ブーランジェリー•ドリアンの工房見学

最後に日本を訪れたのは2018年の夏でした。それから6年ぶりに一時帰省しています。久しぶりの故郷を訪れ、日本という国の良さを改めて感じる日々です。



家族や親戚、そして友達に会うのが最も重要なミッションになる中、私にはもうひとつ大切な目的がありました。それは、deRien焚き火を囲んで眠る学校の3期生として、広島のパン工房への見学に行くことでした。



家族で広島に2泊3日滞在し、原爆資料館や宮島を観光した後、最終日は1人で広島市南区にあるブーランジェリー•ドリアンの工房へと向かいました。


早朝4時半にタクシーを予約し、朝5時から始まる仕事を見学。工房に着くと、もう従業員のみなさんは準備万端で、私を温かく迎えてくださいました。

薪窯への​着火 火のエネルギー


工房に入るとすぐに、履いていた靴を室内用の靴に履き替え、エプロンを付けて頭に手拭いを巻き、見学がスタートしました。



工房の1番最初の仕事、それは薪窯への着火でした。お願いします!という塚原さんの声掛けの後、お願いします!とスタッフの声が続き、薪窯への火入れが行われます。

(写真は、ツカノマパンの塚原さん)

初めて目にする薪窯。薪と火の力で窯が温まり、そして熱くなった石の上でパンを焼くのです。パンが焼ける頃合いになるまで、何度も何度も薪窯の様子を見に行き、薪入れをしては窯の温度を測定するという動きに合わせて、私もついてまわりました。



薪窯の側にしゃがむと、勢いよく燃える火のエネルギーが感じ取られました。ここでパンが焼かれていくのです。炎の威力はものすごいもので、正直私自身圧倒されました。

​翌日用のパン生地の仕込み

薪窯を準備する傍ら、翌日に焼くパン生地の準備です。計量された粉類を機械に入れ、水が入ったバケツと鍋で温められた熱いお湯とを手際よく混ぜ合わせながら、パン生地に最適な温度になる水を作っていきます。



最初はカンパーニュ。粉と水を機械で混ぜるのが始まると、塩の準備。塩と残りの水を入れたボールが準備されました。それと同時進行で、ライ麦パンの材料も計量。



カンパーニュのオートリースの間には、ライ麦パンの生地をこねるという具合に、ひとつひとつの作業には無駄な動きはなく、私はひたすらその側でじっと見ていました。



パン生地準備中には、何度もピピピとタイマーが鳴ります。その音が合図となり、薪窯へ行ったりまた次の生地の作業をしたりと、どんどんその日のスケジュールがこなされていきます。ひとつの作業が終わると、その片付けまでも完了するので、作業場は常にきれいに片付いていました。

​薪窯でパンを焼く

翌日に焼く全てのパン生地と中種の仕込みが終わる頃には、薪窯の温度が完成していました。薪窯のアーチになっている天井辺りが白じろしている様子について説明を受け、それがパンを焼く最適な温度の目安にもなるようでした。



そして薪窯が完了すると、すすを取る作業があり、その後にパン焼きに入ります。前日に準備されたパンが冷蔵庫から出されて、薪窯の横で待機しています。上に掛けられたビニールを取ると、すぐさま畳んでラックに掛けて次に使うまで待機。



いよいよ窯に入る前の準備が始まります。ますばブリオッシュ。型に入った生地にクープが施されます。その次にブロンも。バヌトンに入ったパン生地に小麦粉が掛けられていき、薪窯に入る準備が整いました。

焼き1窯(1回目のパンを焼く)。初めて実際に目にする薪窯でのパン焼きです。ここでも、塚原さんのお願いします!の声の後につづいてお願いしますの声が響きました。



1番最初に窯に入るのは重さ2キロのカンパーニュでした。パン生地を縦に2つ並べられ、クープ入れが終わると2つ一気に右奥に入りました。続いて同じサイズのパンが2つ入った後は、1キロのカンパーニュが3つ同時に入っていきました。

お母さんの愛ある賄い ​

パンが全て薪窯に入った時、時計を見たら8時頃。朝食の時間となりました。田村さんのお母さまお手製の賄いです。愛あるカレーライス、とても美味しかったです。

食べている間はうれしいおしゃべりの時間となりました。とは言うものの、タイマーの音が鳴ると窯のチェックを行い、パンの焼き具合を見てはまた戻ります。ご飯が終わると仕込んだパン生地にパンチを入れます。



パンが焼けた時、こんがり焼けたパンたちは続々とパンの並べるラックに並んでいきます。


1窯目のパンが全て焼き終わり、窯の中にはパンがなくなりました。その残り火で、役割を終えたバヌトンは窯の中へ入り、カゴを乾燥させます。

初めての成形 ドリアンの​カンパーニュ

2窯目の火入れを準備しながら、仕込んだパン生地を成形していきます。なんとここで私に出番が訪れました。塚原さんから、成形してみますか?と声が掛かりました。カンパーニュの成形を経験させていただいたのです。



もっと積極的になるべきだった。それが今となっての思いです。カンパーニュの成形をやっても良いと言って下さってるのに、一瞬躊躇してしまったのです。カンパーニュの生地を触っても良いという塚原さんの判断なのです。すぐさま、はい!!と言うべきでした。

弟子の構えを取ることに集中。事前に動画を見て練習しておけば良かったと思いました。塚原さんは、成形は大して重要なことではない、ドリアンのパンはカゴに入れたらちゃんとドリアンのパンになる、と。



カンパーニュは綴じ目は下、綺麗な面を上部に、は田村さんの窯入れの動画を見ていたので既に発見していたけれど、間近でしっかりと見れました。



成形作業の後は、商品発送の準備の見学。箱や袋、送付先の住所のシールなどが並べられていて、注文票を見ながらパンの梱包作業現場を見させてもらいました。全国にドリアンのパンが旅立つ光景です。



いよいよ、2窯目の焼きが始まります。大きい2キロのカンパーニュが2つ入り、その後すぐにまたもう2つ。続いて1キロのカンパーニュが4つ一気に。続々と窯へ入っていく様子をすぐ手の届く場所で見ました。

1ヶ月研修に来られていたパン学校1期生の盛谷さんは塚原さんに、カンパーニュをひとつ窯入れするよう声を掛けられ、堂々とした趣でパンを窯へ入れておられました。



パンが焼き終える頃は昼食の時間。ため息が出るほど贅沢な天丼をいただきました。もう本当に美味しかったです。

初めて​見学して私が得たもの

ドリアンの工房でのフィールドワークを経験して1番私自身心が動いたこと、それは“薪窯で焼くパン”に対する思いです。薪窯を作ってそこでパンを焼く自分の姿が見えてきたのです。



正直、今までは意識していなかった薪窯に対する思いが、あの炎と共に焼いておられる姿を見て、一気に心が動き出しました。

1日ご一緒させていただいたスタッフの方々と、この秋から奈良の曽爾村で薪窯パン屋をスタートされる盛谷さんと写真を撮りました。この場所にいる自分が本当にうれしくてうれしくて。



日本滞在中の限られた1日の見学でしたが、私には得るものが多かったです。これから1日の出来事を振り返りながら、また前進していきたいと思います。



とても長くなりましたが、私の記録としてまとめました。今日もお読みくださり、ありがとうございます。