「おとうちゃん!レースがはじまるよー」





「わかった、今いく!」


北海道・静内のはずれにある古来ファームは、いつになく盛り上がっていた。

「たのむぞ・・・プリンセスメール!オマエの走りに、おれ達一家の明日がかかってるんだ・・・。」


家族経営であろう小さな牧場は、明日にも潰れそうな零細牧場であった。

これでダメなら牧場は手放さなくてはならない。そんな中、大金をはたいて購入した肌馬がスカーレットメールであった。 その初仔であるプリンセスメールが、中央G1プリンセスSを勝ち、一家はなんとか年を越すことができたのであった。

「あいつがクラシックホースにでもなれば、弟妹たちも高値で売れてくれる・・・。おれ達もこんなギリギリの生活をしなくてすむんだ・・・。」

「とーちゃん。あたいは今のままでも十分だよ。」

「何いってるんだ!牧場が盛り返せば、出稼ぎにでた子供たちも帰ってこれるじゃないか!」


「ウワアアアアア!」


ターフに2歳女王プリンセスメールが帰ってまいりました!桜花賞トライアル・マロン賞は断然の1番人気です!

牝馬3強の一角グルーヴダイナは、先の復帰緒戦を3着と敗れております。新興勢力の活躍が著しい春のクラシック戦線、皇女プリンセスメールは気高く行進することができるでしょうかっ?!


「ガシャン!」


スタートしました!各馬好スタート!


プリンセスメールはいつものように最後尾につけました。

さあ、前はどの馬もいこうとしない!2歳女王を警戒してか、どの馬もじっくりかまえたまま!

         :
         :

さあ!スローペースのまま、一団は最終コーナーへとさしかかる!各馬いっせいにスパート!


プリンセスメールはまだ最後尾!まだ先頭から10馬身!はたしてここから届くか?!

「ドオオオオオオオオ」


さあ、直線勝負!各馬エンジン全開で坂をかけあがってくるぞ!
その先には桜の大舞台がまっている!


プリンセスメールはどこだ?!プリンセスメールは内にもぐった!皇女は内ラチ沿いを駆け上がる!

きたきたきた!これが女王の末脚だ!各馬が止まってみえるぞ、これはスゴイ!

「ウワアアアアアア!」

グルーヴダイナを葬った末脚は今年も健在!

さあ、大歓声を背に受けて、皇女プリンセスメールが突き抜けた!強い、強い!


最後は持ったまま!持ったままで、今ゴールイン!!!!


やはりプリンセスメールは強かった!クラシック制覇に向け、皇女に死角はありません!


オーナーは只乃商会、生産は静内・古来ファームであります!

「聞いたか?!かあちゃん!!!」

「おとーちゃん!あたしたち、まだやっていけるんだね・・・。」

「そうだ!こんなところで終わってたまるか!」

「プリンセスメール・・・ありがとう!」

「勝つ!この仔は間違いなく、クラシックタイトルを持ち帰ってくれるゾ!」


(つづく)




桜花賞トライアル第一弾、G2・孔雀賞のレース当日、京都競馬場の馬主席に陣取った神戸HCに、一人の男が声をかけてきた。




「たいした人達だよ、まったく。 ヽ(;´Д`)ノ」

「高梨さん!」

グルーヴダイナのオーナー・高梨であった。

「8ヶ月ぶりですね。お久しぶりです。」

「【グリーンワールド】か・・・いったいどこで見つけてきたんだね?」

「へへへ、それは内緒です。」

「高梨さん、グルーヴがここから始動するとは思いませんでした。」

「おや、多良崎くん。どうしてかな?」

「てっきり、オークスに照準をあてて始動してくるのかと。」

「ははは。たしかにオークスは誰にも譲るつもりはないよ。でも、桜花賞も当然勝ちにいくし、ライバルは早めに潰しておこうと思ってね。」

「・・・・。ウインドジュエル、ですね。」

「今までは相手に恵まれていただけさ。今日はうちのグルーヴの前に跪いてもらうよ。」

「す、すごい自信ですね・・・。」

「ハハハ。オーナーが馬を信じなくて、誰が信じるというんだい?」

「たしかに・・・。」


「お、そろそろ始まるみたいだぞ。」

         :
         :



「ウワアアアアア!」

さあ、レースは第4コーナーにさしかかって、先頭はウインドジュエルだ!
後続とはまだ7~8馬身の差!



逃げる逃げる!ウインドジュエルがリードを広げる!これは強い!


ようやくグルーヴダイナが2番手に上がってきたが、まだ先頭とは6馬身以上あります!

「こ、ここまでとは・・・!」高梨がうなった。

ようやくグルーヴダイナが追い上げてきたぞ!その差は4馬身、3馬身・・・

そしてもう1頭、ものすごい追い上げを見せている!こ、これは・・・

グリーンワールドだ!グリーンワールドがエンジン全開でやってきた!!!

「フフ、そうこなくっちゃ。」若林の口元が緩んだ。

グリーンワールドだ!1勝馬グリーンワールドが、牝馬3強グルーヴダイナに並・・・い、いや!かわした!かわした!かわしたぞ!!!

「ドオオオオオオ!」

グルーヴダイナは少し後退!かわってグリーンワールドが2馬身差まで詰め寄ったところ・・・!


今ぁ、ウインドジュエルが先頭でゴールイン!!!グリーンワールド、よく追い上げましたが届かず!差がなくグルーヴダイナが3着に入ったようです!

「ウワアアアアアア!」

「なるほど・・・それほどラクな相手ではないか・・・。」 高梨は不敵に笑って席をたった。


ウインドジュエル・グリーンワールド・グルーヴダイナ、上位3頭には、桜花賞への優先出走権が与えられます!



「有田、やったぞ2着だ!桜花賞に出れる!!!」

「ほ、ほんとうか・・・?夢じゃないよな・・・。」

「くるみちゃん、い、いや、「会長」にお礼を言わないといけないな・・・。」

「おれの娘は、おれに似てサイコーだ!  (ノ◇≦。)」

「あれ?どうした沖田くん。浮かない顔をして?」

「いえ、べつに・・・。 (グルーヴダイナ・・・この馬はホンモノだ!) ( ̄Д ̄;」


(つづく)



桜花賞トライアル・孔雀賞を控えたある夜、神戸HCの面々は、京都・祇園で気勢をあげていた。





栗東からマスター富士川、沖田助手、それに同じレースに出走するウインドジュエル陣営も、北海道から、ルストマ代表と若林が駆けつけていた。



「ウインドジュエルは2連勝ですか。孔雀賞でも人気を集めそうですね。」



「ガハハ!有田くん、目標はまだ先だからね。ここはしっかり3着以内に入って、桜花賞への優先出走権がとれたら合格だよ。」



「なんだか、余裕に聞こえるなぁ。うちなんて、数多い1勝馬のうちの1頭ですからね・・・。正直、掲示板すら厳しいですよ・・・。」


「おまえはほんとうにネガティブだな、多良崎!」


「天才・ユタカがグリを選んだんだ。期待できると思うよ!」若林が持ち上げる。


「そうですよ、多良崎さん!グリはきっと、勝ちます!」


「おお、沖田くん。大きく出たな。ガハハ!」






「大変デス!」


先日の大失態の罰として、たばこを買いにいかされていたマスター富士川がとびこんできた。


「遅いじゃないか、マスター!」


「この新聞を見てクサイ!」 有田に大スポを手渡す富士川。


「おお、孔雀賞の予想か!ウインドジュエルが○印を集めてるな。ってことは、うちのグリが◎印かな?ププッ!」


「よく見ろ有田。グリには×印しかついてないぞ。」 多良崎が冷静につっこむ。



「ちょっと、有田さん!ここを見て!」


隣から覗き込んだ若林が、一番大外枠の1頭を指差した。


「グ、グルーヴダイナ?!」



「ええええええええ!(((゜д゜;)))」



牝馬3強の一角・グルーヴダイナが、その大いなる野望の序章として、孔雀賞を選んできた。


「い、いきなりぶつけてきやがったか・・・。」うそぶく有田。



「まさか、こんなに早く対決することになろうとはね。」多良崎も動揺を隠せない。



「アハハ。桜を狙う有力馬なら、当然出てくるレースだと思いますよ。」沖田が笑う。


「ウッ!それを分かっていながら、出走をすすめてきたのか・・・。」




「こいつは大きな試金石になるなぁ。。」と若林。


「それはグルーヴ陣営も同じだよ。」ルストマ代表が笑う。


「むこうも、ウインドジュエルやグルーンワールドとの力関係を計りにきたのさ。」


「たしかに・・・」有田がうなづく。





「グリーンワールドなら負けませんよ! (`ヘ´#)」 沖田はジンジャーエールを飲み干して言い放った。


「お!そうこなくっちゃ!ほら、これでも飲め! ヘ(゚∀゚*)ノ」 ビールをつごうとする有田。



「やめとけ有田!おい、マスター富士川もボーっとしてないで、とめろよ!」



「スミマセン、”孔雀”って何ってよむんデスカ? (^^ゞ」



「くじゃく、だよ!!!! (▼Д▼#)」


(つづく)





「さて、どうしたものか・・・」









神戸HC事務所で有田が頭をかかえている。




「こんなことになるとは・・・。」多良崎も困惑した表情で腕組みをしている。

グリーンワールドがデビュー戦を勝利でかざってから1ヶ月後、思いもよらぬ事態がおこっていた。


次走の出走スケジュールを今週末の条件戦に決めたまではよかったが、マスター富士川が忽然と姿をくらまし、レースへの出走登録が忘れ去られていたのだ。

「本当にスミマセン!」

「沖田くん、なにも君が謝ることないだろう?」

「でも・・・厩舎のことは僕が全て引き継いでるんです。それなのに、グリーンワールドの出走登録が漏れるなんて・・」

「だいたい、あの野郎はなんで今ごろオーストラリアに帰省してるんだ・・・。」

「なんでも、親戚の法事があるとかで・・・。」

「絶対ウソだ!!! (▼Д▼;)」

「絶対ウソだ!!! (▼Д▼;)」

「ス、スミマセン!あさってには帰国するそうなんで・・・」


「それよりも、どうする?有田。」

「沖田くん、君の意見を聞かせてくれないか?」

「え?!ぼ、僕ですか?!」

「グリのことを一番よく分かってるのは、君だからね。」


「有田さん・・・。そうですね、今はいい状態に仕上がっているので、できればはやめに出走させたいところですね。」

「なるほど・・・。おい多良崎、ちょっと来週のプログラムを見てくれないか?」

「来週は・・・うーん、条件戦は1200Mと2400Mしか組まれてないなぁ。」

「どちらも適距離ではないですね。」と沖田。

「再来週もダメだ・・・。これといったレースが見当たらないよ・・・。」


「おい、有田。聞いてくれ。」

「ん?」

「来週のメインレースは桜花賞トライアルだぜ。G2のマイル戦だ。」

「アハハハ。1勝馬がG2に格上挑戦か?無茶言うな。」

「いや・・・おもしろいかもしれませんよ!」沖田の眼光が、するどく光った。

「・・・・。ほ、本気か?沖田くん?」

「状態はいいですし、今後の試金石としてチャレンジしてみてはいかがでしょう?!」

「たいした度胸の持ち主だ・・・。気に入ったぜ!」有田が立ち上がった。

「多良崎、ここはひとつグリの強運にかけてみるか?」

「そうだな・・・。くるみちゃんに救われたあの日から、グリは何かを持ってるような気がするよ。」

(つづく)




真冬の身を切るような寒さの中、京都芝1600Mの新馬戦に、16頭の若駒が顔を揃えていた。





その中に、グリーンワールドの姿も見える。



各社の本命印を背負い、堂々1番人気に支持されていたのは、そのグリーンワールドであった。


「まずい・・・先日のウインドジュエルの圧勝劇が、グリへの過剰な期待につながってるようだ・・。」有田が汗をぬぐった。


「ここは、勝ち負けより内容でしょう?次につながるレースになればいいじゃないですか。」隣の席の馬主が話し掛けてきた。


「あなたは?」


「これは失礼!成宮といいます。神戸HCさんですね?」


「成宮さん?!有名な馬主さんじゃないですか!」


「ハハハ。ここ数年は大きなタイトルとは縁がなくってね・・・。今年はアクエリアスって2歳馬が、ようやく期待できそうなんですよ。」


「アクエリアス・・・!暮れの2歳女王決定戦で、たしか掲示板にあがってましたよね?」


「ええ4着でした。母キュンティアのように、なかなかいい走りを見せてくれたので、クラシックは期待してるんです。」





「そういや、多良崎はどこにいったんだ?また緊張のあまりトイレで吐いてるのか?」


「オエー! (゚Ω゚;) ←(図星) 」





さあ、各馬枠入り完了して、今ぁスタートしました!


「ウオオオオオ!」



グリーンワールド好スタート!すっと好位についたぞ!



『ヨシ!沖田おにいちゃんとの練習通り、うまくスタートできた!』


グリーンワールドはいつになく自分の身体が軽く感じた。


『軽い!身体が軽い!これならどこまでも走れそう!』


おーっと、グリーンワールドがそのままハナに立ったぞ!ぐんぐんぐんぐん後続を引き離す!



おっと、さすがにこれはマズイと、天才ユタカが手綱をしぼる!


『い、いけない、ペース配分!ペース配分!』


さあ、グリーンワールドに競りかける馬がいる!エビアンローズだ!エビアンローズが果敢にハナを奪いに行く!!!


『グリーンワールドさん?あなたのスピードはそんなもの?お先に!』


『く!せっかく気持ちよく走ってるのに、邪魔しないで!』


「よせ!グリ!」ユタカの制止もグリーンワールドには届かない。



これはすごいことになった!グリーンワールドとエビアンローズが大逃げ!大逃げをうって後続集団とは11~2馬身差!



一歩も譲らない2頭!これは女の意地の張り合いだ!!!




『ハアハア!し、しつこいな!』 最終コーナーを目前にして、グリーンワールドの脚色が鈍りだした。


『フフ、かかったわね?おつかれさまー!』


そういうと並走してきたエビアンローズはスピードを緩め、瞬く間に後続集団に飲み込まれた。


『え?!』



さあ、後続も一気に差をつめてきた!グリーンワールド、ピンチ!


ああっと、直線で脚色がいいのは同じオーナーを持つエビアンライガーだ!2番手に踊り出て、グリーンワールドを猛追!


『もうバテバテだな。悪いがそこをどいてもらうぜ!』


『ハアハア、ぬ、抜かせない!ぜったいに!』




グリーンワールド、必死にくいさがる!ゴールまであと100M、先頭は完全に2頭の争いだ!

粘った!粘った!グリーンワールドだ!グリーンワールド、先頭をキープ!





『な、なぜ抜けない?!こいつのどこにこんな力が・・・』



エビアンライガー、半馬身差まで詰め寄ったが、ちょっととどかないか!

グリーンワールドが先頭で、今ゴールイン!!!!




「ウワアアアアアア!」




1番人気の面目躍如!勝ちましたグリーンワールドは、父フジキセキ、母ノーザンフラワー。オーナーは神戸ホースクラブです!




「か、勝った・・・(TT) 」 仁王立ちでたちつくす有田。


「ちょっと言葉が見つからないね。」 多良崎も目に涙を浮かべている。


「神戸HCさん、おめでとうございます。強い競馬だったじゃないですか。」 成宮が握手をもとめてきた。


「間に合うといいですね。『桜』」 




「さくら・・・!」 有田の目が輝いた。


「G1?! ウ、ウップ!」 トイレに走り去る多良崎。



「あ、おい多良崎!記念写真とるぞ!すぐ戻って来いよ!」



(つづく)




年が明け、事務所で7杯目の雑煮をつついていた有田の元に電話が入った。





「はい、モグモグ、神戸HCです。」


「ハッピーニュー、イヤーン!」


「マスター富士川か、どうした?」


「グリーンワールドのデビュー戦の相談デース!」


「つ、ついにきたか!そ、それでいつだ?」


「1月最終週の京都・芝1600Mの新馬戦がイイネ!ヤネはユタカに頼んでアリマス。」


「そ、そうか!ヨシ!」


「ガチャ」


「どうかしたか?有田。」



多良崎とくるみが仲良く手をつないで入ってきた。




「そそそそそそ、その手を離せ、グラァ!」


「ちょっと、パパ!じゃましないで!」


「ええええええええ!(((゜д゜;)))」





「くるみ、グリが走る日が決まったよ!」


「ほんと?!ヤッター!」



「ようやくきたな、有田。」


「ああ、マスター富士川と沖田くんには随分世話をかけちまったよ。」


「無事に帰ってきてくれたらいいな。まあ、ユタカなら馬にムリはさせないだろうよ。」

(先生、あなたのいったとおりです。デビュー戦でレース結果なんてだれも気にしませんね。。)




「そういえば、来週は、あのウインドジュエルもデビューするらしいぜ。 」


「ほお、若林やルストマ代表ともしばらく会ってないし、久々に競馬場にいくか?」





翌週、神戸HC一向は京都競馬場の馬主席に陣取った。


京都1R 3歳新馬戦・芝1400M 人気はウインドジュエルが圧倒的な支持を集めております!


「お、おい多良崎みろよ。ウインドジュエルいきなり単勝1.2倍だとよ・・・」



しかし、彼女はその期待を裏切らなかった。好スタートからハナにたち、そのまま後続を引き離す一方。最後は後続に6馬身の差をつけ、デビュー戦を見事に飾った。



天才・多原を背に勝ちましたのは、ゼッケン11番ウインドジュエル!父サクラバクシンオー、母スーパードレス、ルストマシーランド所有です!


「ああいう馬なら、有田をのせても勝てるな。きっと。」


「・・・1:22:0?!タイムもすごいな・・・。」



いやあ、今年もルストマ軍団からすごい馬が出てきました!牝馬3強に待ったをかけるクラシック候補の登場といってよいでしょう!!!





「い、いかん・・・こういうのを目の当たりにすると、欲が出てきちまう・・」



「ムリもないさ、多良崎。おれだって、あのウイナーズサークルに立ってる自分を想像しちまったよ・・・。」


「おや?こんな新馬戦の記念撮影に、あのルストマ代表自ら出てきてるぞ!若林の顔も見えるな。」


「ハハハ。さすがに場慣れしてるってかんじですな、多良崎くん。」


「オレはパス・・・。だって、カメラシャイなんだもん (;´▽`A 」


「だから、まだ勝ったわけじゃないって・・・。」


(つづく)




『ちょっと!』





引き運動を行っていたグリーンワールドのもとに、1頭の牝馬が歩み寄った。

『あなたね?坂路で好時計を叩き出して、いい気になってる娘ってのは?』

『いい気になんてなってないけど・・・。私はグリーンワールドといいます。あなたは?』

『あら?私はリエマリアよ。ご存じないのかしら?』

『・・・・知らないわ。』

『ムカッ!プリンセスSで2着に入ったクラシック候補よ!』

『ええ?!』

『まあ、驚くのも無理もないわね。あなたのような馬にはG1の大舞台なんて縁がないでしょうから。』

「リエマリア、いくぞ!」 調教助手が促した。

『あなたも私と同じフジキセキ産駒なら、せいぜい恥をかかさないように頑張ることね。いい?わかった?!』

『は、はい・・・。』

リエマリアが立ち去ってまもなく、1頭の牝馬が近づいてきた。



『いやな娘ねぇ・・・。”妖精”とかって呼ばれだしたものだから、天狗になってるのよ・・・。』

『あ、あなたは?』

『はじめまして。私はアクエリアス。あなたと同じ2歳牝馬よ。よろしくね!』


『は、はじめまして!私はグリーンワールドです。』

『私はプリンセスSで4着だったの。本番では必ずあのリエマリアをギャフンといわせてみせるわ!』

『本番・・・。』

『クラシックよ!あなたも出れるようにがんばってね!』

『私が・・・?』


『そうだ、あとで古馬のお姉さんがたにあなたを紹介してあげるわ。』

『ほんと?!』


『うまく気に入られたら、レースのことを色々教えてもらえるわよ。がんばって!』

『う、うん!いろいろおしえてくれて、アリガトウ!』

「さあ、いこう。グリ!」 沖田にうながされ、グリーンワールドは嬉しげに馬房へと引き上げていった。


その場を離れたアクエリアスは、少し先にある厩舎の角をまがったところで、1頭の馬とすれちがった。

『随分親しげにしてたじゃない?アク。』 

そういって話しかけてきたのは、さきほどの”妖精”リエマリアであった。

『フン・・・、”演技派”といってちょうだい、リエ。』

『そうね・・・。で、あの娘のことどう思う?』

『フン・・・、まあ私たちの敵ではないわね。』

『アラ、そう?あなたもそう感じた?なら良かった。』

『リエが気になるっていうから、わざわざ見にきたのに・・・。どうやら、ただのくわせものね。』


『アラ、ごめんなさい。私どうかしていたわ。じゃあね!』 

リエマリアが軽やかなステップで去ったのを確認して、アクエリアスが不気味にほほえんだ。

『でも、早いうちに潰しておいたほうがいいかもね・・・。』 

(つづく)




坂路では、先輩ホースたちがそれぞれのメニューにあわせた追い切りを行っていた。





一番最後尾につけたグリーンワールドは、胸の高鳴りをおさえることができなかった。


『早く走りたい!牧場にいたころのように・・・!』



すると、1頭の馬が軽やかなステップで近づいてきた。



『新入りさんですか?』



『は、はい!』



『私もここに来たばかりなの。よろしくね。』



『よ、よろしく!私はグリーンワールド!』



『私はウインドジュエル。お互い頑張りましょうネ!』



それを眺めていた有田が言った。



「おや?グリーンワールドの隣の馬、あれはたしか若林さんの・・・」



「どれ?おお、本当だ!ルストマ・シーランドの秘蔵っ子・ウインドジュエルじゃないか!」



「ふいー、遠めから見ても、やっぱりいい馬だなぁ。」



「ちょうどデビューも同じ頃になるのかなぁ?まあ、むこうは桜花賞まで視野に入れての年明けデビューだろうけど。」



「へー!新馬→トライアル→桜花賞ってか?随分、強気なローテーションを組むもんだねぇ。。」




「オオ-!」


突如、記者席からどよめきがおこった。



有馬記念に出走する古馬、スルーザターフが好時計を叩き出したらしい。



【スルーザターフ、坂路・馬なり:59.0秒】



「ホー!59.0秒か。いい感じだな」



「好調をキープしてるね。こりゃ、おもしろくなってきたぞ。」


記者席では早くも有馬談義に花が咲いた。






『ヨシ!じゃあお先に行って来るね!』



そういうと、ウインドジュエルと呼ばれた馬は、坂路を駆け出した。





「みろ、綺麗なフォームで走る馬がいるゾ!」



「へー!あれでまだデビュー前らしいぜ?!」


記者席がざわつきだした。


流れるようなフォームと、牝馬とは思えない力強さを兼ね備えたその若駒は、見るもの視線を釘付けにした。




『キ、キレイ・・・』



グリーンワールドも、目の前を走るライバルの走りに目を奪われた。彼女は、今までにこんな走りをする馬を見たことがなかった。


やがて、沖田にうながされ、グリーンワールドも坂路へと向かった。


『ヨーシ!私も・・・!』





そのとき、記者席がどよめいた。


「オオオオオオ!」





【ウインドジュエル、坂路・馬なり:59.1秒】



「と、時計が壊れたんじゃないか?」



「3歳新馬がスルーザターフとコンマ1秒差?!バ、化け物だ!」



記者たちが色めき立つ。




「アハハ・・・。若林さんは、神通力でも使えるのか?」



「ま、まいった・・・。うちも来年はアイツにセリを頼もう・・・。」



「少しはバイト代まけてくれるかな・・・?」



「さ、さあ・・・。」



ウインドジュエルの脅威のパフォーマンスを目の当たりにした神戸HCの面々は、すっかり意気消沈していた。



「やれやれ・・・。さあ、おれたちはグリを出迎えにでもいくか。」



「ハァ・・・。ちゃんと坂上まで駆け上がってくれたかな?」





そのとき、記者席で、みたびどよめきが起こった。




「オオオオオオオオオ!」



「ん?今日はやけに騒がしいな。」



「グリーンワールドが坂路を逆走したんじゃ?!」



「みみみみみろ!有田!」



「ん?」







【グリーンワールド、坂路・馬なり:59.0秒】




「ええええええええ!(((゜д゜;)))」
「ええええええええ!(((゜д゜;)))」



(つづく)




「沖田クン、グリーンワールドの調子はどうデスカ?」





「あ、マスター富士川。」


「やはり身体は弱いですね。他の仔の倍は気を使っちゃいます。」



「そうデスカ。やはり、レースは絞りに絞って使っていかないといけませんネ。」



「ハイ。次に故障したら、この仔の命取りになりかねませんからね。」



「フー、天才調教師はツライデス。」



「ですね!」


「さあ、グリ!今日もプールにいくよ。おいで!」



「ヒヒン♪」



グリーンワールドは沖田とのプール調教が楽しくて仕方ない。





神戸HCが富士川調教師に預けた仔馬は、脚の怪我もすっかり癒え、徐々にではあるがトレーニングをつみはじめていた。



沖田はグリーンワールドと寝食をともにし、まるで本当の兄妹かのように彼女のそばに寄り添って世話をした。 そのかいがあってか、グリーンワールドは日に日にたくましく育っていた。




「まったく沖田クンはたいした男デス。」



グリーンワールドの様子を見にきた神戸HCに、富士川は言った。


「あの若さで、既に天才的な調教テクニックを身に付けてる。それに馬のハートを読むという重要なスキルも兼ね備えてるヨ。」



「へー、あの彼がねぇ?」と有田は感心した様子でグリの世話をする沖田を見やった。



「へへ、既にマスターを超えてるんじゃないの?」と多良崎。



「しゃーらっぷ!オマエ、何しにきたんだ?!とっととゴーホームね!」




「このままうまくいけば、デビューは正月明けかな?」


「そうなるとイイネ。まあ桜花賞に出るわけでもなし、あわてずじっくり仕上げていくヨ。」



「マスター、頼んだぜ。」



「おい、そこのオマエ。オマエは何か言うことナイノカ?」



「・・・・。よ、よろしく (-。-;)」



「よくきこえません!」



「・・・・よろしくお願いします!!!! (゜д゜;)」



「パチパチパチ。よくできましたー。ププ!」



「(有田・・・このまま転厩届け出してきてもいいか?!)」



「(まあ、まて!少し病んでるが、調教技術はたしかだ。)」





「マスター!ちょっと来てください」



「WHAT?」


「ええ、この通りだいぶ仕上がってきたんで、一度坂路に出してみたいんですが・・。」



「フーム。よし、いいだろう!」



「沖田クン、まずは馬なりでいいからネ。」



「わかってますよ、マスター!グリの走りたいように走らせてきます。」



「おお、いよいよ調教らしくなってきたな! ( ̄∇ ̄+)」 


有田が身を乗り出した。


(つづく)




グリーンワールドが栗東での調教を開始したころ、ターフでは2歳女王を決めるG1レース「プリンセス・ステークス」が開催されようとしていた。





1番人気は、デビューから2連勝で駒をすすめてきたグルーヴダイナ。セレクトセールで史上最高5億で落札されたあのエアグルーヴの初仔だ。


世論も勝って当然の風潮の中、グルーヴは自らの宿命をあざ笑うかのように、軽やかにキャンターに入った。

「くそう・・・」 有田はテレビに食い入るように見入っている。

「有田、いつまでも引きずるな。。。」

「本当なら今頃おれたちがあの馬主席から彼女を眺めていたんだ・・・」

「有田・・・」

「だいたい、なんだよ”グルーヴダイナ”って?!もっとシンプルなネーミングができないものかね?!」

「い、いいと思うけどなぁ、、、じゃあ、有田ならなんてつけるんだよ?」

「父ナリタブライアン、母エアグルーヴなら決まってるだろ?! 

 ”ナリタグルーヴ” だよ!」


「ええええええええ!(((゜д゜;))) 」


あと一歩のところで落札しそこねた有田は、今でもその牝馬に未練タラタラであった。(第12話参照)


「いくら良血だからって、競馬は血統だけで走るもんじゃないだろ?」


多良崎は、岡田先生が生前よく話していた言葉を思い出していた。


”その馬の素質・調子・馬場・コース・距離・天候・戦法・・・様々な要素が、複雑に絡み合う競馬では、いつも良血馬が勝つとはかぎらない。だから、競馬はおもしろいんだよ、多良崎くん”

「多良崎・・・・そうだな。」


さあ、1番人気のグルーヴダイナに挑むのは、前走G3でそのグルーヴとハナ差の接戦を演じた2番人気プリンセスメール!そして、3番人気のリエマリアはいまだ牡馬にしか先着を許していません!上位3頭は横一線といってよいでしょう!

「ヘ!横一線なもんか!グルーヴが牝馬相手に負けるかね。」


有田が毒づいた。

ガシャン!

スタートしました!グルーヴダイナはスッと3番手あたりにつけました。このあたり、さすが名手岡辺!リエマリアは中団、プリンセスメールは・・・おっと最後方!天才・竹本豊は最後方に控えました!


先団は既に最終コーナーに掛かって行きます。さあ、ここでグルーヴダイナが先頭に立った!グルーヴ早くも先頭に立って最後の直線!


「ウワアアアア!」

残り200を切って、先頭はグルーヴダイナ!リエマリアが猛追だ!的馬が懸命にムチを振るう!リエマリアがグルーヴダイナに並んできた!

「おいおい・・・!」と有田。

さあ2頭の叩き合い!残り100と50を切った!ああっ、大外からプリンセスメールが飛んできた!やはり来たか、プリンセスメールが凄い脚!!!

ユタカだ!ユタカだ!皇女プリンセスメールが2頭まとめて差しきった!今、先頭でゴールイン!!!

「ええええええええ!(((゜д゜;)))」
「ええええええええ!(((゜д゜;)))」

二着争いはグルーヴが粘るところ、内からリエマリアが差しきったようにみえましたが、どうでしょうか?

勝ちましたのは、ゼッケン6番・プリンセスメール。父フサイチコンコルド、母スカーレットメールです。

「ハハ・・・グルーヴダイナ3着だってさ。分からんもんだな、有田。」


「・・・・・。」


それにしても、上位3頭は差のない競馬でした!来年のクラシック戦線は、この3頭を中心に展開されていくでしょう!

「ウッウッ・・・!」

「(泣いてる?!)有田。そ、そんなショック受けなくても・・・」

「ウウ・・・!5億で落札しなくてホント良かった・・・!」

「(こ、こいつ・・・!)(((゜д゜;)))」

(つづく)