「女王様、私にお任せください」
スペイン女王の前に進み出た青年の目は輝くように燃えていた。
「この海をずっと西へ行けば、きっとインドにたどり着くはずです。必ずや香辛料を手に入れてごらんにいれましょう」
その男の名はクリストファー・コロンブス。
後にアメリカ大陸を発見した人物であった。
(注・彼がたどり着いたのはカリブ海に浮かぶ小島。この島が現在のどの島かについては諸説ある。また、実際にアメリカを新大陸であると認識したのはアメリゴ・ベスプッチである。今のアメリカの国名は彼の名をとってつけられた。ちなみにコロンブスは死ぬまで自分が到達したのはインドだと信じていた)
その頃、香辛料はインドでしか取れず、非常に貴重なものであった。しかし、当時は海を渡ってインドへ行く術が知られておらず、大陸を通していったので、非常に時間もお金もかかっていた。
当時は、世界は球体であるということが分かってきてはいたが、迷信を信じる船乗りの中にはまだ海は平らであり、海の向こうには魔物がいると考えている者もいた。
しかし、コロンブスは、この海を西へ西へと行けば、きっとインドにたどり着ける、そう信じていた。
コロンブスは、荒くれ者の船員を集めると、海(大西洋)を西へ西へと向かった。
延々と続く海。
どこまで行っても大陸は見えない。もう△日が過ぎようとしている。
船足が鈍った
広く生い茂る海域に迷い込んでしまったのだ。
「このままでは、ここから抜け出せなくなる」
船員は皆、動揺した。
ついに風もやんだ。果たしてこの悪魔の海域から抜け出せるのだろうか。動揺した船乗りは密かに計画をたてた。
「こうなったのも全部、あの大嘘つきのジェノヴァ野郎のせいだ。今夜、あいつを捕まえて海に落としてやろう。スペインへ引き返すんだ」
船内の不穏な動きを察したコロンブスは、その夜、船員ひとりひとりを部屋に呼んで、黄金の国ジパングや香辛料の国インドなど夢のような話をして、どうにか船員をおだて事をおさめたのだった。
船は前進した。
しかし、それでも海の向こうに地平線が見えることはなかった。
限界がおとずれた。
「コロン提督。あんたは、もうすぐ着く、もうすぐ着くと言っているが、陸なんてまるっきり見えやしねえ。俺たちゃあんたに騙されたんだ。あんたの大法螺はもうたくさんだ。今すぐ引き返すんだ。このまま航海を続けるつもりなら、俺たちにだって考えがある」
船員は殺気立っていた。もともと犯罪者やゴロツキばかり集めた野獣のような連中だ。殺すと言えば、本当に殺しかねない。
「今、俺を殺そうと思えば、殺すこともできるだろう。だが、オレを連れずに本国へ帰ったらどうなる?お前たちは犯罪者だ。縛り首になるだろう。あと3日だ。陸が近いのは間違いない。あと3日航海して無理なら引き返す」
コロンブスは約束しなければならなかった。
そして夜のこと。
闇の静寂を号砲が切り裂いた。合図の号砲だ。
「陸だ!陸が見えたぞ!」
目の前にうっすらと島の影が見えた。
「おお、神よ。あなたのお導きに感謝いたします」
コロンブスたちは島に上陸した。
大勢の島の住民が集まってきた。
「インドの原住民、インディアンだ」
近づいてきた原住民を見て、コロンブスたちはそう思った。
しかし、彼らはひとつ大きな間違いをしていた。
そう、コロンブスは死ぬまでその間違いに気づかなかったのだが、その大陸はインドではなかった。そして、カリブ海に浮かぶその島は、聖なる救世主という意味をもって、サンサルバドル島と名づけられた
先住民は、浅黒い体に白や赤のペイントをしていた。コロンブスたちを見ても怖がることもなく、微笑みながら近づいてきた、
彼らは実に穏やかで優しく、そして温厚だった。
彼らはオウムや投げ槍、つむいだ綿の玉などを気前よくくれた。彼らはコロンブスたちを天からやってきた使いであると信じ、コロンブスたちを丁重にもてなしてくれた。
彼らは欲のない純真な人間だった。彼らの持っているものを『欲しい』といえば彼らは決して『いいえ』と言わない。逆に彼らは『みんなのものだよ』と申し出るのだった。
コロンブスは思った。
「ここの住民は皆、親切で、疑うことを知らない。彼らは素晴らしい奴隷になるだろう」コロンブスの日記には、次のように記されている。
「彼らはいい身体つきをしており、見栄えもよく均整がとれている。彼らは素晴らしい奴隷になるだろう」と。
コロンブスは神に感謝を捧げた。
「彼らには宗教というものがなく、たやすくキリスト教徒になれるだろう」
コロンブスは、言葉と神を教え込むために、原住民を6人ほど連行した
次のような記述もある。
「私がインディアに到着するとすぐに、私が見つけた最初の島で、彼ら原住民(アラワク族インディアン)たちに、私に差し出さなければならないものがこの品々の中にあるのかどうか教え込むために、私は力ずくで原住民の何人かを連行した」と。
コロンブスはこの島で略奪を働くと、さらに奥地、キューバ島、イスパニョーラ島を探検した。しかし、ここで船が座礁してしまったため、39人を残して、コロンブスらはスペインへ帰還した。残った39人は、ここで植民地を作った。
帰国後、宮殿では盛大な式典が催された。
教会の鐘がなり、皆が彼を祝福した。
沿道沿いの人々は、皆窓を開けて、コロンブスの顔を一目見ようとした。歓声とともに、たくさんの花束が宙に舞った。
コロンブスは興奮の絶頂だった。
女王の前に出たコロンブスは言った。
「私は神のお導きによってインディアスを発見しました。これよりは、できる限りの黄金を集め、野蛮な先住民をキリスト教に導くことを私に与えられた使命と考えます」
王、王女を初め、そこにいた者たちは皆、ひざまづき神への感謝の祈りをささげるのだった。
2回目の航海。目的は征服だった。
新しい土地を見つけて植民地を作ること。黄金を見つけること。そして先住民をキリスト教に改宗させることであった。
コロンブスの日記には、こうある。
「彼ら(国王、女王)が必要とするだけのありったけの黄金、彼らが欲しがるだけのありったけの奴隷を連れてくるつもりだ。このように、永遠なる我々の神は、一見不可能なことであっても、主の仰せに従う者たちには、勝利を与えるものなのだ」
コロンブスの目的。それは「黄金」と「奴隷」だった。
2度目の航海はよりいっそう残酷なものとなっていった。
楽園は地獄と化した。
かつての楽園は、もうここにない。
あるのは、人肉の焼ける異臭と、腐臭、絶叫と血の海だった。
楽園に舞い降りたのは天からの使いではなかった。
血と殺戮を好み、黄金を漁る悪魔そのものだった。
あまりに残酷すぎて、自分の文章で書くのはしんどいので、以下、ラス・カサスの「インディアスの破壊についての簡潔な報告」よりそのまま抜粋します。

「一人でもインディアンが森にいたら、すぐに一隊を編成し、それを追いました。スペイン人が彼らを見つけたときはいつも、柵囲いのなかの羊のように、情け容赦なく彼らを虐殺しました。 『残虐である』ということは、スペイン人にとって当たり前の規則であって、それは『単に残虐なだけ』なのです。しかしそのように途方もなく残虐な、とにかく苛烈な取り扱いは、インディアンに対しては、自分たちを人間だとか、その一部だなどと金輪際思わせないよう、それを防ぐ方法になるでしょう。」「そういうわけで、彼らはインディアンたちの手を切り落として、それが皮一枚でぶらぶらしているままにするでしょう、そして、『ほら行け、そして酋長に報告して来い』と言って送り返すのです。 彼らは刀の切れ味と男ぶりを試すため、捕虜のインディアンの首を斬り落とし、または胴体を真っ二つに切断し、賭けの場としました。彼らは、捕えた酋長を火炙りにしたり、絞首刑にしました。」
コロンブスは、イスパニョーラ島のインディアン部族の指導者と睨んでいた一人の酋長を殺さずに、引き回しの刑と投獄のあと、鎖に繋いで船に乗せ、スペインへ連行しようとした。しかし他のインディアンたちと同様に、この男性はセビリアに着く前に船中で死んでいる(抜粋以上)

コロンブスは犬をけしかけて逃げるインディオを追わせ食い殺させたとの記述も読んだことがあります。ウィキペディアにはこうもあります。
「1495年3月、コロンブスは数百人の装甲兵と騎兵隊、そして訓練された軍用犬からなる一大軍団を組織した。再び殺戮の船旅に出たコロンブスは、スペイン人の持ち込んだ病いに倒れ、非武装だったインディアンの村々を徹底的に攻撃し、数千人単位の虐殺を指揮した。コロンブスの襲撃戦略は、以後10年間、スペイン人が繰り返した殺戮モデルとなった」

西洋人でアメリカを発見したのがコロンブスと常識のように言われていますが、実を言えばヴァイキングの方がコロンブスよりはるかに先にアメリカに到達しています。コロンブスが先駆者というわけでないのです。ただし、インディオ壊滅の先駆者と言えば、それは間違いなくコロンブスですね

彼に続き、多くのスペイン人、ポルトガル人が新大陸へやってきました。黄金を求めて。そして同様に残虐な行為を踏襲します。以下、再度ラスカサスの「インディアスの破壊についての簡潔な報告」より抜粋します

「彼らは村々へ闖入し、子供や老人だけでなく、身重の女性や産後まもない女性までも、見つけ次第、その腹を引き裂き、身体をずたずたに斬り刻んだ」
「キリスト教徒はインディオの身体を一刀両断にしたり、一太刀で首を切り落としたり、内臓を破裂させたりしてその腕を競い合い、それを賭け事にして楽しんだ。母親から乳飲み子を奪い取り、その子の足をつかんで岩に頭を叩き付けたキリスト教徒たちもいた。また、大笑いしながらふざけて、乳飲み子を仰向けに川へ投げ落とし、乳飲み子が川に落ちると、『畜生、まだじたばたしてやがる』と叫んだ者たちもいれば、嬰児を母親もろとも剣で突き刺したキリスト教徒たちもいた」
「さらに、足がようやく地面につくぐらいの高さの大きな絞首台を組み立て、こともあろうに、我らが救世主と12名の使者を称え崇めるためだと言って、インディオを13人ずつ一組にして、絞首台に吊り下げ、足元に焚き火を置き、それに火をつけ、彼らを焼き殺したキリスト教徒たちもいた」
「インディオの身体を乾いた藁で縛り、その藁に火をつけ、彼らを焼き殺したキリスト教徒たちもいれば、インディオを生け捕りにしようとした者たちもいた」
「彼ら(キリスト教徒)は、木の叉に、小枝や枝で編んで作った鉄網のようなものを載せ、それに彼らを縛りつけ、網の下からとろ火で炙ったのである。すると領主たちは苦痛に耐えかねて悲鳴をあげ、絶望のうちに息絶えた」
「一度、私自身も、有力なインディオの領主が4,5人、そうして火あぶりにされているのを目撃した。領主たちが非常に大きな悲鳴をあげたので、隊長(カピタン)は哀れに思ったのか、それとも安眠を妨害されたからか、いずれにせよ、火あぶりをやめて絞首刑に処すよう命じた。ところが、彼を火あぶりにしていた警史は死刑執行人よりはるかに邪悪な人物で、領主たちを絞殺するのに承服せず、彼らが大声を立てないよう、口の中へ両手を棒で押し込み、それから火勢を強めた。そうして、結局、警史の思惑どおり、領主たちはじわじわと焼き殺された」(以上抜粋)
スペイン人は黄金に餓えた野獣だった。彼らは、インデイオたちに黄金を持ってくるように命じたが、この土地はコロンブスが思っていたほど黄金はなかった。黄金を持ってくることのできなかったインディオは悉く火あぶりにされたり、串刺しにして殺された。
他にも、とても読み進めていくことのできないほどの残虐な場面がこれでもか、というほどに出てくる。犬をけしかけてインディオを八つ裂きにさせたり、手足を切断したり、鼻をそぎ落としたり…。また、その犬の餌として大勢のインディオをまるで豚の群れのように、鎖でつないで連れて歩いていたという。スペイン人は、インディオを殺しては、その肉、すなわち人間の肉を公然と売買していた。「この犬に食べさせてやりたいので、そいつの四半分の肉を貸してくれないか?今度オレのインディアンを殺したら返すから」「やつらを15か20くらい、オレの犬に食わせたよ」という会話が日常のものだったという。
これが人間のすることか
幼い幼児の泣き叫ぶ姿を見ながら、一体彼らは何を感じていたのか
地獄の悪魔にだって、もう少しの慈悲、憐憫の情がありそうなものだ。




今、図書館に行けば、今でもなお偉人伝の一人として、コロンブスの伝記がある。
しかし、コロンブスを偉人として紹介するのは、終わりにしなければならない。
彼を偉人として紹介することは、残忍な仕打ちで殺されたインディオたちを二重に
陵辱することに他ならない。
少なくとも、伝記を書くような人物が、コロンブスの悪行まで調べないで書いたはずがない。知った上で、それを受け流して、あるいはぼかして書いているのは恐らく間違いない。コロンブスを偉人として紹介している人に対して激しい嫌悪を感じる。
また、ネットで検索すると、「コロンブス」と名のつくレストランや会社、スーパーが多い。彼らは、おそらくこうした事実を知らないで会社等の名称にしているのだろうが、実におぞましいし、無知よりきたものだとはいえ、憤りを感じる。
コロンブスは偉人だろうか?
間違っても偉人ではない。あるはずがない。
コロンブス。彼は、サイコパスにすぎない。
黄金に目のくらんだ血に餓えたサイコパス。それ以上の何者でもない















<自分用まとめ>
「コロンブス  講談社」
・200p。コロンブスは島に沿って船を進めたが、このとき遠くに陸地を認め、イスタ=サンタ島と名づけた。実際はそこが大陸だと気づかず島だと思ったからだ。こうしてコロンブスは偶然にもアメリカ大陸をかいま見たのだが、そのことを知らなかった。
・211p。ベスプッチ;南アメリカの大西洋岸に沿って航海し、コロンブスが島だと思った陸地が大陸であることを明らかにした。