かつて「足利尊氏」といえば↑の騎馬武者像で、いかにも勇敢な武将のイメージ

もっとも歴史上の人物の像というのは非常に難しいもので、今まで「○○と言えばこの肖像!」と言っていたのが崩れつつあります。そんな中、まさにタイムリーなネタとして登場したのが↓コチラ

 


おお、これが南北朝のラスボスの真なる姿か…!

むしろ目が°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°させて、どことなく「人柄の良さそうな」人に見える(「良い人だとは言っていない」)のがどことなく、人からの受けが良さそうな「出会う人を魅了させる」

『逃げ若』のラスボスを彷彿とさせる肖像画

やっぱり松井センセイはどこか「持っている」人であるよな…そりゃこんな穏やかな人物だったらどんな人間も警戒心を抱くのは至難の業、最強の兵器「カリスマ」は伊達ではない。カリスマというものは実際にその人に出会わないとまず分からない。後世の人間からすれば「何故こんな人を?」と思うのですが、そこで他人に理性や猜疑心を感じさせないのがカリスマの権化。

もちろん、この肖像画も「尊氏である!」と確定したわけではないのですが、そんな色々と符合する要素が多いのである意味納得しちゃいます。そんなこんなで前置きが長くなりましたが、逃げ上手の若君本編参ります。

 

〇危険!R18ものの戦場絵巻

前回も述べましたが、当時の軍隊は多数の非戦闘員を抱え込んでいます。彼ら自身には自らの身を守る術はありませんので、当然ながら戦闘部隊は戦闘時には安全な場所に秘匿する必要がありました。もし、万が一敵軍に発見されてしまえば地獄絵図確定。

血生臭い戦場で、ましてや相手は武器を持たない人間だとどれだけ残虐になれるか

それもまた戦場の実相です。今回もまさしく雫ちゃんら諏訪軍後方で活動していた非戦闘員たちの陣に襲い掛かった岩松勢。ま、まあまだ少年漫画なのでこれでもまだ「抑えている」方。次々に女性らが襲われ、阿鼻叫喚の中で冷静に岩松経家と対峙する雫ちゃん。

雫ちゃん「武装もしていない後方の陣をわざわざ襲って女を攫う。天下の足利の郎党がこんな下劣な真似をするのですか」

かつて鎌倉潜入ミッションで、廂番衆の名前も憶えていた雫ちゃん。マジ、『逃げ若』世界のフレデリカさん説を思いつくくらいの優秀な記憶術。それこそ、一度だけのしかも遠巻きに見ていただけなのに、名前も覚えて、冷静に糾弾するさま。もっとも女好きの岩松にしてみれば、そんな少女からの糾弾など屁でもありません。

岩松経家「どの女も最初は俺を下劣と嫌う。だがなひと月もすればすぐに俺に惚れこむんだ。二年前に大勢殺した北条郎党の妻や娘も…今じゃ老若問わず俺の妾さ」

それまで単なる「チャラい色男」で、戦場でも酒と女の欠かせない武将というイメージしかなかったこの男が見せるゾッとするほどの本性を露にした顔。いや、これ「惚れ込んだ」のではなく、調教しているのでは?まあ考えようによっては老弱問わずと言っているからには子供であろうが、あるいは妙齢の女性だろうが、平等に接しているから或る意味公平…んなわけないない。そして今まさに目の前にいる絶世の美少女にもその強欲ぶりを発露し、毒牙を向ける。

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グヘへへ案件。雫ちゃんピーンチ!!

とそこへ「白馬の騎士」登場。「なんとなく」というフィーリングで怪しい敵軍の動きを追尾していた望月重信の軍勢でした。結果的にそれによって、岩松らの乱暴狼藉への強烈なカウンターとなります。その中には娘の亜也子と共に、望月の兵法を習おうとした吹雪の姿もありました。

吹雪「そのせいで味方の布陣メッチャ乱れてましたけどね。こんな結果論兵法参考にできない」

と的確なツッコミ。ただ結果論だろうとなんだろうとその結果によって雫ちゃんらにとっては助けとなったのは紛れもない事実。当然ながら軍勢が一番弱くなるのは「略奪に狂奔して、軍律を失ってしまった時」。軍律を失えば、いかに屈強な兵士の集まりであろうとただの盗賊と変わりません。既に略奪と戦場レイ〇に狂奔していた岩松らは怒りに燃える望月勢の敵ではありませんんでした。

望月重信「攫った女で良い運動をさせてやれずすまんなぁ。お前の最期の運動相手は清潔感のあるおじさまだよ」

なかなか絶妙な表現力で岩松を挑発する望月。今回はなかなか少年漫画としてはかなりのレッドゾーンにまで攻め込んだ表現の中でいかに「匂わす」レベルにするか、そのギリギリさを楽しんでいる感がある。もっとも岩松にしても万が一の備えはしていたようで…二番手として現れたのが同じく廂番衆の武将・石塔範家の来援でした。かくして、望月党・逃げ若党VS岩松・石塔の激戦の幕開けとなります。娘の亜也子に郎党らを預け、自らは岩松との対戦に臨む望月。雫ちゃんらの守りは吹雪に託して、いよいよ岩松との一騎打ちにかかります。遂に新旧世代の武士たちの戦いが始まります。岩松が抱える巨大な得物…その正体は?

 

〇オタ〇VS武装メイド

恐るべき武勇で望月の兵士たちを斬っていく石塔に亜也子が戦いを挑みます。それに対して、まずは名乗りをあげてからだと

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ここで※注釈に「便女=ここでは戦うメイド的役割」と解説しているのがありがたい。要するに

武装メイドということですね。これには石塔も興味津々。

「領主の娘」「巫女「「便女」「10歳にしてはかなりの大柄な体格」

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あからさまに異世界の住人をみるかのようにカルチャーショックを受ける亜也子。それにしても…

歴戦の武将なのにDTの学生のごとき妄想で自己強化を図る海野幸康

女と見れば、手あたり次第に我がものにする恐るべき野獣の岩松経家

自らの一次創作した二次元女性キャラに全てを捧げるオタク魂炸裂の石塔範家

とまあまだ10歳の少年少女たち逃若党の情操教育に実に悪い布陣が敵味方揃っています(笑)つうか濃すぎだろ。

 

〇正義と独善

これら廂番衆の動き全てをコントロールしていたのがこちらもまだ少年である斯波孫二郎。岩松に諏訪方の後方の陣を襲わせ、それを触れ回ることで、前線の将兵を動揺させる。まるで子供が虫を弄ぶかのように敵味方を心理的に操る動きをする孫二郎に頼重さんもその才知に驚嘆を感じずにはいられません。それぞれの廂番衆の特性を把握したうえで、それを戦場で最大限発揮させること、それらを計算ずくでやる恐るべき麒麟児ぶりです。もっとも渋川は結果的に騙すことになってしまっているのですが、流石に拳骨は喰らうだろうという予測。え~そんなものなのか。

斯波孫二郎「だって…足利側が正義だもん」

そう子供らしい無邪気さと傲慢さと独善が絶妙な塩梅で混ぜ合わさった孫二郎のセリフ。彼にとっては命を懸けた殺し合いの戦場もまた自らの才を発揮するための「遊び場」に過ぎないということを表現するかのような台詞です。もっともまだ孫二郎は本当の意味で「戦い」を知らないままだったのはこの後で露呈するのですが…

 

一方、こちらもまた戦場を見つめる少年たち。冷静に戦況を見守って単騎でいる渋川を見据える時行くんと弧次郎。まだ信濃で対戦した相手もまたなかなかの強敵でしたが、それはまだローカルな争いの場。10歳の少年少女たちでも対抗できるくらいの戦いの規模でしたが、今回は実質的天下人の中核を担う足利の幹部たち。いずれもまた強敵揃いであり、その強さは今までの比ではない。そんな足利と戦うこことになるのですが、それでも時行くんは決して臆することはありません。

たとえどれほどの強敵であろうと最後まで逃げながらも、決して運命からは逃げなかった北条時行くん

本作はそんな時行くんの戦いの物語にオリキャラとして登場した子供達を付けることで少年漫画らしく、そして物語により深みを増します。それにしても本当、
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弧次郎の表情が良いんだよな。これはもうやっぱりアルスラーンとダリューンそのものだわ。そして改めて敵中を突破するなかで、渋川に戦いを挑もうとする時行くんと弧次郎。彼らが参考にしたのは大楠公が預けた極意書。

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ここで大楠公がいう正義とは孫二郎の「正義」とは異なるもの。自らの戦う「芯」となる部分。自らを信じ、足利方の伝令兵に化けることで、足利の兵士にも疑われることなく高台で単騎でいる大将・渋川義季に改めて再戦を挑みます。

弧次郎「北条の総大将と足利のいち子分。とても釣り合う格じゃねーが、立ち合ってくださるとよ。テメーの大っ嫌いな二対一でな」

本来「怒らせてはならない」渋川をあえて刺激するかのように「二対一」での対決を挑む時行くんと弧次郎。厚い信頼で結ばれたこの2人が遂に足利の有力武将と遂に対戦を開始します。