‘ 魔が入る’ とよく聞く言葉ではあるが、
実際にその‘魔 ’とやらを日常生活で感じながら生きている人はごく少数であろう。
単純な発想ではあるが、
修行僧などは娑婆の煩悩を断ち切りながら生活をしているイメージなので、
「魔に巻かれぬようにせねば!」
などという思考をしているのかな・・・などと考えてしまう。
そんな「魔」とやらを、たった本日、
夫との修行中の身である私は感じてしまった。
***
外はいよいよ冬が来たなと思わせるほどに冷え込んでいる。
そんな中、私はぬくぬくと暖房の効いた事務所で事務仕事をしていた。
金庫の中を確認すると、25日の給与の時に必要なだけの金種が揃わない。(給与は振込だが雑費の)
銀行に行かねばな・・・と事務所を出ると、
つい先月会社用にと購入した80坪弱の土地でうちの社員2名が仕事をしている。
「お疲れ様です」
声を掛けると一人は仕事の電話中で、もう一人は私の声に気づき
「お疲れです」
と会釈をされた。
「寒いですね、風邪をひかないようにしてください」
これは会う社員全員に言っている。
無口な彼は「どうもありがとうございます」と小さく会釈をして見せた。
そして電話中のもう一人は、鉄柱を建てるのにすぐそこのホームセンターへ材料を買いに行くと言っている。
二人になった。
突き進めば小高い山がある。
うちの会社の倉庫はこういう場所にある。風が吹き抜けやすい地形をしているのだろうか、吹き抜ける風が強く、よりいっそう冷え込みを感じる。
「ああもう寒いんで、ここのうちの土地の作業はほどほどにしてくださいね」
と言って私は私で銀行へ向かおうとしたところ、
「あの、」
と呼び止められたので立ち止まり「はい」と返事をしてクルっと振り向いた。
「あの、まだ社長とは1度しか一緒に仕事出来てないんですけど、どんな社長ですか」
とよくわからないことを聞かれた。
「ん?どんなって・・・とりあえず色々と豪快だけど神経質、っていうと分かりやすいかな・・・」
と言うとやっぱり真顔である。
真顔が常にほんのり微笑んで見えるのは整い過ぎた顔立ちのせいだろう・w・;
「何か社長に言われました?気にしないでくださいね~、何でも言っちゃうんでw」
以前夫は私たち夫婦がセックスレスだったのにそれがここ最近解消されたのだと、その社員さんに話したらしいのだ。
余計なことを・・・
と思った。
いつ、どこで余計なことを言っているか分かったもんじゃない。
「いえいえ、社長が羨ましいなと思って。こんなきれいな・・・、ああでももうここ寒いんでいいです。じゃあ。お疲れ様です」
と言って彼は方向転換して作業をしていた場所へ戻って行った。
友人らからは「はるは色恋沙汰に鈍感だ」と言われはしてきたが、
全く何にも気づかないわけではない。
これは・・・
これは「魔」だよな・w・;
隙など見せてはならぬよな・w・;
というセンサーが私の中で発令された。
冷たい北風に吹かれながら背筋をピンと伸ばして車まで歩いた。
車に乗り込み、何気なく車内のバックミラーで自分を確認すると、
唇が真っ青だったwwww
いや、今日寒すぎww
なんだろー
魔が入る。
完全に魔が入っている。
しかし彼は真面目な人であるし、いかにしても社長の嫁をどうのこうのなど
思ってなどいないだろう。
それにしても、あの優しい少し目じりの下がった憂いに満ちた目。
似てるんだよなぁ・・・(涙目
人はこういう時に、何の自覚もないまま恋に墜ちるのだろう。
そして、取り返しのつかない罪を犯してしまうのだろう。
私はそんなことはしない。
彼のためにも自分のためにも、家族のためにも。
養育費を払い続けていかなければいけない彼のためにも、
また気の迷いを払って仕事に集中してもらわなければならない。
必要最低限以外の会話は出来るだけ避けようと思った。
そんな今日の出来事。
そんな今日、夫は研修会で新幹線に乗り遠方に行っている。
これまたなんというタイミング・・・
外は薄らと暗くなっている。
まさに逢魔が時である。