遂に強大なる南北朝のラスボス足利尊氏が立ち上がる!!

いやもう分かっていることなんだけどね…ラスボスの腹黒い弟直義を敗北に追い込んでも次に来るのはラスボスの出馬…そしてその結果どうなるかも。時行くんに有力な味方が増える一方で、南北朝のラスボスが遂に動き出したことで歴史は大きく展開していきます。このラスボスの出馬こそが当人の意志とは裏腹に色々な意味で時行くんだけでなく、当時の人々の運命を大きく変えることになります。それはまさに荒波のごとし。そして翻弄される最初の相手となった時行くんたちは…それでは本編感想参ります。

 

〇100年ぶりの共闘・得宗家と名越流の抱擁

鎌倉奪還を成し遂げ、再び集まりだした北条に馳せ参ずる将士たち。いよいよ意気軒高し、連日連夜宴会が繰り広げられます。そしてそんな中で、武士達の酌をさせられているのが貴種である時行くん。高貴なる身分の者が下々の戦士たちの酌注ぎボーイの役割を果たすとは…それこそ永嘉の乱後に異民族の虜囚の身となった西晋の懐帝の例がありますが、自ら率先してやるのでセーフ。なお懐帝の場合は最後にぶち殺されてしまう模様。鬼か。そんな時行くんに挨拶をする武士が一人。それは…

名越高邦「名越高邦と申します!六千騎を連れただ今参陣!」

時行くんと同じ年齢位の少年武士。彼こそは北条家の一門の一つ

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に登場した北条義時の次男・朝時を祖とする名越流の末裔です。

長男・泰時を祖とする宗家の得宗家の末裔と名越流の末裔が再び手を取り合う貴重な場面。何しろ両家はその後、色々な政治事情で同じ北条一門でありながら、対立を繰り返してきた不幸な関係でもありました(この辺は大河『北条時宗』で)。結局、名越流はその後は鎌倉幕府内では逼塞させられたのですが、最期の当主となった名越高家は後醍醐帝の反乱軍鎮圧時の大将として出陣し、呆気なく戦死。(逃げ若では南北朝のラスボスの裏切りによって直接落命している)、そんな両家の憎しみ合った関係など関係も無いとばかりに再び手を取り合った少年たち。まさに胸熱!もちろん裏事情を言えば、既に多くの北条一族が死に、最早生き残っているのは彼らのような少年たちしかいないという世知辛い事情でもあるのですが…しかも高邦は父を死に追いやった尊氏に対する戦意は強く、槍の使い手という強力なキャラが立っています。

吹雪「我が君と被る幼い貴公子」

弧次郎「凛々しい美男子で武芸抜群」

風間玄蕃「坊より主役じゃね?」

時行くん「Σ(゚д゚lll)ガーン」

完全にキャラが被ってしまい、しかも相手は自分には武芸には抜群の素養がある。いや…でも時行くん、君は嫉妬する必要はないんやで。君には他の何人にも負けない絶対的な能力があるからさ。それは何よりの「武器」だからね。

解説「名越高邦、親の若さからすると推定するとせいぜい十代前半。普通の武将として扱われているが、推定してみるとあまりに幼い。そんな「隠れ少年武将」がこの時代にはゴロゴロ登場する」

もしかして松井センセイ、南北朝時代を舞台にした歴史漫画を描こうと思った理由では?(笑)

この時代では幼子とあっても戦う存在。そして実際、本編最新話ではまさにそんな「少年武将」たちの群像劇を織りなしています。彼らはいずれも混迷の戦乱の時代に翻弄されるかのようにそれぞれ苦闘と過酷な運命が待っていました。そう、今回登場する高邦もまた…

 

〇頼重さんの動機

加わる味方があれば、去る味方もあり。これまで信濃挙兵以来、鎌倉奪還まで大きな戦力として貢献してきた海野幸康と望月重信が信濃に帰還すると時行くんに辞去の挨拶をします。負傷兵を引き連れ信濃へ帰還するよう頼重さんより命が下ったのでした。原因は信濃における強敵・小笠原貞宗の反撃にありました。中先代の乱では頼重さん率いる諏訪軍との対決で一時は後れを取った小笠原貞宗ら信濃における足利方でしたが、頼重さんや時行くんが認めた通り、貞宗は侮れない難敵。体制を立て直すと諏訪方の留守を狙うかのように三大将や保科党の領地に対する侵略を開始。これもまた諏訪方にとっては着実に打撃となっています。ここで登場するのは村上信貞。

言わずもがな後に信濃戦国史で大きな役割を果たすことになる北信の武将・村上義清の先祖です。

村上氏は歴史上ではこの時、中先代の乱時に建武政権から派遣された信貞が歴史の表舞台に出たキッカケでした。そして漫画上でも描かれる通り、小笠原貞宗の下で戦い、その後も小笠原と村上は中信と北信で大きな勢力を張り…

なお、両家の末裔は共に隣国の侵略者によって故地を失うことになるのでした。

当面の敵である直義率いる関東庇番衆を撃破した時行くんでしたが、敵である足利は強大であり、なお戦力が豊富。一方の北条・諏訪軍の方は三大将の2人もまた連戦で疲弊しており、信濃へ帰還せざるを得ないなど着実に消耗してきています。これまで自分の為に戦ってくれた2人の武将に丁寧な感謝の言葉を述べる時行くん。

共に戦ってくれた信濃の豪傑たちとの涙と笑顔の抱擁

彼らにとっても時行くんは戦うための大きな原動力となった存在です。2年間の交流と共闘はいつしか彼らに戦友としての感覚で接するようになっていました。人は必ずしも利益だけで戦うわけでない。希望と象徴となる存在があれば、戦えるという証をこの侍王子は示してくれたのでした。

 さて、確実に予想されるであろう足利尊氏による反撃を想定して、迎撃プランを時行くんに披露する頼重さん。手元には正宗からの請求書がキッチリ届けられているのは笑いがこみ上げてきました。既に時行くんという旗頭の下に鎌倉には十分と言える戦力が結集していました。先の少年武将名越高邦率いる名越党、更に三浦党とそして北条・諏訪軍連合軍と言える戦力まで今や集まった大戦力。これだけの戦力があれば、強大なる足利とも十分戦える…ここで時行くんはいよいよ核心に迫る質問をします。

先の三大将の帰還する事情が示す通り、本拠地である信濃をがら空きになるなど諏訪の「神」である頼重さんにとっては今回の鎌倉奪還のために取ったリスクは巨大なものでした。果たして恩義ある北条家の御曹司だからという理由だけで、時行くんにこれだけの親身になったサポートをする理由。

時行くん「鎌倉を獲ったら明かしてくれる約束です。貴方は何故…私のためにここまでしてくれるのですか?」

頼重さん「それはもちろん明日から一緒で遊ぶためでございまする!」

 

真顔でえ~と思わず時行くんと同じ表情しちゃったよ。ただ、ここからの核心はどうも時行くんとの鎌倉案内で語られるようです。時行くん自らの鎌倉案内を切望する頼重さん。

 

〇魔神は野に放たれた

さてここでしばらく空白だった京の建武政権と南北朝のラスボスに遂に場面が切り替わります。今や時行くんの反乱軍(建武政権視点で)は鎌倉を奪還を果し、鎌倉幕府再興を果さんとする勢い。後醍醐帝は反乱の総大将である時行くんの撃滅を祈る祈祷を盛んにおこなわせていました。もちろん、当時の人間の感覚では必要な政治的儀式ですが…

当時の高僧や神官たちがこんな可愛い照れている美少年の撃滅を真剣に祈祷している姿はどこか滑稽でもあります。

まあ当時の情報では恐らく時行くんに対する京の人々のイメージではまさに恐ろしい反乱の首魁なのでしょう。乱の対応を巡り、人々は混乱。Vやねん!北条!を恐れる人々、なお後醍醐帝を崇拝する人々という方に現実逃避する人々といずれも先行きに対する不安がありました。そんな中動き出した「あの男」

南北朝のラスボス「全国の武士が我が配下となり、北条の嫡子とて容易く倒せます」

自信満々に出馬を願う南北朝のラスボス。混乱する公家たちにはまさにその姿は「この人に任せたら大丈夫!」という安心感を与え、全員目がキュンとなっています(え…)ここでも魔性のカリスマぶりを発揮して、人々を虜にしてしまう尊氏。しかし、一人だけこのカリスマに引っかからない人間がいました。

後醍醐帝「…尊氏よ。一刻を争うこの状況でなぜ執拗に征夷大将軍の座を求める?」

要するに自分以外に人望ある者の存在を許容しえない独裁者なのがこの帝王の本質

このワンマン独裁を指向する帝王にとっては自分以外の者に権力が集まるのは絶対許容しえない。かつて護良親王と尊氏が対立した時に尊氏の肩をもったのも、護良親王が倒幕戦争で大きな貢献を果たした功をもって大きすぎる発言権をもって自分に従おうとしなかったから。血を分けた我が子であるからこそ、自分の権力に取って代わる危険性があったからでした。むしろ当時にあっては尊氏の方にはそんな危険性が無かったからに他なりません。しかし、今や護良は失脚し、現に北条時行くんという反乱軍という存在を前に世論は尊氏の下に期待と人気が高まっており、今や後醍醐帝にとってはこの寵臣に対しても遂に権力者としての猜疑心が発動したのでした。

この身勝手で権力を独占したい「独占欲」こそが後醍醐帝の君主として最大の欠点

人々を惹きつける強大なカリスマを持ち、優れた先見の明ある政治的識見を持ち合わせながら、混乱と混迷を招き、遂には全国政権としての帝王の座を失う原因となったのでした。かくして、これまで蜜月であった後醍醐帝と尊氏の間に初めて生まれた亀裂。

後醍醐帝は自らの皇子を征夷大将軍にして、その配下で戦うように要求します。

 

高師直「帝が露骨に警戒してしまいましたな」

屋敷でエプロンに身を包んで主君の為に魚を捌く完璧執事ぶりを発揮しながら、状況を分析する師直。彼らの本来の目論見であれば、北条の残党が反乱を起こしても鎌倉の直義であれば、しばらく持ち堪えられる筈でした。その間に慎重に、そして「焦らして」自然な流れで征夷大将軍に任じてもらう手筈であったのに、時行くん率いる北条・諏訪軍の進撃は余りにも怒涛の展開で、あっさり鎌倉を奪還されてしまい、今やこの状況に手をこまねいていると、北条の下に全国の武士が靡いてしまう恐れまで出てくる。皮肉なことに先の焦ってしまった足利の方が帝から猜疑心を買ってしまうという結果に。師直が出した魚料理を口にする南北朝のラスボスでしたが、食した魚の中に小骨が残って歯に刺さってしまいます。それは冷静なようでいて、「完璧執事」である師直ですら焦っている兆候と見て取ります。

南北朝のラスボス「…この尊氏は自分の歩幅で自由気ままに歩むのが好きだ」

要するに誰かの下で従属することができないのがこの英雄の本質

誰かの指図に従うということができず、自由気ままに独立独歩で行くのが大好きな英雄と、自分以外の者に服従を強要する独裁帝王本質的に相いれないこの二者が互いに惹かれあい、そして喧嘩別れしたことが南北朝時代の日本に大混乱を招いたのでした。いずれにせよ、彼にとってその小骨はまさに北条の子である時行くんの暗喩。それまで順風満帆に見えた彼の人生は「北条の子」の時行くんが目の前に認識して以来、自分の調子を狂わされっぱなしでした。自らの絶対を誇る勘が外れたり、そして今まさに拙速に動く必要を強いられ…その焦りは今や苛立ちとなって…

???「・・・・・・・いらつくなぁ…」バキッ

身に潜む「人間ならざる存在」の本音が漏れ出します。それまで余裕ある態度を崩さなかったこの英雄が初めて見せた負の感情発露。そしてそれは自らの障害になる者を嚙み砕く暗喩でもあります。このまま出陣するか、それとも待つか、選択を強いられた南北朝のラスボスが下した決断は…

魔法の言葉「後の事はどうとでもなる!」

なんとザ・足利尊氏要素満載な台詞。全ては見切り発車、スーパーポジティブな楽観論で見通し、「深謀遠慮?ナニソレ?オイシイノ?」とばかりに目先の事さえ取り掛かれるなら、後はどうなろうと知ったことか!と動いてしまう足利尊氏らしさ満載です(笑)実際、尊氏の行動って、まさに「後の事はどうとでもなる!」とばかりに行動して、実際どうとでもなったこと多いからね。

他の人間だったらかくも行き当たりばったりでどうにかなるものではないのをどうにかしてしまうのが南北朝のラスボスクオリティ。それにしても折角執事が用意してくれた料理をあっさり放り投げてしまうこの態度。後々の師直にかかる最期とも被ってしまうのは気のせいでしょうか…かくしてあっさり帝に無断で出陣した南北朝のラスボス。

 

解説「1335年8月2日、足利尊氏は帝の意向を無視して出陣。

尊氏の飛躍の一歩であり、彼の人生を大きく狂わせる一歩目でもあった」

解説にもある通り、この出陣が足利尊氏の、そして日本史を大きく流れを変える一歩目となった瞬間。まさにその時歴史が動いた

 

それまで建武政権の下で敬愛する後醍醐帝との蜜月の「終りの始まり」、そして桎梏から解放された魔神はこの後、まさに「自分の歩幅で自由気ままに歩く」ことになります。

ああ…遂にこの時がやってきてしまったのね。時行くんを応援する者にとっては辛い展開ですが、決して目を逸らさず見ていきます!