楽天が7月19日から始めた電子書籍事業。電子書籍専用端末「kobo Touch(コボ タッチ)」の投入と同時に、電子書籍ストア「koboイーブックストア」を開設した。
ただ、サービス開始初日から、端末の初期設定が行えないなど問題が多発。また、そうしたユーザーの不満の声が書き込まれた自社の口コミサイトを突如閉鎖するなど、随処に混乱が見られた。
事前の準備に問題はなかったのか。果たして、事後対応はこれで良かったのか。三木谷浩史会長兼社長に聞いた。
――サービス開始から約一週間。トラブルもあったが、出足をどう評価しているか。
総合的に言えば、大成功だ。端末は10万台近く販売したし、購入された端末のアクティベーション(初期設定)も90%以上終わっている。
アクティベーションは同じコボの端末で欧米だと3カ月くらいかかって70%に到達するので、それに比べると、大変うまくいっている。
具体的な数値は言えないが、コンテンツの売り上げについても、出版社の各経営陣が驚愕しているという状況だ。
トラブルについては今回、コボタッチはEPUB(イーパブ)3という革新的な電子書籍フォーマットを採用していることもあり、初期設定のところで特殊な環境にいる方が中々うまくいかないという事例があった。
たとえばパスワードを漢字で入力している人が上手くログイン出来ないだとか、一部のウィンドウズのバージョンについては、デスクトップアプリがインストールできないという問題があった。
ただ、その問題については、2日以内にほぼすべてをつぶした。コールセンターも発売翌日から24時間対応を始めたことで、問題なく対応できたと思っている。
これは楽天の特徴でもあるが、その後もコボの本社があるカナダと日本が連携して日々改善している。100点満点といえないが、そういう意味で、95点と言えるだろう。
――トラフィック(=インターネット上の情報量)が想定以上にあった影響もあるようだ。
最初の1日だけの問題だ。インターネットの世界にはコンテンツの物流ネットワークがあり、コンテンツはキャッシング(=大量配布用の一時的データの生成)されるまでにそれなりに時間がかかる。
コンテンツが十分行き渡るためにはキャッシュサーバーに吸い取ってもらわないと、本来のサーバーにコンテンツはたまっていかない。その調整に1日ほどかかった。もしかしたら、1日半かもしれないが。
――ということは、ほぼ想定内のトラフィックだったということか。
トラフィックは想定以上だった。先程も言ったように出版社は売り上げの金額に驚いているし、コボ側もここまで急激にアクティベーションされるのかと驚いている。
もう1つは、ファイルの大きいマンガに売り上げが集中したことが大きい。この3つが初日に起きたトラブルの要因だ。ただ先程も言ったように100点ではないが、ちゃんとマネージできているということを強調したい。
■7月20日(金)に六本木グランドハイアットで行われた、コボのローンチ記念イベント。講談社の野間省伸社長、角川グループホールディングスの角川歴彦会長など、錚々たる面々が顔をそろえた。
――こうしたトラブルに対し、楽天市場の口コミサイト「みんなのレビュー」(http://review.rakuten.co.jp/search/kobo+touch/-/s4/)には、不満の声が寄せられたが、7月23日の午後に突如消されてしまった。これはどういうことか。
機能の問題自体は2日以内に解消されたわけだから、間違った情報を残しておくことは逆にエンドユーザーに対して間違った情報になってしまう。一回整理しましょうとうことで、そういう措置を取った。
初期段階のリリースに関する不具合は別なところで受け付けた方がいいということで、サポート体制を構築している。
――三木谷社長自身が口コミを見て、閉鎖を決断したと言うことか。
そうだ。アイフォーンでもアンドロイドでもそうだが、1万台に1台しか出ない不具合がたくさん出ていると、あたかもすべてがそうだという風になってしまう。
不具合はゼロならゼロがいいが、エンドユーザーに正確に理解してもらうことがわれわれのミッション。代わりにコボからのお知らせや、コボニュースという自らの情報発信も始めている。
――とはいえ、口コミサイトのコボの画面は「アクセスが集中していて、一時的に見れない」という表示になっていた。機能の問題は解消したので、正確な情報はこちらで見て欲しい、口コミは誤った情報が含まれているので一時的に閉鎖している、と表示すべきではなかったのか。
そういうテクニカルな反省材料はあるかもしれない。ただ、90%以上の人がアクティベーションが終わっているわけだから、その問題は置いておいて、より使い勝手のいいように改善していく。
――コボの特設サイトには、「お客様の声」として、コボを賞賛するコメントが載っている。公式情報以外の口コミサイトを閉鎖するなら、こちらも同時に見れなくするべきではないか。
見てないので、わからない。繰り返しになるが、大体のネガティブなコメントというのは、ほぼ全て初期設定の問題であり、それについては対応済みだ。初期設定以外のクレームはほぼない。
■一方コボの特設サイトでは、機能性などを賞賛する口コミが依然として残されている。
――口コミサイトは近日再び見れるようになるのか。
どういう形で再開すればいいか検討している。今までの楽天市場に出店してもらっている店舗のサイトとは違い、コボは楽天自身の商品の直販サイトに近いから、ある程度口コミを吟味して再度出すという可能性もある。
150万点の到達も十分可能
――コンテンツの量についてだが、当初サービス開始時に3万点そろえるはずだったが、19日では約2万点、無料でそもそも一般公開されている青空文庫のものが1万点を占めている。なぜこのような状況なのか。
出版社との契約自体は終わっているが、出版社にチェックしてもらう作業が終わっていない。待ちがあるという状況だ。7月中には3万点をそろえられるし、8月末には6万点、今年末に20万点までいく。
当面のペースとしては、1日1000点ずつ増やす。コンテンツもマンガに限らず、テキストのものを増やしていく。
出版物の電子化作業を支援するため産業革新機構が150億円出資した「出版デジタル機構」の取り組み状況にもよるが、2年以内に150万点に到達出来ると見ている。150万点あれば、全然違う世界になる。
――7月19日のタイミングが早すぎたということはなかったのか。非常に急いでいる印象があるが、なぜこのタイミングになったのか。
今回は夏休みの前にやりたかった。タイミングの理由については、それだけだ。本当は夏のボーナス商戦に間に合わせたかったが、それに間に合わせられなかったのが、正直なところ。
なぜ夏休み前にやりたかったかというと、電子書籍の専用端末は旅行に最も適しているからだ。タブレットと違い、外でも読めるし、電池が切れないという特徴もある。
――アマゾンのキンドルが日本に上陸する前にやりたいという思いもあったのでは。
彼らがいつキンドルを日本で出すかはわからないし、気にしてもしょうがない。みなさん対アマゾン、対アマゾンというけれども、われわれがまったく意識してないということはないが、そんなこと気にしてやってられない。いいものを作って、いい品ぞろえをして、エンドユーザーに喜んでもらうということを愚直にやっていくしかない。
――電子書籍事業は2011年8月から書籍配信サービス「Raboo(ラブー)」を始め、そのときは鈴木尚・楽天取締役常務執行役員が統括していたが、途中で三木谷社長の直轄になり、ソニーで電子書籍事業に携わった本間毅氏が現場の責任者になった。このいきさつの背景は。
元々私の直轄と言える形だったが、鈴木とは個人的に色々あり、対外的にも出版社の方々にわれわれとしては単純な一事業ではなく、全社レベルでコミットしているということを理解してもらう必要があり、そうした人事を行った。
――三木谷社長自身、積極的にトップ営業も行っているようだ。
バリバリやってる。
――そもそも電子書籍事業に参入することで、既存事業とはどのように連携を取れるのか。「コボ タッチ」の後継機種「kobo vox(コボ ボックス)」に楽天市場などのアプリケーションを搭載し、既存事業と相乗効果を生み出したいということは、楽天市場の出店者向けのイベントで自身が述べている。
「コボ ボックス」を日本でいつ投入するかというスケジュールは未定だ。基本的には欧米の販売状況を見ながら、日本での投入を判断することになる。今回の問題を見ても分かるように日本人のユーザーはクオリティに対してうるさいので、そこは慎重に判断したい。
相乗効果については、個人的に「神の雫」というワインのマンガが好きで読んでいるが、このワインどこかに売ってないかとついつい楽天市場で調べてしまう。
マンガだけでなくファッション誌を見て服を買いたい、小説に出てきた場所に旅行に行きたいなど、本自体がインフルエンサーになれば、新しい読者の楽しみができると思っている。楽天の既存事業との連携も可能になる。
――開始1週間について改めて振り返り、これまでのネットサービスは開始してから改善するというやり方が多かったと思うが、こと書籍に関しては、これまでのユーザーと反応が違ったのでは。
今回はインターネットのヘビーユーザーではない人もコボを買っていて、非常に興味を持っている。そのため、初期設定はより簡単にする必要があることを学んだ。
間もなく、コンピュータにつながなくても初期設定出来るようにする。そういう簡易化はどんどんやっていく。
ただ、どのユーザーからも、いったん使い出してしまえば、サービスやインターフェイスに関する評価はものすごく高い。初期設定の部分を除けば、値段が安い、使いやすい、かっこいいという評判がほとんどだ。
言い方が悪いかもしれないが、改修した問題については、ミスリーディングする口コミは消して、それ以外のものに関してはできるだけ残したらどうですか、というのが基本的な考え方だ。
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