古城先生は『系統繁殖』を理論的に実践され、日本犬保存会の設立当初からその重要性を唱えた方です。しかし、このような複雑な相関図からブリーディングのパターンを読み取ることは困難を極めます。
古城先生がいつもテーブルに置いた4頭の犬の写真。先生はその写真を黙って並べる事で純系会が実践した『系統繁殖』=ラインブリードの基本パターンを示そうとされていたのだと私は思っています。
それでは【長春号】【長昭号】【陸奥号】の関係から見てみましょう。
上の図をご覧ください。
陸奥号は父:長昭号,母:登美号共に長春号の直子が使われていますね。『犬の専門用語辞典』によると
【ラインブリード とは】
系統繁殖とも言う。叔父と姪、祖父と孫娘のように親子兄弟以外の近親婚(3~5代間の血統上に同一個体が複数で使用される繁殖法)の事をいう。
と定義されており、この血統概要図でも本川系(長春系)四国犬はその名の通り長春号を幹として計画的にブリーディングされ、陸奥号でほぼ固定化した品種であることが確認できます。
図では色を変えてあります。この緑のラインが続くことで長春系と呼ばれることになる“系”つまり“長春のライン”を形成していきます。
しかし、古城先生のラインブリードではそれだけではなく、もうひとつ重要なファクターがあります。
『犬の専門用語辞典』の同項目でも
複数で使用される個体のもつ形質を強く固定させる目的で、共通の祖先をもつ同系統の犬同士を組み合せる。
といった説明がされていますが、上の図でももうひとつ青のラインが形成されていることに注目して下さい。
青のラインの祖犬は楠号です。
この緑のラインと青のライン2系統の祖犬が共に「四国本川村を原産とする山出し犬」つまり上記しました「共通の祖先をもつ同系統の犬同士」というわけです。
(図で*が付いているものが本川村山出し犬)
四国本川村という土地は古くから険峻で隔離的な環境にあったため、古城先生も「四国のチベット」などと形容していらっしゃいます。
一般に(里の)犬が物流や交易に伴って国内の犬同士、更に安土桃山時代頃以降からは海外から流入してきた西洋犬との交雑があったのに対し、本川村は「ガラパゴス島」的に犬種が固定化した特殊な地域であったことは愛好家ならご存知の方も多いかと思います。
その「本川村山出し」の名犬から2つの系統をつくり、まず長昭号に集めています。
長昭号の段階で「本川村山出し」犬という視点から見ると75%のハイパーセンテージとなっていますね。そして更に古城先生は長春号直子の登美号と掛け合わせることによって陸奥号を作出しています。
つまり陸奥号とは
長春号の系統を幹に楠号の系統を複線として持たせるという目的で、計画的「ラインブリード」を行なった結果、本川系四国犬が犬種として固定することになった四国犬の血統上重要なポイントとなる犬
であったわけです。
こうやって分析してみると改めて、古城先生のブリーディングが日本犬の黎明期にも拘らず、非常に理論的で明快な組み立てであったことを窺い知ることができます。
さて、4枚の写真のうち、なんとか3枚の謎は解けました。
次回は残りの1枚、長秋号に視点を移して純系会のブリーディングを見てみることにしましょう。
しかしつたない説明ですので解り難い点などもあるかと思います。不明なところやご指摘はコメントにてお知らせいただけると幸いです。(be-so)
―参考―
犬の専門用語辞典:ブリーディング
遺伝の法則 サイトに掲載された記事や画像の無断転載を禁じます>だそうです。
________次回は土佐純系会のブリーディング考察 Ⅲの予定です。