主人公が悪役となればなるほど恨みの業が貯まっていき、より敵が増えていく

皮肉にも今回ほど「北条」の業の重さを改めて思い知らされたことはありません。『逃げ若』ファンとしては時行くんへの愛着からあまり「北条があんな最期(一番の縁戚関係にあった武将に裏切られて、滅亡)を遂げたのは因果応報」というのには凄い心理的抵抗があったのですが、まあ今回遂に

「まあやはり北条は血を流し過ぎた。しゃーない」

と思うようになってしまいました。オグリン小四郎が覚悟を決めて「自分一人が悪役になることで鎌倉の安寧をもたらす」ことを目指せば、目指すほど逆に人々から反発が高まっていき、更なる粛清と反発の悪循環に陥っていく。今回は遂に姉からも跡継ぎの息子からも反発が高まり、どんどん孤独が深まっていく。あ、でもヤマコー義村はそんな盟友に最後までついていくから大丈夫だ。むしろ孤独が深まるからこそ常に側にいる自分への依存が高まっていくと更に歪んだ喜びに満ち溢れていそう(偏見です)まあ歴史的普遍性のあるメッセージがあるとすれば

暴力には暴力しか返ってこない

それでは本編感想参ります。

 

〇ドリンク&リリース起請文

前回、様々な行き違いが見事にハマって遂に和田一族による武力行使という形で幕が上がった和田合戦。当事者同士が本来話し合いで解決した話が周囲の諍いが原因で意図せぬ開戦となってしまうというパターンは歴史上あるあるです。そして皮肉にもこの展開を正当化させてしまったのは小四郎がこれまで行ってきた行為の数々。和田一族が言うように

「和議を申し込んでの騙し討ち」

「一旦敵対すればどんな形でも陥れる」

はまさに比企や畠山に北条がやってきたことでありました。かくして小四郎と和田義盛が和解という形で収束したかに見えたのは全てご破算に。トウから和田が動くという報告を受けた小四郎は双六を全てひっくり返します。

 さて問題となるのはヤマコー義村ら三浦一族の動向…の筈があっさり北条に寝返ってもいいぞと言い出す意外に冷静な和田義盛。大体の作品では同じ三浦一族ということで、和田義盛は従兄弟(といっても親子ほど年の離れている)を無条件で信頼していた節があるのですが、流石に本作でのヤマコー義村の胡散臭すぎる行動・言動の全てを見聞してきただけあって、そこら辺は見抜いていました。…が、そこであっさりリリースしてしまうのが昔ながらの坂東武士の価値観が抜けきれない義盛の良さと悪さの合わせ技でもある。

 そして「お許しが出た」ということで平常運転で北条に走ろうという三浦兄弟と八田知家ら。問題は彼らは先に巴御前から「決して裏切らない」という起請文を交わし、それを呑んでいることでした。それに対して八田知家が考えた解決案とは

まさかのゲロ!ヤマコーがゲロ!!いくらなんでもそれは解決になるのか?つうかとっくに体内に入り込んでいるのでは?と思わないでも無いですが、とりあえず「吐き出した」ということで当人たちの主観では「ノーカン」扱いとなったようです。

 ヤマコー義村からの報告で和田勢が三方を攻め立ててくるとの報を受け、迎撃準備を行う小四郎。ここで重要なのは、和田義盛が「将軍御所を直接攻撃する」という挙に出たことです。実は史実の北条義時はどうも「和田義盛が戦闘を仕掛けてくるのは北条の邸宅」と考えていた節があり、将軍御所に直接攻撃するというのは全くの想定外だったことが指摘されています。ここまで、挑発行動の数々を仕掛けておいて不自然な気もしないでもないですが、現に義時も泰時も(これは後で描かれていますが)和田側の行動に対して、余りにも無警戒すぎる行動をしており、「まさか直接将軍御所に兵を向けたりはしないやろ」と思っていたと考えると辻褄が合います。ここら辺は流石に歴戦の武将らしい判断で「相手の意表を突く場所を攻撃するのは戦術的には正解」というパターンでしょうね。結果的には三浦義村が寝返ったことで、この作戦は瓦解してしまいましたが。

 

〇自己強化の達人・大江広元

和田一族の攻撃を始まるということで戦火から避難させるべく政子やのえらの女性や実朝や文官たちの退避作業が進められます。最初は抵抗するのえでしたが、

のえ「離れ離れになるのは嫌でございます!」

→「二階堂の所へ参ります」

あっさり本音を吐露してしまうのえさん。直後にノンケのリア充ぶりを爆発する和田義盛と巴御前との対比ですね。常に互いを心配できるほどの愛に溢れた義盛・巴と本当の意味で愛がない小四郎・のえ夫婦。

八幡宮への退避に抵抗する政子と実衣姉妹。それでも何とか密かに八幡宮への退避作業が進められます。一方、泰時はすっかりグデングデンに酔っぱらって、妻の初と股肱の友である鶴丸…改め平盛綱らに説得されますが、すっかり父親への反抗期となった泰時は聞く耳持たず。意外な表情を見せたのは前回のスキャンダルで父親から勘当された弟の朝時。父親が目を向けているのは常に前妻の子である兄の泰時のみ。自分には端緒から期待されていない。そんな弟の歪んだ感情が爆発する瞬間です。それでも動かぬ泰時に初が遂に冷や水を浴びせてようやく叩き起こします。

 

実衣「今度こそ死ぬ!」

やたらとハイテンションになる実衣。突然の事態にパニックになると人はアドレナリンが出まくって、やたらとハイテンションになるのは実にリアルな表現であると言えましょう。またここまでの頼朝死後の鎌倉の歴史を見れば、実衣が「もう私たち終わりかも…」と思ってしまうのも宜なるかな。

比企の乱はまだ北条と比企の私闘でしかありませんでした

畠山重忠の乱も小規模な武力衝突でしかも鎌倉の郊外で起こったことでした

しかし和田の乱は鎌倉で初めての本格的な市街戦となり、遂には「神聖不可侵」だった筈の御所が直接戦闘の舞台となる事態になりました。

幾たびも苛烈な内ゲバと粛清が繰り返され、しかもその結果として安寧が得られるどころか戦火が規模も拡大していく。そして遂には互いの存亡をかけた総力戦(承久の乱)があと数年で始まることを思えば、当時の人々からすれば

「鎌倉も長くないな」

と思ってしまってもおかしくはありません。中華の歴史を紐解けば、最初は散発的な反乱が勃発する程度だったのが、規模も被害も拡大していき、遂には王朝の天下そのものが瓦解するほどの大乱へとつながっていくのはまさに国家が衰退過程そのものなのです。北条義時が凄いのは本来ならこのまま瓦解に向かってもおかしくはなかった鎌倉幕府を逆転して、存続させたこと。もっとも、それは更なる流血を要求する者でありましたが…

 

遂に始まった和田合戦。思えば、「副長」以来初めてのヤマコーが遂に一群の将として自ら武器を取って無双の戦士となる。悪左府の頃には「ヒィ~」と現実の殺し合いを目にしてビビりまくっていたのとは同一人物とは思えないほどです(笑)ここら辺の戦闘シーンも非常に規模こそまあテレビドラマの範疇ですが、泥臭くリアリティあるものとなっていました。炎に包まれた兵士が水たまりで必死に消そうとする。屋根から弓兵が狙い、逆にそいつも狙われる…かくして壮絶な戦闘が始まります。

鶴岡八幡宮で市街戦の模様を絶望的な面もちで眺める実朝や政子ら幕府の要人たち。政子は「貴方の思い通りになりましたね」と弟に憎々しげに言います。だんだんこの姉弟にも「溝」が出てき始めていました。頼朝亡き後、「一緒に」と言い合っていた姉と弟。しかし、今や姉は弟の言葉を信じることはできずにいる。冷静に「鎌倉殿」を掌中に収めた時点で勝敗はついたと冷静な言葉で述べる小四郎。さてここでホンノリするシーンが。「鎌倉殿」の象徴である「髑髏」を御所に忘れてきたということで何とか回収しようと図る実朝。

 

劇場版「名探偵コナン 水平線上の陰謀線」の毛利蘭ような「いや、今はそんな場合じゃないだろ!」というシチュエーションですが、ここで何故か文官の大江広元が自ら取りに行くと言い出します。いや、いくらなんでも無茶が過ぎるだろ…と思いきや

大江さん、貴方本当に文官なの!?

和田勢の武士たちをバッサバッサと斬り捨てる暴れん坊将軍感溢れる剣捌き。メタ的に言うと、大江広元もこの魑魅魍魎感溢れる伏魔殿のような鎌倉で生き延びるために密かに自らも戦闘技術を磨いて自衛の術を身に付けていたのではないか。奇しくも今週の『逃げ若』でも同じ「京から鎌倉へ下った公家出身」の上杉憲顕が


「武士の研究」をして、自らも武士たらんとしていたシーンがあったしさ。武士ではないからこそより武士に近づかんと考えると合点がいく。松井センセイまたしても奇跡のコラポを意図せずして達成!まあ個人的には直前に尼御台に手を握られたことで



DTの海野幸康のごとく自己強化された

と思うことにします。主家の女性のためなら火の中でも飛び込む一途な大江広元。いや、これ今回最大にして唯一の笑いどころでした。

 

〇「義盛、お前に罪はない」が最大の罪

戦闘は思いのほか泥沼化し、どんどん双方共に焦燥の思いが強くなります。焦った小四郎と大江広元は実朝から「御教書」を発するように強く言上します。これまでは「北条と和田の私戦」であったのを将軍実朝の権威を持ち出すことで、「謀反の罪人」として完全に追い詰めるのが目的。

 一方、戦闘の中で酔った影響もあったのか意外にも武将としての才覚を覚醒しつつある泰時。民家を取り壊しての盾での装甲車とかレッドクリフ風味満載の戦闘シーン。戦闘においても大義名分においても和田に勝てる要素が無くなり、敗勢が確定しつつあります。そして最後に「鎌倉殿」である実朝が陣頭に立っての和田義盛らへの投降を命じるように依頼する小四郎。これ、小四郎としても和田義盛に対する本心としては「好き」な感情が何とか「助命」だけでもさせてあげたい温情なのですね。しかしこれが最悪の結果となります。

 実朝が陣頭に立っての幸福勧告。

和田義盛「俺は羽林が憎くてこんなことをやっているわけではないんだ!!」

源実朝「分かっている。

義盛、お前に罪はない!」

 

タイトルに出てきたこの実朝の言葉が最悪の事態を引き起こしてしまうことになります。実朝と誰よりも心を通わす絆の強さ、それが悲劇への展開につながるとか三谷さん、非道にもほどがある。

三浦義村「放て」

以心伝心の如く、小四郎の意図をくみ取ったヤマコー義村の無情なる命令でハリネズミにされた和田義盛。ついさっきまで鎌倉殿との絆で鉾を収めようとした和田義盛は憎悪の感情満載で小四郎に向けます。絶望的なBGMと共に結果的に実朝と義盛を騙し討ちにしてしまった小四郎。

小四郎「お分かりか!これが鎌倉殿に取り入ろうとする者の末路にござる」

和田の武家としての勢威を脅威と憶え、その力を削ごうとはしても個人的には無骨な義盛を助けようと助け舟を出そうとした小四郎。そのためには実朝を担ぎ上げようとしたのは確かに正しい選択だったでしょう。しかし、まずいことに実朝と義盛の絆は強すぎた。それがあの「一言」によって最悪の結果となってしまった。本来、既に鎌倉殿の「御教書」が発せられたことで既に公然たる謀反人となっていたのです。ここで実朝が出すべきだったのは有罪であることが前提の「恩赦」という形であり、それこそが小四郎の狙いでした。しかし、2人の絆の強さが「鎌倉殿が義盛の無罪」という「禁句」を言ってしまった。公衆の面前でそれを言ってしまった以上、「義盛は無罪、つまりこれは北条が和田を陥れるためのフレームアップ」であったことを認めることになり、そうなれば更に事態は混迷になることは明らか。もうここは「無かったこと」にしてしまうことでしか事態収束の道が無かったという小四郎のやむを得ない決断。それは実朝からも泰時からもドン引きの視線を感じながら、人知れず泣いてしまう小四郎の表情が物語っているでしょう。かくして、「騙し討ち」という形で和田一族は掃討。そして一人残された巴御前は「我こそは忠臣・和田義盛の妻巴御前なるぞ!」と啖呵を切る場面で和田合戦は終了しました。

 

〇泥沼へと嵌っていく小四郎

かくして余りにも残酷な展開の末に和田合戦は終了。これによって小四郎の思い描いた安寧がようやく訪れる…しかし、その小四郎の狙いを打ち砕いたのは他ならぬ実朝の決意でした。

源実朝「これからは政のことはよくよく相談していくつもりだ。万事『西の御方』にお考えを伺っていく」

皮肉なことにそれは本来、小四郎にとっては「京の朝廷からの独立」を理念に真っ向から背くものでした。これまで、父や兄とは違い、あまり自己主張のしなかった実朝が遂に自らの意思をもって真っ向から対立した瞬間でした。

主人公が悪行に染まれば染まるほどどんどん孤独となっていく

これオグリンのメンタル大丈夫か?と心配するレベルです。政子からも泰時からも厳しい視線と言葉を掛けられ、もういまや心が通じれる人間はトキューサかメフィラスかのえしかいない。もうこれだけで絶望的な表情になります。皮肉なことに小四郎の行為がまた一つ障害を自ら作り出してしまい、次なる悲劇へとつながっていく。これ鶴岡八幡宮事件、小四郎も一枚嚙んでいるという展開にもつながるんじゃない?