FOR ALL ROUTINE WORKERS -337ページ目

味付けは3種類

暑くもなく、寒くもなく、過ごしやすい気持ちのいい季節。
こんな爽(さわ)やかな風に吹かれながらビールなんか飲んで流行(はや)りの唄でも歌ったら嘸(さぞ)かし気持ちがよいでしょうなぁ、なんて七の階のベランダから外を眺めて物思いに耽(ふけ)っています。

涼(すず)しい夜風に当たりながら「あまたの人のもの思ひぐさなり」などど呟(つぶや)く。つまり今は新緑の季節。「源氏、五月雨の晴れ間に花散里(はなちるさと)を訪れる」なのである(The Orange Blossomsというのが良いね)。
みなさま、お元気でしょうか?
(わけの解らない枕(前置き)ですな)

さてさて、

ずいぶんと前から勘付いてはいたんだけど、東京って、焼き鳥屋がめちゃくちゃ多いと思う。一度話したことある人もいるかもしれない。

大きな繁華街に行くと、こちらの路地にも焼き鳥、向こうの路地にも焼き鳥。ああ、ここにも焼き鳥。この道を曲がると、あれー?また焼き鳥だぁ。なんて具合に、とにかく赤提灯(ちょうちん)の浸食が進んでいる。ヘタするとコンビニと同じぐらいあるような気がする。

「鳥よし」なんて名前の店はもう無限にあるんじゃないだろうか?

きっと焼き鳥屋は他の飲食店に比べて独立が簡単なのかもしれない。別に焼き鳥屋を軽視するつもりはないんだけど、だってたいした技術も知識もいらない気がするし(串に刺して焼くだけじゃん?)、設備さえ整っていれば誰でもできるような気がする。しかし、かといって一般家庭で、じゃあ今日は焼き鳥でも焼くか、なんて簡単にならないわけだから、そうなると自然に外に出て焼き鳥を食べるわけですね。

それで、焼き鳥屋の話で盛り上がったりします。

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 東中野あたりのとある鳥よしという店で働きながら何年か下積みを積んでいて、焼き鳥についての経験も一人前になってきた、30代後半の脱サラしたオッサンなんかが、ある夜に決心するわけ。「俺も自分の店を持つぞ」なんて。退職金は開店資金の為に手を付けずに残してある。40までには何とかしたい、と地味に働く夢追い人。

 舞台はある日の閉店後の深夜。

 客席は明かりが落ち、椅子はテーブルの上に逆さに積まれている。奥の厨房だけ明かりがついていて、店主とその脱サラおやじが明日の仕込みを二人でしている。明日は長年のごひいきのお客さんの宴会予約が入っている。従業員たちはもう帰ってしまっていて、ひっそりとした店内には、背を向かい合わせ黙々と鶏肉を串に通す中年の男が二人。

 「おやっさん、お話があるんです」

 長い沈黙を破って脱サラが勇気を出した。

「なんだ?急に改まって」早く帰って一杯やって寝ちまいたいなぁと思いながらも、仕込みが思うように進まず、少し機嫌の悪い店主。


 「......実は、自分の店を出そうと思うんです」


 店主の手が止まる。しばし沈黙。時間にするとほんの数秒間。脱サラには永遠にも思える時間。しばらくしてゆっくりと振り返って脱サラの顔を見つめる店主。

 「そうか......わかった」そう言うと、店主はくたびれた前掛けと「ちょっと待ってろ」という言葉を残しどこかへ消えていった。

 ひとりで仕込みを続ける脱サラ。
 ネギ、トリ、ネギ。
 自分の意志を確かめるように、丁寧に一つ一つ串に通す。
 
 トリ、ネギ、トリ、、、
 ネギ、トリ、ネギ、、、

 どれくらいの時間が経っただろう。

 しばらくして店主は腕に小さな壷を抱えて戻ってきた。

 「これ持ってけ」店主は脱サラにその壷を差し出す。

 受け取る脱サラ。蓋を開け中を覗き込む。

 「えっ、、これは...」

 言葉を失う脱サラ。

 その壷には鳥よしに長い間伝わる秘伝のタレが入っていた。

 「もうあんまり残ってねえけどな。それだけありゃ、しばらくは客にうまい焼き鳥が出せる。あとは自分でなんとかするんだな」再び仕込みを始め、脱サラに背を向けて店主が言う。

 蓋を開けた壷から鼻に唐甘い香りが漂うと同時に、脱サラはしょっぱいものが頬を伝ってくるのを感じた。震える人差し指を中に入れ、そっとなめてみる。そのタレは甘いんだか、しょっぱいんだか色んな味がした。

 「あうぃがとぅごぅじゃいまふ...だいふぇつにぃしわぁす」声にならない声で脱サラ。

 「ばかやろう!!早く蓋を閉めやがれ。タレがしょっぱくなっちまうだろ」
 「ひゃい...」
 「さっさと顔を洗ってきて、続きをやんな!これじゃあいつまでたっても帰れねえ」

 洗面所から戻ってきた脱サラは店主と肩を並べて再び仕込みを続けた。

 翌日、宴会は送別会に変わりましたとさ。

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まあ、、こんな感じで鳥よしは増殖を続けてるんじゃないかと思うわけなのだが。(言っとくけど、これは冗談ですからね。別に全ての鳥よしが繋がっているわけではないと思うし)

よし、話を戻そう。
あとですね、焼き鳥屋と同様に東京に多いのがクリーニング屋。

これも多い。やたらある。うちの近所にも5件はあるんじゃないか?おそらくクリーニングも店を出すのがわりと簡単なんだと思う。僕は焼き鳥もクリーニングもどっちも利用するんですが、ちょっと数が多すぎると思う。こんなにいらない。

東京からタクシーと焼き鳥屋とクリーニング屋がなくなれば絶対にもう少しすっきりするんじゃないかと思うんだけど、それにしてもなんでこんなにいっぱいあるんでしょうか?

で、僕は考えたんですよ。
焼き鳥屋とクリーニング屋は裏で業務提携してるんじゃないかと。

それはつまり、焼き鳥屋で飲んでいるとね、服に汚れがついたり煙の匂いがついたりして、あらあら、こりゃあクリーニング出さなきゃってなるわけですよ。焼き鳥屋が儲かれば、クリーニング屋も儲かるという図式になっている。

だからクリーニング屋のおばちゃんと焼き鳥屋のオヤジはできているのだ。
毎晩店が終った後、焼き鳥屋のオヤジはクリーニング屋のおばちゃんに電話する。

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 ジリリリリリーン ジリリリリリーン

 今夜もクリーニング屋のベルが鳴る。

 得意気に話し始めるオヤジ。「いや~、今日は酔っぱらったやつら5人くらい白いYシャツにタレこぼしてたよ。きっと明日そっちにいくよ」

 それを聞いたおばちゃんはマイルドセブンなんかを燻(くゆ)らせながら帳簿を見る目をギラギラ光らして答える。「まだまだだねぇ。今月手抜いてんじゃないの?そっちでどんどん汚してもらわないと困るんだよねぇ」

 息の詰まるオヤジ。

 「こっちも商売やってんだからさぁ。こんな調子が続くとあんたんとこの店との関係も考えなきゃいけなくなるかもねぇ」

 「すいません!ああ、それだけはご勘弁を。今後は今まで以上に多くのシャツが汚れるよう努力しますから。もう少しのご辛抱を」ビビるオヤジ。

 「まぁ、がんばりな」なぜか余裕のおばちゃん。


 オヤジはおばちゃんに頭が上がらないのだ。


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———そんなオヤジのいる焼き鳥屋ではたまにこんなことが起こる。

「ご注文、お決まりでしょうか?」
「えーと、じゃあ、全部2本づつで、、ねぎまとつくねと、皮と砂肝とナンコツ下さい」

「味付けはタレとシオとシミどれにします?」

 !?

「え?、シミってなんですか?」

「あっ、いけね!」


オヤジはそのことで頭がいっぱいなのだ。


なんかちょっとした小話みたいになっちゃいました。

長々と読んでくれてありがとう。書き出しちゃったら止まらなくてさ。僕はこういう想像がわりと好きです。

今日一番言いたかったこと:焼き鳥を食べにいく時はタレを洋服にこぼさないように注意しよう。

今日の1曲:東京暮らし/bonobos