またしてもここのところ、更新が滞ってしまい申し訳ございません…

書きたいことが山のようにあれどなかなか筆が進まない…という状況に陥っておりました。何とか時間を設けて話を進めていきたいと思います。その中でも今回ほどどれを書こうかと悩んだ話はありませんでした。

今回、描かれるのはラインハルトの宣戦布告に対する同盟国内の状況…今回はノイエ銀英伝でも珠玉のオリジナリティが発揮された回でした。今回に匹敵するオリジナリティと言えば、第9話の

ジェシカの演説ですが、今回はそれに相当するものがあった。主題は

民主国家の本質とは多種多様な意見・価値観の共存

です。今回、描かれるのはラインハルトやヤンといった英雄たちとは異なる大多数の政治家・市民の目線での考えさせるものがあります。原作でも言及されているように民主主義の本質とは「自らとは異なる意見・価値観も共存」させること、それは後に描かれるであろう帝国とは真逆の状況を対比させる意図があったと思われます。それでもある意味ウルッときてしまったのは互いに意見を述べ合い、衝突させながらでも意見を述べ合うシーンでしょうか。

創作での「腐敗した民主国家」を象徴するように描かれた自由惑星同盟が、まっとうに見えてしまうくらい現実の民主国家が劣化してしまった2020年代

を生きていることからも実感してしまった。現実世界が創作世界をも上回るくらいに劣化してしまっている。それこそ現代では「自由と民主主義こそ正義」などと唱える「現実世界の『同盟』の為政者たち」が実際には異論・反論・オブジェクションを受け付けないそれこそヨブちゃんですら真っ当にみえてしまうくらいにね。今やそういう異論は様々な意味で排除されつつある現代(別に某国に限った話じゃないよ)を生きる我々にも考えさせるものがありました。何かとは言わんが「おれの意見と異なる者は絶対悪」という風潮が世に蔓延する現況が左右問わず蔓延っているのを思うと特にね…そして何よりも素晴らしいのが

今回はノイエ銀英伝は石黒版とはいい意味で差別化ができた

ということですね。今回描かれた主なパートは次の通り

①ラインハルトの宣戦布告に右往左往する同盟政府

②国論が分裂した同盟社会の状況

③レベロとホワンの会食

④幼帝虐待を進める亡命政府の実態

⑤更に統制を進めるヨブちゃん

実は石黒版では原作で言及されていたこれらのシーンの殆どは③で集約されて殆ど描かれずじまいでした。今回は独自性を出しつつ時には石黒版以上に原作を忠実に映像化しようというノイエ銀英伝の美点がよく出ていました。いや、本当さぁ、ノイエ版の場合はむしろこの路線で進めて欲しいのよ。何か、時には原作をも大きく逸脱するようなオリジナリティを発揮しようとすると上手くいけばいいんだけど、失敗すると凄まじく破綻をきたす今までのノイエ版の問題点を思うと、やはりこの路線で行くのがベストではないか。そう思う次第です。それでは本編感想参ります。

 

①同盟政府の右往左往

まずはOP明けにラインハルトの宣戦布告映像を大画面で見ながら、金髪の孺子に対する怒りを露にする同盟政府高官たち。彼らの目算としては、「亡命政府を外交交渉のカードとして利用する」目論見だったのが全くの大外れであったことに憤るのですが、さてここで前話のヨブちゃんの演説を思い起こしてみましょう。

「しかも彼の邪悪な野心は、わが国にたいしてもむけられています。全宇宙を専制的に支配し、人類が守りつづけた自由と民主主義の灯を消してしまおうというのです。彼のごとき人物とは共存できません

自国の国家元首が敵対国の事実上の最高指導者を絶対悪を定義し、「現在のローエングラム体制下の帝国政府を対手とせず」と公共放送で堂々と宣言したのと思いっきり矛盾する話です。ただ、本作のヨブちゃんの描写を見る限り、敢えて「交渉の道を閉ざす為に意識的に選択した」可能性も無きにしもあらず。ここら辺は「トリューニヒトはルビンスキーの『計画』をどこまで知悉していたのか」が原作でもはっきり明言されていないので興味深い所です。石黒版では完全に「腐ったリンゴ」として同盟を腐食させる「寄生木」の役割を意識せずにやっていたヨブちゃん、一方のノイエ版はどうもここら辺の裏事情を察して敢えて仕向けたようにも取れるヨブちゃん。

トリューニヒト「ここでどれほど敵を非難してもそれに先立つ我々の判断が覆るわけではない」

右往左往する手下の政治家たちとは対照的にどこか余裕たっぷりのヨブちゃん。一方の手下の政治家たちが憂慮しているのは選挙に対する影響というより国家の未来より、自分達の議員としての地位を気にする近視眼ぶりには「やれやれ…」という思いです。民主政治の負の側面の一つとして、選挙に勝つために近視眼的な視野しか持ちえない為政者が跳梁跋扈するというのがありますが、まさにそれ。

 

②あなたの意見はどこに?

 

マスメディアによる報道とそれに対する同盟市民たちの反応。様々な視点や立場から幼帝を受け入れるかどうかを巡って意見を述べていく同盟市民たち。一つ一つの市民の意見あるいは感想は千差万別。でもそれはそれで当然なのです。この世で一つの流れに沿うなんてことはありえない。本来、民主主義とは異なる知見・意見を取り入れながら最大公約数の合意を得るために努力しなければならないのです。多数派が「数の暴力」で全てを押し通せば、少数派は「俺たちは結局排除されるだけじゃん、じゃあもういい」となってしまうだけ。世界各地で民主政治が機能するには「多数の意見・価値観」が共存していかねばならない。

それにしても中には真剣に軍務に就いている為に真剣に考えざるを得ない若者たちから、能天気なトリューニヒト支持者から、感情的に扇動する者、中には無知なる無関心な市民、更に学者間でもそれぞれの双方の立場でメディアを通して、意見論争させていきます。色々と感心する場面があるとすれば、例えばある大学での場面。「民主国家は専制国家に対して戦うのが正義」と唱える教授に対して、「そのために多くの人が死ぬのは間違っている」と異議を唱える学生、教授に賛同する学生が意見を戦わせます。これも現実社会だと「偉い先生の言うことだから…」とただただ肯定しかねない権威主義がまかり通ります。

例えば、こういったメディアを通しての論争というと今回の場合で言うと「幼帝は送り返すべき」というような異論を唱える「専門家」はまず呼ばれません。そもそもマスコミがこの手のチョイスをする時には恣意的に自分達の目指す情報操作に都合の良い「識者」ばかりが得られ、それらが世論を扇動していくというのがデフォ。これ、以前にも言ったことなのですが、言論の自由がある(という建前の)民主国家で、流される情報というのが自由がある=正しい情報が流布するなど虚構の中の世界であって、メディアもまた有事には扇動者となり売る哀しい現実があります。その意味では今回の同盟、実はまだ健全な民主国家じゃない?と思わせる仕掛け。まあその裏ではエドワーズ委員会の弾圧に象徴されるように既にそういう政権にとって都合の悪い勢力が軒並み排除されてしまっている、というのも大きいのでしょうが…

学者A「先般の帝国からの攻撃、あれでイゼルローン要塞が陥落すれば大変な危機だったわけだが、ヤン・ウェンリー提督がこれを撃退した。彼がイゼルローンにいる限り、恐れる者は何もない」

それでも多数の人間にとっての共通認識は「イゼルローン要塞に魔術師がいる限り大丈夫」というどこか能天気なもの。その安心感を補強してしまったのがまさに台詞で言及されている通り、「要塞対要塞」(第8次イゼルローン攻防戦)における勝利が同盟にもたらした負の影響ですね。イゼルローンに匹敵する巨大要塞を持ち込むという先例のない攻撃もヤンが見事に撃退してのけた大勝利、が同盟政府も市民も完全に目を曇らせてしまった。過去にイゼルローン要塞を何度も攻略しても果たせなかったように、今度は自分達の側となった要塞とヤンによる巨大な勝利が逆に更なる窮地を招くという帝国領侵攻作戦と同じ悪循環。そしてこれらの論者が完全に見落としていることとして

現在の同盟が国力的に帝国と戦争をし続けられるのか?

根本的な部分での視点が全く欠落してしまっているのが何ともまぁ…という気分にさせられます。既に財政は破綻寸前、社会インフラはボロボロで、社会は窮乏している現在の同盟の状況に対する視点が一個もない所が、まさに幼帝という存在に幻惑されて根本的な議論となっていない同盟の危機的状況を示しているといえます。

 

③穴だらけのレベロ・ホワン論争

そしてそんな同盟の根本的な現状に対して真剣な憂慮を持ちうる視野を持った数少ない人間たちの論争がレベロとホワンの会食シーン。ただ、ちょっとこの会話劇、ちょっと色々「?」と思う部分がありました。今から具体的に述べていきましょう。

ジョアン・レベロ「国の成り立ちからして帝国との戦争に疑問を挟む余地はない」

おいおい、レベロにこんなウィンザー女史と同レベルのことを言わせるなよ。これ書いた人、レベロがそもそも序盤で「疲弊した同盟の国力を立て直すためにもいまこそ和平」を訴えた過去のシーンを知らんのか、と言いたくなります。私が銀英伝に登場する政治家キャラで誰を一番評価しているかというと

「財源の裏付けのない『正義の戦争』などすべきでない」という

現実主義的な視野を持った政治家

だからこそなんですよ。威勢のいい主戦論に惑わされることなく現実を見据え、国家の存続の為に成すべきことを成す。実際、この後のレベロの行動はまさにそれだっただけにこのセリフの残念さが際立ちました。そして真剣に「ヤンが軍人独裁者になるのではないか」という危機感…というよりは妄想を語り出すレベロと「んなわけねーよ」と鼻で笑い飛ばすホワンのユーモアたっぷりの態度との落差。

ジョアン・レベロ「ではセンス豊かなルイ氏の見立てはどうなんだ?」

ん、ンンン?このセリフにも凄い違和感を感じます。一応可能性としては

①レベロとホワンはファースト・ネームで呼び合うほど仲の良さを表現

②脚本家はホワン・ルイのホワン(黄)が中国系の名前だと知らず、ルイを姓と勘違いした

の2点。ホワンが終始「レベロ」と呼んだいるのを考えると後者の可能性がかなり大。いかんなぁ、この場面は本来

銀河英雄伝説の至上命題である

「清潔なる専制政治と腐敗した民主政治のどちらを選ぶか」

という重大な命題を議論する場なのにちょっと小さいが瑕疵が気になりました。

ただ、その重大な命題を述べるシーンでずっと糸目だったホワンが目を開くというのはなかなか巧い演出でした。終始、皮相的にそれでいてヤンに対する正鵠を射た評価といい、客観的視点で見ているホワンもまたこの命題に対する真剣な悩みをもって同盟の未来を憂慮していた証なのですね。糸目キャラが目を開く時はシリアス

 

④幼児虐待の亡命政府

そんな中で台風の目となっている銀河帝国正統政府が持てあます幼帝エルウィンの日常。余りにも粗暴で暴力性を剥き出しにする幼帝に対して、彼を都合の良い傀儡として考えていなかったレムシャイド伯ら亡命政府の面々は怒りを露にします。つうか、ラグナロック作戦が発動する前から既にバラバラな亡命政府の面々。幼帝という感傷的存在を上手く利用して、同盟やフェザーン、ゴールデンバウム王朝支持派の帝国人の歓心を買いたいレムシャイド伯としては、エルウィンの実態は何としても隠したいもの。結局、糊塗するために選んだのは

薬物投与による強制的な睡眠。何だか本当にエルウィンが可哀想に思えてきた。ラインハルトからは祖父のフリードリヒ帝に対する憎悪の身代わりとして徹底的に憎まれ、その生活環境はネグレクトによって精神を歪まされ、それから解放されたと思ったら、都合の良い傀儡として利用されるために今度は薬物投与による虐待という真逆の救いの無さ。こんなことされて、どう考えても未来が見えてくるわけがない。

そしてそんな幼帝に対する謁見希望者の案内役として不本意な役目を黙々と果たすシューマッハ。つうか

わざわざ幼帝のために亡命を希望する人間いたんかい!

とちょっとビックリでした。

 

⑤本音が見え隠れするヨブちゃん

そして一応の現状として、幼帝の受け入れを巡る支持率の動向と亡命政府の実態についての報告をアイランズから受けるトリューニヒト。まずは国論が分裂したとはいえ、従来の支持層からの支持率がUPされたことで安堵を隠せないアイランズ。この辺は現実の民主国家でもままあることで、政権としては従来の支持層を過半獲得しておけば、それ以外の反対世論なんて無視してしまえばいいという本当の意味で民主国家としての欠陥がよく出ています。

アイランズ「正統政府内では皇帝個人の可愛げのなさに辟易する者も多いようですが…我が方にとっての政治的価値が損なわれるわけではありません」

レムシャイド伯ら亡命政府の面々が同盟側に知られまいと必死に隠蔽しようとしていた幼帝エルウィンの実態があっさりと筒抜けになってせせら笑いを隠せないアイランズの報告。まあ、政府所在地として与えられたのは同盟側が用意したホテルだし、盗聴や監視が無いわけないよな。もっとも話にもならないのはアイランズも一緒で

 

アイランズ「ローエングラム公とはともかく帝国軍の将兵には幼い皇帝に銃口を向けるのを躊躇う者も多いのではと考えます」

ハッハッハ、よりにもよってもうこのシーンが思い浮かんでしまったよ。

トリューニヒト「アイランズ君、今更希望的観測に縋っても始まるまい」

間違いなくヨブちゃんの内心の思いとして完全に一致だと思う。原作ではどちらかというと「溺れる者は藁をも掴む」的な感じで出てきた希望的観測で出てきた「幼帝に銃口を向けるのは躊躇われる」という同盟人たちの予測。いや、自分達だって単なる傀儡だと判っているだろうに、そんな大真面目に言われては流石に表情を変えて楽観論を払いのけます。

トリューニヒト「今自由惑星同盟は追い詰められている」

自分自身が寄生木ゆえに完全に同盟を現状を把握しているからこそ、皮肉な事に一番真実を言い当てているヨブちゃん。そう、彼が全く気付いていないわけがないのです。長く同盟の政界に在籍し、今や権力の頂点に立ち、統制社会へと作り替えていったヨブちゃんが現状を理解しないわけがない。

最後に見せた笑みはそんな自分に盲信する「飼い犬」アイランズに対する嘲笑か、それとも現状を理解せず自分を盲目的に支持する同盟市民そのものへの嘲笑か、いずれにせよこれらの描写を見る限り、ノイエ版のヨブちゃんは既に裏でこれから先の構想に向けてルビンスキーらとの間で「協定」が出来、それに従って行動していたと解釈できます。

そして、来る帝国の侵攻に向けての「挙国一致体制」のために行ったのは軍部を完全に掌握すること。これまでも散々、軍部を自派で固めるために行動してきたヨブちゃんですが、一応「遠慮」はしていたのをかなぐり捨てて完全なる掌握を目指します。かくして、同盟軍首脳部は大幅な人事の刷新が行われます。これまでは同盟軍は建国の経緯からして、民主主義国家の守護者という役割のため、これまでは歴代政府首脳部もある意味では遠慮するほど巨大な存在でした。しかし、その守護者だった筈の同盟軍が旧穀軍事会議のクーデターで完全に失墜してしまい、遂に完全に政府の意のままとなる存在となってしまった。

まずは制服組№1の統合作戦本部長だったクブルスリーが病気を理由に引退。車椅子姿で退場するシーンからも昨年のクーデターでの暗殺未遂での傷が未だ尾を引いていたことが分かります。そして得意満面にトップの座に就いたドーソン。まあ今は有頂天になっているが、すぐに死ぬほど後悔する羽目になります。きっと「何であの時、統合作戦本部長の地位に就いちゃったんだろう」と何度も何度も考えただろうなぁ…逆にクブルスリーは不本意とはいえ、タイミングよくババを引かずに済んだと言う意味では幸運だったかなぁと。いやその後どうなったかは分からんけどね。そしてその影響はヤンにも及びユリアンのフェザーン駐在武官への辞令に珍しく怒りを本気にするヤン。それにしてもこれがヤンにとって大ダメージになるとしっかり把握しているのだから、本当にヨブちゃんはヤンの事分かっているよな。実際、ユリアンが傍にいないヤンはどこか精彩を欠いていたからね。さてこのユリアンの辞令に対する話の詳細はまた次回の感想にて。

フレデリカさん「どうぞ、名人の腕にはとても叶いませんが…」

とすっかりいじけてしまったユリアンとどこか本音が出せなくて悩んでいるヤンの間を取り持つようにさりげなくフォローをするフレデリカさんの芸の細かさと優しさ。ああようやく、ここんところなんか言及できなかったフレデリカさんの感想書けた!