回顧録 HERMESのタブカラー | ELEMENTS OF STYLE

回顧録 HERMESのタブカラー


私が初めて海外出張に行ったのが1989年。


その頃はまだBEAMS Fのショップマネージャーでしたが、その後アシスタントバイヤーとなって毎シーズン海外出張に行くようになると、帰国後店舗スタッフを集めて出張報告会を行うようになりました。



最初はレポートと口頭だけの報告だけでしたが、それではうまく伝わらないということで、出張で撮ってきた写真をスライドで投影して見せることになりました。



1994年からデジカメが一般的に普及しだした2000年代前半頃までの約10年間、毎回出張で私が撮り続けたスライドのマウントが数千枚あります。

 

数年前から整理を始めましたが、小さなマウントを一枚一枚ルーペで覗いて、年度とシーズンと都市ごとに分類するのはかなり根気のいる作業で、あまりにも大変で一度挫折して作業を休止していました。

 

 

最近思うところがあり作業を再開しましたが、1994年からある数千枚のマウントと、それ以降のデジカメで撮ったデータを合わせると、おそらく3万枚近くの画像があり、画像を見れば見るほど会社の資料にとどまらず、クラシックなファッションにおいては世界的にも貴重な資料になるかもしれないと思い始めています。

 

 

そのようなこともあり、今後自分の回顧録と備忘録も兼ねて、このブログでも自分が経験してきたものやエピソードを紹介していこうと思います。

 

 

初回は90年代前半頃のHERMESのタブカラーについてです。

 

 

 

 


GW中に家を整理していたら出てきた、90年代前半頃のHERMESの小冊子。

 

 

 

そのカタログに載っていたのが、このダブルカフスのタブカラー。



80年代後半から90年代前半頃は、画像のような綺麗な色のオルタネートストライプやマルチストライプが流行っていたので、英国やフランスやイタリアも、こんな綺麗な色のストライプのシャツが多く展開されていました。



柄以外にも当時自分が注目したのが襟とカフス。



小ぶりの襟のタブカラーはフランスっぽいという印象でしたが、タブをとめるのがボタンではなくスナップボタンというのが初めて見た時は意外でした。



と言うのも、自分がBEAMSに入社した当時タブカラーと言えば、英国のSTEPHENS BROTHERS(スティーブン ブラザーズ)でしたが、なんとなくタブをスナップボタンでとめるというのがチープに感じました。


 



上の画像のシャツが、そのSTEPHENS BROTHERSのタブカラーです。



襟の大きさは違えども、スナップボタンでとめる仕様はHERMES同じ。

 

 

STEPHENS BROTHERSは当時パリのOLD ENGLANDのシャツも作っていたので、もしかしてHERMESもSTEPHENS BROTHERSで作っているのでは?と一瞬思いましたが、タグを見るとMADE IN FRANCEの文字が・・・


当時STEPHENS BROTHERSはアイルランド製だったので、いま思えばHERMESのシャツがアイルランド製の訳はないので、駆け出しバイヤーの大きな勘違いだったと言わざるを得ません。

 

 

そして、カフスはダブルカフスの角がラウンドになっているのが当時のHERMESの特徴。

 


 

90年代に入ると英国調のブームが起きて、BEAMSでも英国のシャツメーカーでダブルカフスのシャツをたくさんオーダーしていましたが、英国のシャツメーカーのダブルカフスは全てスクエアーでラウンドしているものはなかったので、角の丸いダブルカフスを見て”これがパリのエスプリか” と勝手に思い込んだものです(苦笑)
 

 

ちなみに、同じ頃のARNYSの小冊子も見つかりましたが、そこに載っているダブルカフスも角がラウンドなのです。


 

 

右岸のHERMESも左岸のARNYSも角丸のダブルカフスなら、これをやらなければと思い込んだ駆け出しバイヤーの私は、パリの後にバイイングで行ったロンドンのSTEPHENS BROTHERSのショールームで角丸のダブルカフスがあるのを見つけてしまいます。

 

 

そして、迷わずスナップボタン仕様のタブカラーに角丸のダブルカフスを付けたBEAMSのスペシャルモデルをオーダーしました。

 


この話を数年前にパリでZINSの社長のフランクさんに話したところ、「英国のシャツメーカーに角がラウンドしたダブルカフスを作らすのは、すごく嫌がられたのではないか」と言われましたが、おそらく当時のSTEPHENS BROTHERSはOLD ENGLANDだけでなく、パリのセレクトショップのオリジナルも作っていたので、英国のシャツメーカーの中では柔軟だったのだと思いました。


余談ですが、この90年代の前半頃のSTEPHENS BROTHERSはエジンバラ公のご用達のロイヤルワラントを持っていましたが、その後90年代の中以降にPRINCE OF WALES(現 チャールズ国王)のロイヤルワラントを授かることになります。

 

 

かくして、駆け出しバイヤーの思い付きで誕生した ”HERMES風?” な英国ブランドのタブカラーのダブルカフスのシャツは人気モデルとなり、その後数年間BEAMS Fの定番モデルとして展開しました。


 

 

 

 

このような他愛もない話ですが、昔の写真を見ていると次々と色々なエピソードを思い出します。

 

 

昔話に興味が無いという人もいますが、こんな話ができるのもファッション業界ではもう数人しかいなく、さらに当時のリアルな画像を大量に持っているのは私(BEAMS)だけだと思います。


自分も還暦を過ぎて、いつも間にか業界では古株になってしまいましたが、バイヤーと言う目線からのクラシックの歴史や変遷を皆さんにお伝えするのが使命のように感じています。


なので、このような回顧録をこれからも定期的にアップしていこうと思っています。


”温故知新”-過去の事実を研究し、そこから新しい知識や見解をひらくこと

 


まさにそれが大事な時代になってきているように感じます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MR_BEAMS CHANNEL 思い出のアイテムシリーズ第三弾アップしました。