鎌倉殿の13人は終了しました。

 

北条家の実質的創始者となった北条小四郎義時の物語は終わりましたが、彼が築いた北条家。そしてそれを引き継ぐ少年の物語はまだ終わりません。まだまだこれからです。

 

さて、いつ以来となったでしょうか…随分久方ぶりの逃げ若感想になってしまって申し訳ございません。何しろ、仕事とブログの感想記事作成とのバランスが難しすぎて、『鎌倉殿の13人』に絞らないとやっていけなかったね。でも今年は色々「何か持っている」と思ったのはまさに『鎌倉殿の13人』『逃げ上手の若君』と見事なタイアップの1年となったことでしょう。創始者とその末裔の物語はどこかでリンクしている。そんなつながりを感じずにはいられないそんな奇跡の1年。もちろん北条時行くんの物語はここからが本番であり、彼には更に過酷な展開が待っていますが、それでも小四郎も時行くんも大好き。そんな今、鎌倉が熱い1年でした。

 さて今回は『逃げ若』でも重大な分岐点となる話。いよいよ我らが主人公の時行くんが歴史の表舞台に立つ話。ここまでの諏訪の話は一切のフィクションなのですが、ここからはいよいよ史実との兼ね合いが難しくなってきます。果たして、松井センセイは今後どう料理して来るか楽しみ。そして最高だったのはその分岐点。それがまさに「名乗り」

 

ここはもう鎌倉殿の13人と一緒に見てきた者には胸熱展開。もちろんそれだけではありません。ここで時行くんが先祖の功業を述べるのは重大なこと。当時の武士にとって自らの先祖の伝来とはまさに幼少時から教えられておりました。それはまさに「自分が何者であるか」を知る上で重要なことだったのでした。自分のルーツを探るということは、「なぜ自分がここにあるのか」を確かめること。だからこそ、自らの先祖代々を述べていくというのは周囲に自らの存在を知らしめる上でも重要なことだったのです。某宇宙大将軍が

「先祖?7代前まで祀る?そんなん知るかよ。俺が知っているのはおっ父の名前ぐらいだな」

なんて言っているのはまさに周囲からバカにされても文句は言えないのである。現地の価値観を理解するって大切だよね。それでは本編感想参ります。

 

〇勝利の祝宴…そして

 

前回、時行くんのお膳立てによって、保科弥三郎と四宮左衛門太郎コンビは遂に因縁浅からぬ信濃国司・清原信濃守の首を上げることに成功しました。当時の合戦において総大将が戦死するというのはそれだけで全軍の崩壊を意味する事象。戦車に同乗していた公家たちも武士たち、そして小笠原貞宗の軍勢も撤退に追い込まれたのでした。それにしてもここでツボだったのは

亜矢子にお姫様抱っこされる時行くんの絵面が凄く違和感なさすぎる(笑)まさにお姫様だよね(爆)

冷静に戦局を分析して、貞宗への追撃中止を命ずる頼重さん。既に十分な打撃を与えており、もう小笠原勢には反撃を行う余力はない。これ以上、追い詰めれば時間も犠牲もかかるだけ。何よりもこれからの「天下を奪回する」という目的に向けて、大事な時間を大事にするという頼重さんの大局眼。「中先代の乱」がこれほど大規模な文字通りの天下を大きく動かす原動力になったのはこの頼重さんの常に大局を見据えた冷静な判断であったと言えましょう。かくして、その日の一夜は諏訪勢は勝利の祝宴一色。

酒の肴にされる時行くん、まあこの後の展開を知ると実に意地悪~いことになります(笑)

 

解説「…だが酔いが醒めた翌朝 彼らを支配したのは不安だった」

勝利の祝宴が終わり、一時の解放に浸ったのはほんのつかの間。帝が任命した国司を殺害したというのは朝廷に弓を引いたも同然。当然ながら、反逆する者に一切容赦せぬ強圧的な建武政権がこれが座視するはずもなく、間違いなく討伐軍が編成される。信濃にとどまっている限り、ただ死を待つだけ…いくら諏訪の明神様への信仰を持っていてもやはり現実的な部分では、将来の不安しか感じられない状態。そんな中移動を続ける諏訪勢を密かに追尾する小笠原貞宗&市河助房コンビ。貞宗は冷静に観察して、諏訪の動きが単なる信濃一国における反乱とは次元が違うと勘づきます。この辺の戦略眼の高さは敵ながらまさにアッパレ。そしていよいよ頼重さんが時行くんに「その時」が来たと耳打ちします。

頼重さん「信濃内の味方は私の名で集まりまするが、信濃の外で味方を募るには貴方様の名が欠かせませぬ」

これまで信濃国内であれば「諏訪明神の威光」の庇護の下で暮らしていけるが、ここからはいよいよ時行くんの「名」が必要になる時。将兵に「自分が『総大将』となる戦の終了」を告げ、更に不安に苛まれる諏訪神党の武士たち。そして、頼重さんは告げます。「大将が変わる」。これまで諏訪明神の「御使い様」と活動してきた「長寿丸」を紹介の場面。もちろん、ここで大事なのはこの2年間における時行くんの活動が如何に信濃の人々にとって大事であったか、そしてその抜群の功績をもって、この少年の「正体」を明かす上で重要な要素です。人々はいかに「自分たちのため」に戦ってきたこの少年を認知していればこそ、この次の場面が活かされる。

解説「史実において諏訪頼重は侍王子の素性を…信濃を出るまで徹底して隠し通した」

「情報戦の完璧な勝利であり、この後の快進撃の原動力となる」

諏訪の明神もそして三大将らまでが恭しく礼を取ることがこの少年の素性を明かす上で重要な絵面となります

 

〇北条家、小四郎が築いた栄光の歴史

最初に「信濃での暮らしを大事に思う人はこのまま残ってください」と時行くんらしく優しき語ります。それを聞き取るためにソナー役の市河助房に台詞を聞き取らせる貞宗。やはり、このコンビは一緒にいると最強だよね。

そして「名乗り」をあげ、ついていきたいと思う者たちに向けて遂に始まります。

 

時行くん「遠からん者は音にも聞け!近く寄って目にも見よ!」

意図せずして、まさしく貞宗&市河コンビに語り掛けるような構図となった時行くんの演説。ここからは是非とも『鎌倉殿の13人』のオープニングを流していきましょう。

 

 

時行くん「我が祖は桓武の帝が後胤、上総介平直方が曾孫にして…

源頼朝公の御舅…北条四郎時政!!」

全ての始まりは時政親父が流人であった頼朝を庇護したことから始まった北条家の物語。そう、頼朝と政子が結ばれたことが始まり。ただ、それと同時に「頼朝の縁戚」であることしか語られない所が時政親父のある意味「報い」でもあるところが悲しいところです。そう「功績」として語られるのは彼の息子からです。

目の前の少年が北条家の者であることを知り、電流が走る一同。しかし薄々感づいていた貞宗は冷静でした。

小笠原貞宗「だが、時政の子孫など腐る程いる」

雑魚北条…雑魚北条(爆)

一門衆を「雑魚」と表現する貞宗のパワーワードぶりwwもちろん「雑魚」が多いというのは悪いというわけではありません。北条、そして徳川の強みはそういう「雑魚」が多いからこそ、安定的な継承と統治ができた。逆にそういう「雑魚」が少なく、その少ない「雑魚」さえ共食いで消してきた源氏及び豊臣家は早くに滅び、血統が絶えてしまったのはある意味必然であったと言えましょう。徳川家の場合は「雑魚徳川」が多いからこそ、万が一宗家が絶えた場合にもスペアが確保でき、継承において大きな流血が見られることができなかった。北条家があれほどの力が発揮できたのもトキューサの系統もそして重時の系統、政村の系統など多くの「雑魚北条」が多かったからこそ。うん?名越流…時輔…知らんなぁ?

芸が細かいのは「雑魚北条」と切って捨ててある北条家庶流ですが、一系統だけわざわざ☜から除外している系統があるのにお気づきでしょうか。

そう北条家においては嫡流の得宗家に次ぐ№2の「赤橋流」

何しろ、赤橋流はラスト執権・赤橋守時

であり、その妹は

貞宗が忠誠を誓う南北朝のラスボスの妻ですから。

主君の縁戚の家を「雑魚」などと表現するわけにはいきませんね。

そういうわけでまだ余裕綽綽の貞宗。長寿丸がどの系統の「雑魚北条」かと興味津々。さて時行くんの系図辿りは続きます。

 

その嫡子たる二代執権義時は…鎌倉の軍兵の心を一つにして後鳥羽院の京方を打ち破れり!

歴史に悪名を残すと語った小四郎…もっともそれとは対照的に1世紀後まではその名は実質的な偉大なる開祖として子孫から語られる存在だったのです。彼が悪評サクサクになるのは「皇国史観」なる世の中に害悪しかもたらさなかった時の権力者が作り上げた虚構の歴史観が「史実」として語られたころに過ぎず、それまではむしろ誇らしく語られたのでした。小四郎が聞けば

感涙する光景でしょう。良かったな、小四郎

 

そのまた嫡子・三代執権泰時は…御成敗式目を制定し、敬愛せぬ民は無し!

北条家といえば、暗黒面ばかりが語られますが、その一方で民政にも力を注いだ善政を布いた政治家一族。できれば、鎌倉殿でもこちらもきちっと語って欲しいでしたね。

 

更に系図は下がっていき

八代執権時宗は異国・元朝の侵攻を退け、功名は天下に轟けり!

巧みに軍事における覇業と政治における善政をアピールする時行くん。まことに見事!

もう人々も明らかに気づいていました。ずっと得宗家の血筋であること…そこから行きつく答えは

その嫡孫・徳崇大権現の名を賜りし鎌倉の主…十四代執権高時

遂に父親の代まで来ました。ここまできたらもうあとは一つ

ここで本作のフィクション設定が活用できる時がきました!「北条家の嫡男は次男である時行くん」史実では嫡男は邦時の兄上であり、あくまでも時行くんがその弟にすぎません。しかし、この場面においてはここで堂々と宣言するために「嫡男」にしないと説得力が生まれないのですから!

そしてこれまでの大河ドラマの歴史で辿るかのような錯覚を覚えるほどの熱い展開でした。これまでの歴史が蓄積があるからこそ今の我々がいる。時行くんもまた北条家の「輝かしい歴史」を引き継いで、背負う覚悟をもって今こうして名乗りを上げる。

驚愕に支配される一同。まさかの目の前の少年がかつての「天下人の遺児」であるとは。そして普段はちゃらけたオッサン顔だった泰家叔父さんが真剣にうれし涙を流しているのもアツイ!更によりにもよって「天下人の遺児」に非礼を飛び越えた無礼の数々を働いた保科弥三郎と三浦八郎は死んだ眼と化してしまいます(笑)最高潮に達した諏訪軍の士気。まさに彼らは自分たちが仰ぐに足る旗頭となる少年が目の前にいることで、未来に希望をもって戦う決意を固めたのでした。一方、面目丸つぶれとなった玄蕃によって虜とされた天狗。はたして「彼」がどんな思いを抱いたかというと…

 

そして貞宗は単騎で時宗君に突撃を開始します。

小笠原貞宗「ここで殺す!貴様が信濃を出る前に!」