STILE LATINO BESPOKE
STILE LATINO史上初の仮縫い付きのスミズーラが仕上がってきました。
二度の仮縫いを行い、採寸から13ヶ月かけて完成しました。
この話が持ち上がったのが、コロナ禍後初めて行った2023年1月のイタリア出張で、フィレンツェにある私が大好きな Trattoria da ruggero(トラットリア ダ ルジェーロ)でVINCENZO ATTOLINIと会食をした時でした。
30年以上バイイングをしてきて、これまで数多くのテーラーや様々なレベルの既製服を見てきた経験から、ここ数年色々と思うことがあり、その疑問を彼にぶつけたことから始まりました。
その疑問とは、最近日本やアジアでは仮縫い付きのサルトリアで仕立てる服が最も優れていて、ファクトリーで作られた服はなんでもマシンメイドの一言でかたずけられてしまい、下に見られることが多いこと。
確かにサルトリアの服は地縫い以外は手縫いで縫われているので、その手間と手縫いで縫われた味わいはファクトリーメイドの服にはない趣があります。
とはいえ、手で縫われているからと言って、サルトリアの服がすべてにおいてファクトリーメイドの服より優れているかと言えば、私個人の考えはNOです。
理由は、サルトリアで仕立てた服であってもカッティングが悪く、とても野暮ったく旧世界的に見えてスタイリッシュな感じが全くしない服を今までたくさん見てきたからです。
自分自身もこれまでサルトリアでジャケットやスーツを何着も仕立て、いろいろなレベルのファクトリーメイドの服もたくさん着てきましたが、結局一番気に入って着ているのはスティレ ラティーノの服なのです。
理由は、古さや野暮ったさを全く感じさせないスタイリッシュに見えるカッティングと抜群の着心地の良さです。
そんな自分が抱いている疑問を彼に伝え、「こんなに素晴らしいジャケットやスーツを作っているのに、日本やアジアではSTILE LATINOはファクトリーで作られているという理由でサルトリアより下に見られている、自分はVINCENZOがサルトリアと同じ仕立てができる技術と技量を持っていることを知っているので、いつかそれを世の中に知らしめたほうがいい」、と話したところ、 ”中村 俺にとっては全然難しいことではない、やろうじゃないか”という話になったのが、このプロジェクトの始まりでした。
まさかすぐにやろうという話になるとは思わなかったのですが、数日後ミラノのショールームで採寸を行いました。
一般的にサルトリアの採寸はアバウトです。
仮縫いがあるのが前提で、仮縫いで補正すればいいという考えなので、それほど緻密な採寸は行われないことが多いです。
メジャーが曲がっていて、こんなはかり方で大丈夫なの?と思うこともこれまで何度もありました(苦笑)。
一方VINCENZOの採寸は、仮縫いなしで体形補正まで入れたMTM(パターンオーダー)をずっとやってきたので、採寸が非常に緻密です。
この採寸であれば、一回目の仮縫いがかなり高い精度で上がってくることは、服作りを知っていれば容易にわかることです。
その後ナポリのファクトリーで仮縫いの製作が始まります。
VINCENZOの指導の下、職人さんが手縫いで仮縫いを仕上げていきます。
VINCENZOの気合の入り方がすごいです(笑)。
上がってきた一回目の仮縫いは、予想していたとおりかなり精度が高く、あまり修正するところはないかなという感じでしたが、VINCENZOが見れば完ぺきではなく、細部をかなり細かくチェックしてメモしていきます。
パンツはラインはとても綺麗に上がっていましたが、ひざ幅と裾幅が細く感じたので、そこだけは自分から修正をお願いしました。
仮縫いをしながら息子たちに仕立てのレクチャーをするVINCENZO。
こうやってファクトリーの中だけでなく、現場で自分の技術を息子たちに伝えるのは、モデリストとして様々なファクトリーで技術指導をしていた父親のCESAREについて、10代の中頃からモデリストとしての技術を学んだことと同じなのかもしれません。
PITTIの期間中、自分の仮縫いのスーツがディスプレイされ、ブースを訪れる世界中のバイヤーやジャーナリストにVINCENZOが熱心に紹介していました。
自分が色々言ったことで、VINCENZOの職人魂に火がついて、ちょっと大変なことになってしまったかなと・・・
その後10月に彼らが来日した時に2回目の仮縫いを行い、今年の1月の出張の際にミラノのショールームで最終の微修正を行い、先日私の手元に届きました。
生地は繊細で縫うのが難しい、SUPER 160‘Sの千鳥格子の生地をあえて選びました。
柔らかくて繊細な生地は誤魔化しがきかないので、手縫いで綺麗に縫えるかどうかの一つの判断材料にもなります。
イセの分量をたくさん入れているので、袖の前側のふくらみがたっぷり出ています。
通常の既成のラインでも、この部分は他のブランドと比べてボリュームがあり優れている部分ですが、ハンドならではのボリュームが出ています。
襟と芯地を縫い付けるハザシも手縫いですが、一般的なサルトリアの仕立服に比べても繊細な縫いになっています。
ボタンホールももちろん手縫い。
ステッチも手縫いなのは襟裏のカラークロスを見るとよくわかります。
片倒しのステッチももちろん手縫いです。
O脚でふくらはぎが張っているので、パンツはクセ取りをしたS字のラインになっています。
指定はしていませんが、ダブルのモーニングカットで上がってきました。
早速試着してみました。
ナポリに送るのではなく、日本のお直し屋さんで・・・
簡単な直しであれば、日本で直して変わらないので、ナポリに送り返すようなことはしません。
こだわりはありますが、頭は柔軟です。
話が持ち上がってから13ヶ月。
STILE LATINOの初の仮縫い付きのスミズーラは、彼らの情熱とともに届きました。
30年以上に及ぶバイイング経験の中で、本当に多くのテーラーや既製服のブランドやファクトリーを見てきましたが、自分のSARTORIA HEROはやっぱりVINCENZO ATTOLINIであることを今回再認識しました。
今回のプロジェクトが始まってから、たまたま見つけたパリのメゾンのレジェンド、FRANCESCO SMALTの言葉。
レジェンドのお言葉を借りて僭越ながら、私が伝えたかったのもまさにこういう事だったのです。
”一着のスーツとして美しいのかどうか、それがすべてなのだ”
本質を突いた、本当にいい言葉です。
VINCENZOもこれを見たら同じ思いであるに違いないと思います。
入荷早々ほぼ完売となってしまった、私のリコメンドのBRILLAオリジナル マルチストライプ プルオーバーシャツ。
https://www.beams.co.jp/item/brilla_per_il_gusto/shirt/24110530306/?color=90
生地が手配でき、4月末~5月初め頃に再入荷します。
ご購入できなかった方は、是非ご予約いただければと思います。
私も購入できなかったので予約します。