遂に始まりました!日本史上初の南北朝時代を舞台にしたアニメ!大河『太平記』以来の創作作品では2度目の映像化!

ということで、私自身も一日千秋の思いで待っていたアニメ『逃げ上手の若君』

放送前は主人公時行くんはじめ主人公サイドの少年少女陣が玄蕃を除いて殆どが新人若手の部類になること、特に時行くん役が完全な新人であることから来る演技面での不安、時代的にも作品的にも南北朝のラスボスである足利尊氏のキャストが事実上公開ギリギリまで秘匿されていた戦略面での不安、そして何よりもあの色々な意味で果たしてエグイ世界観をアニメで再現できるかという不安が目白押しでした。

 

ところで、アニメ放送直前に発売された

 

 

単行本16巻で松井先生の苦悩と覚悟ともとれる言葉が載っているのを読んだ時に涙が出そうになりました。

詳細はネタバレ厳禁ですが、主人公の所属する軍が略奪に狂奔する地獄絵図場面に関連して…

「味方の略奪の回だから票はゴソッと減りましたが、歴史と戦争の現実を描く以上は省略する選択肢はありませんでした。このあたりが歴史漫画の辛いところです…」

これほど題材となる歴史に対して真摯な姿勢で向き合おうとする創作家の言葉を未だかつて見たことがない(涙)

それこそ主人公サイドでドン引きなシーンを描き出すなんて、デメリットばかりで「売れる」ことを目指すならばどんな人間だって尻込みするでしょう。ましてや作品人気票が生命線の大手少年漫画雑誌なら死活問題と言っても良い。普通に考えたら、スルーするのが道理の筈です(私も流石に少年漫画という媒体である以上は…と仕方ない)と思っていました。しかし、松井先生は自分が題材にしている「歴史」に対して真摯であろうとする。昨今「題材的に避けては通れない筈の題材となる歴史・人物を語る上での負の側面を【無かったこと】にしてスルーしてしまう作品ばかり見てきた人間としては涙が出てきそうになりました。そうだよな、現代人の都合で実際にその時代を生きた人々の記録を勝手に書き換えるなんて傲慢だよな。本当に私が今までに批判してきた大河ドラマ関係者にも百万回読んで聞かせてあげたい台詞です。ここら辺の絶妙さが逃げ若の切っても切り離せない魅力の一つ。さてそれではアニメはどうであったかというと…

時行くんの視聴者に間違いなく性癖を開花させてしまう魔性の美ショタぶり

時行くんの逃げ上手の鮮やかさ

 南北朝のラスボス足利尊氏(高氏)のホラー的強さ

原作通りの鎌倉地獄絵図

原作者センセイが描いている上での大事な要素を全て映像表現で見事に再現してくれたので「間違いなくスタッフ本気だ…!」と確信しました。

私としては是非とも多くの方に本作を知っていただく改めて感想を述べていこうと思います。なお、当然ながら本編内容は既に感想記事にしているので、アニメでの独自部分についての解説主体で参ります。

 

①オープニング・エンディングと本編世界のギャップ

実は先行上映ではOP・ED映像は流れない本編部分だけこっちはぶっつけ本番視聴だったOP・ED部分。なんかこれだけ見ているとまったく違うアニメに見えてしまう不思議。もちろんこれもまた松井作品の特徴であるギャップを強調するための仕掛け。時にギャグマンガのようなノリになったと思えば、とてつもない重たい人間ドラマとなる松井作品の特徴満載。絵柄まで完全に別物。OP見て嬉しく思ったのは

OPで既に合体している信濃のオッサンず、顔が濃い保科党、麻呂国司といった面々が登場する事。なによりも護良親王キター!!

逃げ若アニメ化の時に最大の危惧を抱ていたは護良親王の存在完全カットされることじゃないかということでした。逃げ若での護良って、時行くんとまったく接点ないし、ぶっちゃけ逃げ若のストーリーの本筋からいくとカットしても問題ない。そもそも原作第1部がアニメ化されるかどうかもまだ未知数な段階で、彼を描く余裕があるのか危惧でしたが、目でたくこの点は解消。

でも全部エンディングのDJ南北朝のラスボス

に持ってかれてしまったよ。何となくぶっ壊れまくったエンディングでも最大級の破壊力。すげぇノリノリで、「YOYO、後醍醐帝って活かすYO!ぜってー忠誠尽くすぜ、BABY!でも朝敵認定されたら最悪!そんときゃディするYO!」というのが違和感ない。おまけに第1話では原作では一応既に登場していた腹黒い弟の直義が完全カットされていたのにエンディングではラスボスの兄に無理やり付き合わされてのボーカル担当(しかも誰も聞いてない…)しているのが腹筋崩壊してしまいました。

 

②南北朝の絶対的主人公の表現力

ナレーション「勇敢な討ち死に 潔い自害、戦いと死こそが武士の名誉、これはそんな怒涛の時代を華々しく生き抜いた英雄・足利尊氏の生涯を描く物語⸺ではなく」

先行上映の映画館で吹き出すのを抑えるのに苦労した冒頭の南北朝時代の絶対的主人公足利尊氏(高氏)。まさかの

まさかの「漫画 日本の歴史」のパロディときたもんだ。

わざわざ絵柄を「ネタ元」の漫画に合わせて違和感ないようにしているのだから恐れ入ります。スタッフのポストによると

 

幾通りものパターンの挿絵を用意して如何に尊氏が南北朝のラスボスと言うに相応しい巨人かを、初見の人にも印象付けるか本気を出していると判るものです。パロディにも全力を注ぐところは銀魂風(笑)

南北朝のラスボス「足利高氏、今より京に行き後醍醐先帝方の乱を鎮めて参ります。北条家への我が忠義を未来の主君にもご覧いただきたく~」

さていよいよ皆さまもご注目の南北朝のラスボス足利尊氏。CV小西克幸のラスボスボイスはどんな声となるか…と思っていたのですが、最初に第一声を聞いた時には事前に「小西さんが尊氏」という情報がなければ「え?」と思わず耳を疑うレベルで、よく聞く小西さんの声らしさは影を潜めた非常に重々しい威厳のあるどっしりとした声。

「英雄・足利尊氏(高氏)」になり切った声と表現してもいいレベルでした。

そしてそのラスボスとしてのホラー的演出として「細切りの名越高家」という原作よりも惨い最期を遂げてしまった名越さん。いきなり鬼=スタンドのキング・クリムゾンによる時飛ばしの影響で一瞬でサイコロステーキに。

なお、一瞬ながらこちらは既に声が当てられた執事高師直。キャストは宮内敦士さん。おお、これは如何にも強大なる敵組織幹部の風格たっぷりの大物。私の予想としては外れでしたが、宮内さんとあってはいかにも感情の無いマルチタスク完璧執事としても文句ありません。おまけに小西ラスボスの右腕とあっては観応の擾乱で

高師直「さ、さっきし…出家すれば…い、命だけは取らないって…約束したくせに…」

腹黒い弟「自分を知れ…そんなオイシイ話が……あると思うのか?お前の様な人間に」

高師直「な、なんてひどい野・・・」

三浦八郎「(命乞いなど)無駄無駄無駄無駄ーーー!!!!」」

高師直「ヤッダーバァアァァァァアアアアア!!!」

三浦八郎「無駄ァアアアアア!!!」

で違和感なかったのも内緒だ。

 

 

②時行くんの日常シーン

一番良かったのは邦時の兄上との会話シーン。邦時の兄上との会話シーンは原作では1シーンだったのが、2つの場面に分割。オリジナルとして2人の師範である塩田と狩野が必死に追いかけるのに見つからず四苦八苦するなかで、あっさりと時行くんを見つけてのノンビリした光景。ああ、思えば北条家は『鎌倉殿の13人』~『北条時宗』に至るまで、ノホホンと過ごせるような環境でなかったのを思えば、皮肉なことに北条得宗家の当主が傀儡化したことで、最早そういった権力闘争と無縁に…え?泰家叔父さんは…知らんなぁ…。そして最後には蹴っていた球が屋根に落ちたのを見失い…それが落ちる音が

生首ボトリ

なお次回タイトルは「やさしいおじさん」うん、これは誰のことかな?なお、今回唯一テロップが流れなかった邦時の兄上。

 

③雫ちゃんと頼重さん

もう第一声聞いた時に一発で声で上書きされてしまったよ(笑)雫ちゃんの声、PVで聴いた時にはちょっと違和感あったのですが、ごく自然な状態で「神秘的な可愛さ」が表現されていたと思います。そして実は一番の気がかり要素であったCV中村の頼重さん。もう第一声から胡散臭さ全開、おまけにここの部分では結構作画も松井作品タッチとなっているのがツボ。もちろん、これも松井センセイの作品キャラは絶対一筋縄ではいかないキャラで、最初に見せていたキャラの内面は実は…とすることで、よりキャラの魅力を深増しにしていく。

 

④鎌倉地獄絵図:大河『太平記』の存在感

南北朝のラスボスの裏切りから24日にしてあっという間に全てを失ってしまった時行くん。原作でも凄惨な地獄絵図だったのですが、アニメ版では自重するどころか更に生々しくなっているのですね。特に、摂津清子の最期。原作では仰向けに恐怖の表情で引きつった顔だったのですが、アニメでは更に目にアザがあり、さらにはだけた着物とより具体的に何が起きたかを惹起させる内容に…

これもまた地獄なのですが、実を言うとこの時代の武士の情景を思えば、誇張でもなんでもないのが恐ろしい所

鎌倉期の絵巻物『男衾三郎絵詞』「弓矢とる物の家よく作ては、なにかはせん。庭草ひくな、俄事のあらん時、乗飼にせんずるぞ。馬庭のすゑになまくびたやすな、切懸よ。此門外とをらん乞食・修行者めらは、やうある物ぞ、ひきめかぷらにて、かけたてかけたておもの射にせよ」(訳:サムライの家では、馬草にするから庭の草は放っておけ、庭端には常に生首をさらしておけ、気合いだ!外で乞食や放浪者を見つけたら、引っ捕らえて、弓矢の練習の的にしろ!)とまさにこの時代の武士は蛮性の解放そのもの。先に挙げた通り、この時代を描くうえで避けては通れない歴史的事象でもあります。目を背けたくなるような負の面でも決して逃げない。原作者センセイの方針がスタッフにも引き継がれてくれてこれでヨシ!と応援を決心しました。

 

〇メインタイトル回収

時行くん「こら、死んだらどうする」

顔を赤らめ、怒りながら非常に色気満載の笑顔と変態属性丸出しの複雑な表情で頼重さんに語り掛ける時行くん。よし!これを待っていたのだ。今回見たかった白眉はやはりこれです!時行くんの「逃げ上手の若君」というタイトルを回収するように、鮮やかで見事な動の逃げっぷりを見事に描き切った。これだけでお釣りがくる!実際、映像でみるとその動きの鮮やかさが一目瞭然でした。ちなみに松井センセイが第1話で一番気になったのはここで、中の人の結川あさきさんも力拳を入れていたそうな。やっぱり伝わるんだよね(笑)

 

 

さてここで最後に先行上映会での衝撃の事実を知ってしまいました

逃げ若アフレコ、既に7月初頭の段階で全て終了している

ちょっと待って、つまりこれ1クール12話で終了するということ?どう考えてもこんなの尺的に足りないぞ。かといって、ここからスピード展開にしてしまうとストーリーにも面白さが激減してしまうし、ということはこれは分割式にいくということでしょうか。とりあえずは反響と人気次第で、更に第1部終盤まで行けるかどうかを見極めるということでしょうか…とりあえず、絶対に小西ボイスの南北朝のラスボスで「あの」伝説回までやってくれよ!