央とそのライバルであるキム・ヨナの今シーズンに焦点を当てたもので、見ていて思ったのが、二人の取り組みの方向性が対照的だということです。

簡単に書くと、次のようなものでした。


■浅田真央

浅田真央とタラソワコーチが目指したのは、一言で言うと「ジャンプと表現の両立したスケート」。もともと浅田真央の代名詞がトリプルアクセルであるように、ジャンプが得意な選手です。一般的にジャンプが得意な選手というのはジャンプとジャンプの間の「つなぎ」の部分ではどうしてもパフォーマンスが落ちるそうです。それを、つなぎの部分でも完成度を高くすることで、レベルの高い構成にする戦略。放送内で紹介されていたのは、これまで女子のフィギュア選手では、ジャンプか表現のどちらかに強みを持つ選手しかいなかったようで、それだけこの挑戦は難易度の高いものになります。

つまり、浅田真央の演技は、自分がやりたいことをとことん目指す考え方です。


■キム・ヨナ

一方でキム・ヨナとオーサーコーチが目指したのは、一言で言うと「観客を引きつけるスケート」。もともとキム・ヨナが得意だった演技力に加え、映画007のテーマ曲を使うことで、いかに観客や審査員に効果的に見せるかという戦略です。これは個人的な想像にすぎませんが、北米大陸で開催されるオリンピックに007という曲は非常に相性がいいように思います。もしですが、開催地が例えばドイツのような国だった場合、もしかしたら選曲が変わっていたかもしれません。

話を戻すと、キム・ヨナの演技は、観客や審査員にいかに満足してもらうかという考え方です。



さて、マーケティングの考え方に、「プロダクトアウト」と「マーケットイン」という2つの考え方があります。簡単に説明すると以下のようになります。

■プロダクトアウト

技術やサービス、思い入れなど提供側主導の発想・行動で売っていくという考え方です。これは、すでにあるもの・作ったものから売り方を考えることになります。例えば、独自技術にもとづく商品・サービスを持っているので、市場に投入すれば売れるという考え方になります。

■マーケットイン

一方で、消費者の視点やニーズを重視し、顧客の求めるものを作り売っていくという考え方がマーケットインです。例えば、商品開発の段階から市場調査や消費者インタービューなどを行ない、消費者のニーズを探りながら作るという考え方です。


ちなみにプロダクトアウトとマーケットインについて、「マーケティングではプロダクトアウトからマーケットインへの発想転換が大事である」と言われることがあります。この背景には、成熟市場では顧客である消費者のニーズをいかにとらえるかがカギとなるというものがあるようにおもいます。

しかし、個人的にはプロダクトアウトとマーケットインはオンオフの関係ではなく、両立させる考え方が正しいのではと思っています。というのは、独自技術やノウハウに基づく差別化された商品・サービスを、それが価値があると思ってくれる顧客に提供すること、つまり前者がプロダクトアウト的発想で、後者がマーケットインの発想なのではと考えているからです。



ここまで、浅田真央とキム・ヨナ、プロダクトアウトとマーケットインという2つの対比を書きましたが、テレビを見ていて思ったのが、「浅田真央:プロダクトアウト」、「キム・ヨナ:マーケットイン」という発想でオリンピックに望んでいるということです。

マーケットインの考え方が優れているようにも思えますが、その一方で消費者は必ずしも自分のニーズが明確になっているとは限らないこともあります。例えば馬車が主流だった時代に登場した自動車、電話は家の中に固定されるものだった時代に登場した携帯電話、これ以外にもインターネットやiPodなども同じで、それまでになかった時代に果たして誰がこれらのようなものをニーズとして持っていたでしょうか。イノベーションとは時として、我々の想像をはるかに超えるものとして登場するものではないかと思います。



日本時間の26日(金)の女子フリー、浅田真央とキム・ヨナのライバル対決はどのような結末が待っているのでしょうか。