最近インスタライブで80年代や90年代の話をすることが多いですが、色々資料を探していたら1995年秋冬のBEGINの特集ページの冊子が出てきました。
内容を改めて見ると、当時のBEAMSのドレスクロージングがどのような感じだったのか、とても分かりやすく掲載されているので、今回はその内容に少し触れてみたいと思います。
最初の見開きページはBEAMS FとINTERNATIONAL GALLERYのスーツスタイルの紹介。
この年の秋冬のBEAMS Fのテーマは ”RETURN TO TRADITION” ということで、伝統回帰がテーマでした。
90年代は英国調がトレンドだったと度々お話していますが、この当時のBEAMS Fのオリジナルスーツは、ご覧のとおりかなり英国調でした。
フランネルのストライプスーツは3ピースでポケットはスラントポケット。
肩パッドもしっかりと入った構築的な仕立てでした。
シャツはセミワイドでダブルカフス。
ネクタイはサックスのサテンと、当時の英国人が見てもビックリのブリティッシュスタイルでした。
INTERNATIONAL GALLERYのテーマはREMIX MID-CENTURY MODERN。
当時はインテリアも音楽もミッドセンチュリーが流行り始めた頃だったので、INTERNATIONAL GALLERYのスーツも50年代や60年代のスタイルを当時の気分で表現したものでした。
ウィンドウペンのスーツは2ボタンのピークドラペル。
数年前にもピークドラペルのスーツが少し流行りましたが、自分はこの当時のイメージがあったので、突飛なトレンドとは思わずリバイバルということでその流れを積極的に取り入れましたが、当時を知らない人には ”そんな流行りのスーツは着れない” と言われ、SNSで炎上したりしていました・・・(苦笑)
こういうのをちゃんとお見せしていたら、もう少し信用されたのでしょうか・・・(苦笑)
シャツはルイジボレッリのセミワイドのダブルカフス。
当時は英国調の流れが強かったのでダブルカフスは今より一般的で、洋服に興味のあるビジネスマンの方たちもビジネスシーンで普通に着ていたものです。
ちなみに、この当時まだイタリアンクラシックという言葉はなかったので、BEGINではイタリアのクラシックをイタブリ(イタリアン ブリティッシュ)と言っていました。
次の見開きページでは、スタイリングページでモデルが着ていたスーツの仕様などを細かく解説しています。
当時はウエストのシェイプがしっかりと入ったメリハリのあるシルエットが主流だったので、BEAMS Fのスーツはドロップ8で作られていました。
ドロップ8とは、胸囲の寸法に対してウェストの寸法が8インチの差がある事を表しています。
なので、ドロップの数値が大きいほどウエストが細くなります。
ちなみに、現在のBEAMS Fのオリジナルのジャケットやスーツはドロップ7。
90年代後半からのイタリアンクラシックブーム以降はドロップ7が主流になり今に至っています。
パンツは2インプリーツで裾幅は21㎝、ダブル幅は4.5㎝~5㎝で軽めのワンクッションと書いてあります。
今のBEAMSの若いスタッフがはいているパンツとほぼ同じ感じです。
INTERNATIONAL GALLERYのスーツもドロップ8でしたが、肩幅も狭くよりナローなシルエットに見えるラインでした。
画像でもわかるように、BEAMS Fのスーツに比べても更にメリハリのきいたシルエットなのがわかります。
この当時はウィンザー公のスタイルがちょっとしたブームだったので、ウインドウペンのスーツは大人気でした。
パンツは1アウトプリーツで裾幅は19㎝と、当時としては攻めたテーパードシルエットですが、実は90年代中頃は既にイタリアンクラシックの流れが少し見えていた時期なので、ある意味トレンド先取りのシルエットだったと言えます。
当時32歳の私・・・
4つボタンのフィッシュマウスのコーデュロイスーツを着ています。
当時はパリのARNYSのような、こんなスーツもBEAMS Fで展開していました。
ページの下には、このシーズンのオリジナルのジャケットやスーツに使われているファブリックメーカーも紹介されています。
既に廃業してしまったメーカーもあります。
最近人気のFOX BROTHERSも当時すでに使っていました。
90年代前半頃には既に使っていたので、にわかFOXブームに乗っかている人たちとは年季が違います。
偉そうに言ってすみません(笑)。
BEAMSのオリジナルスーツの作りを解説したページ。
”驚異のつくりとディティール大公開!”って、かなり大袈裟な見出しですが、当時の日本のスーツとしては本当に驚異的な作りとコストパフォーマンスでした。
今のオリジナルは、この当時のものを20数年間かけて更にアップデートさせていますが、27年前にそのベースは既にできていたことになります。
最近こういう話をあまりしないので、スタッフやお客様の世代もかわり、作りの良さやコダワリみたいなものがあまり伝わっていないのかなと思い、先日オリジナルのスーツの作りを解説した動画を収録しました。
あまりにも内容がマニアックすぎて編集が難航しているようですが、今月中にはアップしたいと思います。
楽しみにしていてください。
ネクタイのページは当時のBEAMSを代表する2ブランド。
BEAMS FはDRAKE'S、INTERNATIONAL GALLERYはFRANCO BASSI、今は両ブランドともBEAMS Fでバイイングしていますが、当時はイタリアブランドはINTERNATIONAL GALLERYがバイイングしていました。
DRAKE'Sがマダープリント、FRANCO BASSIがフェルモ フォサーティのジャガードと言うのも、当時の英国とイタリアのネクタイブランドの特徴をよく表しています。
シャツはBEAMS Fが英国のJERMYN STREET SHIRTS MAKERS、INTERNATIONAL GALLERYがナポリのLUIGI BORELLI。
当時BEAMS FはTURNBULL&ASSERのシャツを作っていたJERMYN STREET SHIRTS MAKERSとエジンバラ公御用達だったSTEPHENS BROTHERSが主力ブランドでした。
自分もその二つのブランドは当時よく着ていました。
LUIGI BORELLIはナポリのハンドメイドシャツとして既に日本で大人気のブランドでした。
画像のボタンダウンシャツはLUCA BDという当時大人気だったワイドBD。
今はBEAMSの別注でNAKAMURA BDというモデル名で展開しているのがこのモデルです。
靴はBEAMS FがGEORGE CLEVERLEY、INTERNATIONAL GALLERYがALDEN。
90年代前半にポールセン スコーンのキーマンだったジョンカネーラとジョージグラスゴーが独立してジョージクレバリーを始めたのをきっかけに、BEAMS Fの主力ブランドもジョージクレバリーになりました。
ジョージクレバリーと言えばクレバリーラストとも言われたチゼルトゥ(ノミで削ぎ落したようなスクエアトゥ)が特徴だったので、レディメイドも殆どのモデルがチゼルトゥでした。
当時はイタリアブランドのスクエアトゥが注目され始めた時期とも重なり、クレバリーのチゼルトゥもとても人気がありました。
今はALDENと言えばBEAMS PLUSのイメージが強いかもしれませんが、当時はプラスはなかったのでINTERNATIONAL GALLERYで定番も含めてALDENをバイイングしていました。
INTERNATIONAL GALLERYのテーパードしたパンツにボリュームのある靴を合わせるのが流行っていたので、V-TIPや外羽のプレーントゥやチャッカブーツはとても人気がありました。
コードバンのV-TIPが¥68,000・・・
いい時代でした。
裏表紙は小物とショップインフォーメーション。
注目するのは左上のアルバート サーストンのサスペンダー。
当時は鯨筋(クジラの髭)や羊や牛の腸を使ったエンドのモノがガットエンドと呼ばれ、サスペンダーはガットエンドでなければならないというのがBEAMSのこだわりでした。
90年代後半くらいにガットエンドを使ったものが生産中止となり、以降レザーエンドのものが主流となりました。
ガットエンドのサスペンダーは今やビンテージアイテムとして高値で取引されていますが、ビンテージ好きの方は手に入れておいた方が良いと思います。
実はガットエンドが無くなった後2000年代前半頃に、代替え素材を使ってガットエンド風のものが作れないかサーストンに打診したことがありました。
ある素材を使ってかなり近いファーストサンプルが出来ましたが、その後ペンディングになってしまったという経緯があります。
長い間この仕事をしていると、本当に色々なエピソードがあるものなんです。
ご覧のとおり、大まかに言えば90年代はBEAMS Fが英国、INTERNATIONAL GALLERYがイタリアというバイイングでした。
なので、当時BEAMS Fではイタリアのブランドはほとんどバイイングしていませんでした。
今でこそINATERNATIONAL GALLERYはモードブランドがメインのバイイングですが、当時は今BRILLAで展開しているようなテイストのものと、モード的なトレンドアイテムの両方をバイイングしていました。
なので、この頃のINTERNATIONAL GALLERYのドレスのテイストは、BRILLAが引き継いでいるとも言えるのです。
このような歴史は40代中より若いお客様やBEAMSの若いスタッフも今や知らないことが多く、今の流れを知る上でも知っておいた方が良いことだと思っています。
自分がBEAMSに入社した80年代中以降、英国、アメリカ、フランスと、様々な流れがありました。
イタリアのクラシックが一般的になってからまだ20年ちょっと。
そう考えると、色々なテイストがリバイバルしても ”流行もの” として片付けられるのも仕方がないのかなとも思います。
”温故知新”
様々なテイストが入り組んでいるいま。
古きをたずねて新しきを知る。
これは大事なことなのかなと思います。
ただし、偏らないのが大事・・・
昔を語る人って、偏っていることが多いんです・・・