02/14/12 Books: 或る女 | **コティの在庫部屋**

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葉子は100パー見た目らしい。



或る女 (新潮文庫)/有島 武郎
¥700
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某所にてたまたま、これの中の一節を読んだ。

その、ドロドロとした姉妹の言葉のやり取りが余りにも余りにも余りにも面白そうだったのでw、借りてみたのだが、

貸してくれたGさんが、「あの、これは、そんなにお薦めの出来る本じゃないと思うんだけどなあ~(苦笑)」

という感じだったので、あら、名作と誉れ高いこの古典のどの辺りがお薦めできないのかしら、と、

逆に若干期待しつつw、このなっがーいお話(本文だけで556ページ)を読み進めてみた。

最初の100ページ程はぶっちゃけ結構読みにくくて進みが悪かったが、後半250ページは3時間猛烈一気読み。

そして読了後には疲れ果ててそのまま寝てしまったw


葉子、というのはこの話の主人公、つまりタイトルの或る女、な訳だけれど、こいつがもう、堪らん。いろんな意味で。

ひとことで言うのは難しいが、まあ、何と言うか、彼女が一番言って欲しくない言葉で言うなら、可哀想な女である。

そうだよなあ、可哀想だよなあ。だってさ、この話で彼女が絡む中に、いい男が一人もいないんだもん。

彼女の最初の結婚相手で離婚した木部、その後婚約した木村、そして行きずりのままに愛人になる倉地。

もうね、書いてて腹が立つ程嫌な男w ホントよ、いやホントに。

普通一人くらい、いい男じゃなくてもまともな男がいてもよさそうなもんだろうに、誰もまともじゃない。

木部は結婚した途端に細かくてねちっこくて夜も暴れん坊の詩人だし(スイマセンこういう小説なんです)、

木村は今だったら絶対ストーカーになるタイプの、思い込みの激しい新聞記者崩れの商人だし、

倉地に至っては、まあそういう男が好きな人もいようが、私なら勘弁してくれって感じの、

(精神的)清潔感の1ミリもない、ヤクザで超絶倫な妻子持ちの船員(事務長って事になってる)。

広い肩と男らしい顔つきと塩で焼かれたような声をもつ、精悍な倉地にくらっと来た葉子は文字通り身も心も捧げ、

木村と結婚すべくアメリカに渡る筈だった船で倉地と共に日本に引き返してしまう。

こんな男に引っかかるんだから、、まあ、葉子に男運がなくても仕方がないのかな、なんて思っちゃう。


でも、この主線の人物達よりももっと気に入らないのがいてさw

ここからは小説の作りの話になるんだけど、木村の親友で古藤ってのが出てくるんだけどさ、

こいつのモデルが作者本人だっていうのよ。

まずね、この小説にはほぼ全員モデルがいると一般的には言われているらしいの。で、注釈もその辺詳細よ。

まあ、誰が誰とかいうのはこの際いいとして、この古籐ってのが作者だとするとね、一応こいつが一番まともな訳よ。

手練手管な葉子を忌み嫌いつつも彼女の悲劇性をどこかで理解し、彼女の妹達を心から大事に思い、

木村を裏切る真似をするなと葉子だけでなく倉地にも臆することなく迫り、最後は葉子から隠し子について託される。

真面目一本やりで融通は利かず、葉子の誘惑にも負けず文学を理解し、どこまでも真っ直ぐな男、古籐。

それがあなた、作者がモデルってないと思わない?!!!ぶっちゃけ、よく描き過ぎ!!!www

いや、実際は左程良く書いてある訳ではないだろうけど、他の人物達が揃いも揃って酷いもんでw、良く見えるのよ。

同じように悪く描かれない年若の岡、という青年も出てくるんだけど、岡君はお金持ちの坊ちゃんだけど病弱なの。

しかもいつもいつも「少女のように」or「処女のように頬を赤く染めたり、手を震わせたり、ぐんだりするのよ。

お前は一体ドコに訴えかけようとしてるんだ。

まあ、こういう仕草を葉子は愛おしく思うし、葉子の妹で葉子に憎まれる程毛嫌いされてる愛子にも好もしく思われてる。

だからこの描写も当時は効果的だったのかもしれないけど。

とにかく、こんな人物達がうじょうじょしてるwww


葉子が精神的にキてしまう=ヒステリーの症状というのが、性的飢餓からくる、というのが当時の論だったとしても

(ここでの飢餓とは、解り易く言えば、やってもやってもやり足りないという、そのくらいあからさまな欲望である)

やはり違和感を感じてしまうのは、単に私の好みの問題かもしれないが、それでも拭い切れないものがある。

それと、確かに解説にあるように、現代小説の人物のように人間は単純ではないが、葉子ほど変わるもんだろうか。

病状の思わしくない妹を心底案じ、貞世を生かしてくれるなら死んでもいいと言ってた舌の根も乾かぬうちに

倉地が病室に姿を現すと、瀕死の妹の手が止めるのをがっつり振り切ってルンルン気分で男の胸に飛び込む。

これさあ、心理が複雑とかいう問題じゃなくない?


そこでハタと思い当たった。

葉子ってのはファムファタルだとは思って最初から読んでいたけど、男のためのファムファタルなんじゃないのか。

例えばサロメには月=不感症のイメージが付きまとう事から、何処かで男を拒否するイメージがあると私は思ってて

また、漱石の「虞美人草」における藤尾にも、葉子と同じとこがありながらも、そのプライドの在り様から潔癖さが伺える。

つまり、前出の2人には、女から見たら悲劇とも取れる側面が垣間見られるのだ。ところが葉子にはそれが薄い。

ないとは言わない。彼女にもあるにはある。が、ヒッジョーに、薄い。

それは即ち彼女の性欲の濃さ=男にとって代え難い程魅力的な一面、のせいではないのか。

そしてそのせいで、とも言えるような病に彼女は苦しむ事になる。あんなの、性病のがまだましじゃないのか。


とまあそんな訳で、ムチャクチャ面白かったけど絶対好きになれない類の、「或る女」とはそういう小説だったw

Gさんが勧めない訳が漸く解ったわwww

最後に付け加えておくが、自然描写の見事さは絶えず溜め息をつく程に素晴らしかった。これは掛け値なし。


しかしまあ、何もこんな記事をバレンタインデーに上げなくっても…(苦笑。



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