海の話をします。

大学のころまで、ずっと横須賀市に住んでいました。
私のずっと住んでいた家は山の上にありましたが、横須賀の中では、どこにいたって海がどこかに見えました。
周りをぐるりと海に囲まれているような地形で、
高校の教室からも、行き帰りの道でも、電車の窓からも、視界の端では海をずっと眺め続けていたのです。

海はいつだって遠くにありました。
天気がよくて風の強い日に時々潮の香りが流れてくるくらいで、海の水に触ったことなんて本当に数えるくらいしかありません。
横須賀の海は軍港で、おいそれと立ち入れるような場所ではなかったのです。

ただ、いつだってそこにあるものでした。存在を意識しなくても、確かにそこに。
記憶の中の海は寒い時も暑いときもいつだって青かったから、横須賀の空は海の色を映して、いつも晴れていました。
好きというよりもそれは憧れの対象で、横顔の印象だけがぼやっと浮かんでいます。


海のどこが良いのかというと、単純にとにかく大きいところです。
横須賀にある他の何よりも大きい。
常に静かで、どんなに大きな船が通ったとしてもすぐに何事もなかったかのように元に戻ります。
それに何よりも、
見覚えのあるかたちを視界の端に捉え続けている限り、知っている道からどんなに離れてしまっても迷わない。必ず元の場所にたどりつけます。

横須賀で見える海は、いつでも水平線まで一直線に伸びています。
あまりにもくっきりと見えているので、
手を伸ばせば届くとまでは行かなくても、ちょっと泳げばすぐに手でつかめるように思えます。
でも、港を出港した船がゆっくりゆっくりと小さくなり、やがて雪みたいに消えてしまうと、
海の大きさを思うのです。

そのたびに海の遠さを思い、何よりも安心感を得るのです。




海とあなたの物語:
http://www.youtube.com/watch?v=wJDuO_Z-ue8