シャンプーその2
車椅子に乗れるようになったある日、また洗髪してもらえることになった
。仲良くなった看護師のFさんが車椅子で浴室
まで連れて行ってくれて、そのまま洗髪してくれた。浴室
は広く、入り口から奥に向かって緩い下り
になっていた。浴槽は大きなステンレス製のもので、下のタイルに埋め込まれることもなく、置かれているだけというように見えた。浴槽の横には1リットル以上の大きさのイソジンの大きなボトルが置かれていた。浴槽の置くにはシャワー
があった。
洗髪の間、たわいもない話をしていたのだが、疑問
に思っていたことを
聞いてみた。
「ここの先生たちはみんなすごくいい体格をしているけど、それって、そういう人じゃないと務まらないってこと?
」
「違いますよ!ここは2階までしかないでしょう?!本館だと7階まであるから階段の上り下り
で運動するけど、ここに居るとしないから・・・。それと、ここでは下っ端の研修医の先生が三食
賄いをするんですよ。本館の病棟だったら、食事
ができないこともありますけど、ここだと三食きちんと食べて、運動しないから、みんなああなるんですよ。
」
洗髪が終わると、今度は脚を洗うこととなった。
Fさんはバケツにお湯をたっぷり入れ、石鹸をつけてそうっとなでるように洗ってくれた。そして今度はこんな話をしてくれた。
「ここって、処置室に運び込まれてすぐに亡くなる患者さんが多いんですよ。初めはなんて声を掛けたらよいかわからなくて、涙
が出ました。今でも辛いですよ。私も兄を亡くして、看護婦
になったんです。」
彼女は肉親を亡くす悲しみ
を知っているからこそ、余計に辛いのだろう。でも、そのために初心を忘れない看護師でありつづけてくれるだろう。いつまでもそんな看護師さんでいてもらいたい
。
洗髪と足浴が終わると、動きたくてウズウズしだしていた私は、自力で車椅子をバックさせ、ドアまでのゆるい坂を上っていった。
「(救命救急)センターの患者さんでこんな元気な人いないですよ!
」
Fさんに呆れられた。
余談だが、1年後、私は脚に入っていた髄内釘という金属の棒を抜くために本館に入院したのだが、その手術のあと、じんましんが出て、皮膚科送りとなった
。入院中の患者の場合、外来患者が終わってからなので、ほとんど待たずに診てもらえる。
診察室に入ると、
「こんにちは。」と女性の声。
「
こんにちは?」と返し、見ると、Fさんがいたのである。配属が皮膚科外来に変わっていたのだが、憶えていてくれた
。整形外科外来に変わったSさんも憶えていてくれていたが・・。私って記憶に残りやすいタイプの患者らしい・・・
。
診察してくれる医師を尻目に、ついつい昨年の思い出話や同室だった人たちの近況を報告するなど話し込んでしまった。診察が終わり、診察室を出ることとなった。松葉杖を使っていたので、Fさんがドアを開けてくれた。診察室を出ようとすると、
「また来てくださいね。
」
「病院はもういいよ。
」
「そうですよね。
」
すっかり普通に生活できるようになった今、Fさんにここまで回復した
と見せたいと思う、今日この頃である。「再会させて!」って探偵ナイトスクープにでも出してみようかな?!