BEAMS F 45周年
MR_BEAMS CHANNELで今シーズンおススメのスーツとして紹介した、BEAMS F 45周年スペシャルのスーツ。
動画を見ていない方は、”普通の無地のスーツ” と思われるかもしれませんが、それが違うんです。
生地は80年代後半から90年代中頃まで、BEAMS Fの定番として長く使われていたCANONICOのSUPER 100’Sの生地を復活させました。
この生地は私がBEAMS Fのバイヤーになってから現在まで、BEAMS Fの歴史の中で最も長い間、無地の定番のスーツやブレザー、パンツなどで使われた、いわばBEAMS Fのオリジナルの歴史を物語る生地です。
当時日本ではそれほど知名度のなかったCANONICOが日本で有名になったのも、BEAMS Fがかなり貢献したのは間違いありません。
生地の特徴は、縦横の番手が 56番の双糸使い(梳毛糸)で打込がCMあたり縦31.5本、横2
洋服屋しかわからない専門的なことを書いてしまいましたが、簡単に言うと、細い番手にできるクオリティーの糸を敢えて太いまま、縦糸も横糸も双糸使い(糸を二本でツイストして一本の糸にする)にして密度をしっかり打ち込んで織ることで、英国生地のように型崩れせず長く着続けられる強度を持ちながら、イタリアの生地らしい滑らかなタッチも感じられる、とてもバランスの良い生地です。
当時既にイタリアの生地は横糸が単糸で、柔らかく滑らかなタッチであるものの、型崩れしやすい生地が多く、CANONICOのように縦横双糸でしっかり打ち込んで織られた生地を作るメーカーは少なくなっていました。
昨今、英国調の流れもあって、イタリアの生地メーカーも縦横双糸の生地が増えて来ている傾向もあり、それならば当時評価の高かったこの生地をBEAMS Fの45周年に復活させようと思いました。
どうせ復活させるのであれば、セルベージを入れようということになり、”VITALE BARBERIS CANINICO 1663 FOR BEAMS F 45TH ANNIVERSARY ” と入れました。
ですが、文字が長すぎて生地を広げないとセルベージの文字全体を見れないということになりました(苦笑)。
そのセルベージがどこで使われるかと言うと。
ジャケットの内ポケットの中と、パンツのヒップポケットの中に使われています。
英国生地やイタリアの生地でもオーダー用の生地にはセルベージが付いているものが多く、ジャケットやスーツをオーダーで作ると、どこかにセルベージが見えることが多いと思います。
今回もオーダーで作ったような雰囲気を出すために、二カ所でセルベージが見えるようにしました。
作りはリングヂャケットのハンドメイドラインです。
襟は既製服であればKITONやATTOLINIクラスしかやっていない、上衿を後からハンドで付ける ”かぶせ襟” です。
かぶせ襟なので、上衿と下襟は当然手縫いで付けられます。
ハンドラインの特徴でもある表地を使った細いお台場。
見た目の良さだけでなく、胸の部分が柔らかくなるという利点もあります。
裏地をつけるのが難しいので、縫製に時間がかかる仕様です。
ボタンホールは手縫い。
綺麗過ぎてマシンメイドと見分けがつかないという人もいます。
あるナポリのサルトリアは ”こんな綺麗にできるはずがないのでマシンだ” と言っていましたが、間違いなくハンドボタンホールです(笑)。
イタリアでも英国でも、こんな綺麗な手縫いのボタンホールは見たことがありません。
パンツはビジネスで使う方にも抵抗なく穿いていただけるように、ワンプリーツのベルトループ付きのモデルにしました。
太くもなく、細すぎることもないオトナが穿ける丁度いいシルエットです。
ちなみに、BEAMS Fのオリジナルは、80年代後半から90年代前半は2インプリーツ、それ以降はワンインプリーツでした。
オーソドックスなベルトループ付きのワンプリーツのパンツと言っても、特別なスーツなので凝るところはしっかりこだわって作りました。
フロントの持ち出しが長いサルトリア仕様。
以前BRILLAのオリジナルでこの仕様のパンツをやっていましたが、トイレで用を足すときにフロントが外しにくいという声があり、普通の持ち出しに戻したという経緯がありました。
ですが、個人的にはシンプルなディティールのパンツは、こういうところにこだわりたいのです。
なので、個人的にはBEAMSのオリジナルのスーツのパンツは全てこの仕様にしたいと今でも思っています。
パンツのポケットのカンヌキは全てハンドです。
パッと見ただけではわからない部分ですが、こういうところもこだわりたいポイントです。
ちなみに、この生地はクリースが抜けにくく膝も出にくいので、パンツにはとても向いている生地と言えます。
個人的には、この生地を使った単品パンツも欲しいところです。
モデルは上の画像にある3ボタン段返りのシングルと6ボタンのダブルの二型です。
どちらもBEAMS Fのハンドラインのブレザーと同じフロントダーツの入ったモデルです。
結果的に当時展開していたモデルをアップデートしたモデルになります。
色はシングルはミディアムグレー、ダブルはネイビーです。
ちなみに、Youtubeの動画ではサキソニーと言っていますが、正式にはウーステッド フランネルです。
ウーステッド(梳毛)の糸でフランネル(紡毛)のような風合いを再現した生地と言う、一般の方には非常にわかりにくい複雑な説明しかできないですが、フランネルと言うよりはサキソニーのように起毛感が少ない仕上げなので、実物を見ていない方がイメージがつきやすいように敢えてサキソニーと言っています。
プロの方たちは、あまり目くじらを立ててあら探しをしないようにお願いします(笑)。
当時もリングヂャケット製でしたが、当時からクオリティーの高い毛芯を使って縫製していたので、BEAMS Fのスーツは長く着ても型崩れせず、生地が劣化しない限りは本当に長く着られると、お客様から評価されていました。
事実、この生地を使ったスーツをビジネススーツとして10年以上着続けているというお客様も当時多くいらっしゃいました。
先日もある古着屋さんで、この生地を使った90年代に販売されていたBEAMS Fのスーツを見つけましたが、30年前のものとはとても思えない状態を保っていました。
折しもCANONICOが今年360周年。
歴史の重みは全く違うかもしれませんが、これも何かの縁なのかなと思います。
10月入荷で既にかなり予約が入っていますが、ご興味がある方は最寄りの店舗にお問い合わせください。
品番はシングル 2117-0260、ダブル 2117-0261 です。
仕立ての良さと生地の良さもあいまって、本当に長く着れるスーツです。
最後にひとつだけ、昨今イタリアの生地の主流となっているSUPER表記の高いトロトロで柔らかい生地がお好きな方にはあまりおススメできません。
理由は、この生地は一般的な柔らかく軽いイタリアの生地に比べると英国の生地に近い雰囲気を持った生地です。
なので、しっかり織られたハリとコシのある英国生地が嫌いな方には向かない生地だと思います。
その点だけご理解いただければと思います。
祖父の生地屋を手伝っていた母が生前 ”良い生地はハサミを入れるとわかる” と言っていましたが、このCANONICOの生地はまさにそのような生地です。
ハサミを入れると手ごたえがあって、”ジョリっという音がする生地”
まさに変態の領域ですね(笑)。