今回こそは北条時行くんがこの作品の主人公に選ばれた理由。ラスボスである足利尊氏が如何に強大無敵な英傑であろうとも、いかにそれに比べて時行くんが小さな存在であり、史実でも影の薄い存在であろうとも関係ない。松井センセイが彼を主人公として選んだ本当の理由の一端が分かったような気がしました。歴史というのは誰か一人だけが主人公というわけではない。その中に生きた多くの人の営みが密接に関わっていっているのです。本作において、時行くんと諏訪頼重さんの関係性に着目し、見事にドラマとして成し遂げました。そして、時行くんは今後もまさに

逃げ続けることで英雄になる

如何に足利が時代の勝者であろうと関係ない。今回のそれはまさに北条時行くんはむしろ単独の存在になってこそ厄介なのです。南北朝のラスボスが如何に強大であろうと、高兄弟が如何に恐るべき武勇の持ち主であろうと、時行くん一人を捕らえることが出来ず、足利という巨大な存在がこの侍王子に翻弄され、意のままにすることができないことが今回の話で見事に完成しました。

時行くんと頼重さん、そして時行くんと南北朝のラスボス。この少年が接した2人に対する言葉がジーンと来ます。それでは本編感想参ります。

 

〇侍王子の鬼ごっこ

鎧を脱ぎ捨て、肌も露な姿で足利の最高幹部高師泰の背中に現れ、南北朝のラスボス足利尊氏に宣戦布告する時行くん。一瞬呆然とする足利軍ですが、高師直の号令で正気に戻ります。師泰も素手で捕らえようとしますが、時行くんは身体に油を塗っており、スルッと逃れてしまいます。

時行くん「鬼さーんこーちら。手の鳴る方へ♫」

 

まるで挑発するかのように凄まじい逃げ上手の能力で足利の大軍をすり抜けていく時行くん。そして彼らは気づいていません。実はこの時行くんの目立ちすぎる行動は全て今の逃若党の軍師となった雫ちゃんの策であることを…戦場中の注目を集めることで、頼重さん救出の隙をつくる。それにしても雫ちゃんの軍師としての聡明さが素晴らしい。これまで逃若党の軍略の全てを担ってきた吹雪の不在を見事に埋めるほどの才幹、本当に雫ちゃん完璧すぎる…!!


時行くん「足利家執事高師直 お前なら吹雪がどこかしっているか」

高師直「知るか。死ね」

時行くんの問いかけに敏速の二刀流斬撃で答える師直。彼自身の戦闘力は実弟の師泰に隠れてまだ完全には出ていませんが、それでもなお十分すぎるほどの強敵感。流石は南北朝のラスボスの右腕。しかしこれもまた時行くんにはあっさりと交わされてしまいます。そのまま足利軍全体をまさに翻弄するかのように凄まじい高速逃げ上手っぷりを発揮する時行くん。逃げる時が一番この侍王子が輝く時ですね。それには敵も味方も思わず息を呑まずにはいられない。

 

そしてそれが見事に囮となって、遂に頼重さんは亜也子らに救出されました。しかし、雫ちゃんの目は哀しい涙で溢れていました。もう頼重さんの神力は尽き、命は長くない状態。動くこともままならない状態です…

 

 

〇真なる父と子の完成

雫ちゃんですら頼重さんの延命を絶望視する中、頼重さんの下へ駆けつけた時行くん。刀を握らせ…

「さっきは御免なさい。こんな戦場でなんですが…親子の契りを結んで下さい」

遂に「フラグ」が回収される時が来ました!

かつて諏訪で庇護されている時に交わされた何気ない会話での烏帽子親として、神聖なる髪を切る儀式。それが遂に…感無量です。

北条時行くんと諏訪頼重さん遂に父子へ!

2年間の一緒の生活の果てにいつしか互いに家族同然の感情を持つに至った2人は遂に晴れて当時としては晴れて烏帽子親とその子という関係という形で親子関係として遂に成立しました。この圧倒的絶望感漂う戦場ですが、それこそが頼重さんには何よりの希望となります。

頼重さん「…この上ない恩賞だ。主君は私を親と認めてくれた」

頼重さんも周りの雫ちゃんや亜也子らも哀しみとは正反対のベクトルで涙を浮かべます。時行くんは遂に髪を切ることで、遂に巣立ちの瞬間を迎えた。そして今までの頼重さんの庇護に対するこれ以上ない返礼であるのです。思えばこの2人の関係性については松井センセイはそれこそ史実だけでは分からない部分があるからこそ丁寧に描いており、それがこの瞬間最大級の感動を生み出した。

これぞ史実を基に膨らませた良質の創作フィクションと言うべきでしょう!!(最大級の褒め言葉)

 

〇宿敵への回答

そしてこの間の時行くんの行動は全てが雫ちゃんの完全な作戦です。鈴の音と共に動く時行くんの行動、それ自体が全ては足利軍の将兵に対する心理的陥穽となっていたのですね。今や足利軍は大軍であるのが災いして、時行くんの行動に翻弄され、耳で鈴の音を頼りに探すように仕向けられていました。リズム良く流れる2回の鈴の音、1回目で鳴る時彼らは2回目の鈴の音で探り当てようと耳に全神経を集中する。それを狙って、遂に罠が起動します。鈴の1発目の音に反応したその瞬間、

鉄砲(てつほう)が炸裂!

かつて元寇戦時に日本軍を混乱させた兵器。もっとも直接的な打撃力は当時の技術ではそれほどではなく、音響兵器としての意味合いが強かったのですが、この状況では最大限に威力を発揮します。仕掛けたのは玄蕃。かつて京へ行っていた時に見かけたのはあの元寇戦時の鹵獲品の一つ。まあ確かにあれほどの大規模な戦役で、鹵獲されたものがあるのは当然のことです。

かつて吹雪からのアドバイスに従って「威力を追及した技は敵を縛る凄みとなる」を実践した玄蕃。ここにも吹雪のもたらした影響力の強さが発揮されるのですから、改めて彼の存在の巨大さ、そしてもう彼は二度と味方として現れることのない喪失感に囚われてしまいます。

 かくして雫ちゃんの狙った通り、完全に足利軍が一時的に戦闘不能となった隙をついて三浦八郎率いる鎌倉党が頼重さんを救出。そして時行くんは宿敵の南北朝のラスボスの方へと向かいます。その真っすぐな眼はひたすら尊氏に対する一切の怯みもありません。それに対して、こちらも先ほどのてつはうで耳をやられていた南北朝のラスボスが虐に驚愕で見開かれ、刀をもって対峙しようとするも…

時行くん「お前の負けだっ!!」

最後の最後に強烈な宣戦布告をかまして、見事に逃走してのけた時行くん。圧倒的勝利を収めながら、時行くんという少年一人を捕捉することが出来なかった南北朝のラスボス。やがてこれもまた彼にとってはジワジワと打撃と蹉跌を被ることになるのです。

まさに史実での足利尊氏もまた時行くん一人に翻弄された感を象徴するかのような今回の話でした。

 

それにしても「徳川家康が最も恐れた男」なるフレーズはもう最近では色々と金太郎飴のように出てきて、インフレで価値を低下させてしまいましたが、

「足利尊氏の人生を狂わせた少年」はまず間違いなく今後も覆されることの無い唯一絶対の称号ですww是非とも更に北条時行くんについては知られてほしい!!