台風のバカ!バカ!バカ!折角の名場面がL次画面で台無しじゃん!!

折からの台風襲来によって覚悟していたとはいえ、涙を呑んでL字画面視聴となった今回。BSでは普通に放送していたそうなので、本当こういう時って困るのよね。とりあえず、土曜日の再放送は予約しておきました。それにしても、これほどまでに人間の尊さと醜さが如実に現れたドロドロな抗争劇も久しぶりに見た気がする。権力者としての特権に溺れて、無残に変質してしまったある夫婦…もちろん時政親父とりくさん夫婦のことなんですが、それを糺すことを目的として自らが修羅となる覚悟を決めた主人公の小四郎は更にそれを上回るダークサイドへと変貌。その一方で全く変わらないままでいたのが和田義盛。基本的にばか…ずを様々に踏まえていて、それでいて全く変わらぬ単細胞一筋な物言いが今回の癒しでしたが、もちろんそんな様々な感慨の中で一番だったのが

中川大志君演じる畠山重忠の文句なきカッコよさ

「武士の鑑」というタイトル通りの「理想の武士像」を演じきりました。そしてそんな盟友を自らの手で葬り去ることで遂に引き返せないところまできたオグリン小四郎…それでは本編感想参ります。

 

〇登場人物と視聴者の完璧な一致

鎌倉殿を騙して、畠山討伐の下知文を作り上げて、畠山一族を滅ぼさんとする時政親父。ここぞとばかりに三浦一門の仇である過去を持ち出して、憎悪を煽り立てます。もちろんヤマコー義村がそんな見え透いた扇動で賛同しているはずはなく、コイツはコイツで色々な計算で動いているのは間違いなし。意外だったのはあれほど重忠が帰参する時には感情丸出しであった和田義盛が今回はむしろ気乗りしないと消極的なところでした。

和田義盛「これだけ長くいると…情が移るというか…次郎ってやつは見栄えもいいし、頭も切れる。何というか俺には…自分と同じ匂いを感じるんです」

一同に会している時政親父やヤマコー義村ら登場人物たちはもちろん視聴者が共通した感慨を抱くであろう余りにも過大すぎる自己評価。前段と後段が全然かみ合っていない。「先へ進みましょう」とポーカーフェイスであっさりスルーしてしまったヤマコー義村のコミュ力よ。更に鎌倉にいる息子の重保を人質にするために同じく娘婿であった稲毛重成を利用します。ああ、第25話を思い出すと何とも言いようのない思いに囚われます。病弱だった稲毛重成の妻である時政の娘を供養する橋の落成式、その時同じ時政の娘婿である畠山重忠も協力し合い、抱き合っていました。同じ縁戚関係で結ばれた仲は皮肉なことに同じ岳父によって運命を狂わせられようとしている。そう、この時重保をおびき寄せるために利用されたことが稲毛重成にとっての運の尽きとなってしまうのです。一応時政親父としては重保を人質にすることで重忠も観念するだろうという計算だったのですが…

今回から登場したヤマコー義村の弟・胤義が登場。彼が一応小四郎にも連絡するべきと兄に進言するのですが、「板挟みになるだけだ」と一蹴されてしまいます。推測なんですが、胤義はこの時の兄の小四郎に対する塩対応を見て、勘違いしてしまったんじゃないかと。基本的にヤマコー義村は表面上の態度とは裏腹に小四郎に実はゾッコンなんですよ。むしろ小四郎がダークサイドに落ちれば落ちるほど喜ぶほどにね。好きな人間を悪の道に染め上げることで喜びを見出す違う意味での変態(笑)まあ常人からすれば、理解できないのでね。ああ、気の毒に胤義。

 重忠と話し合い、何とか衝突の危機回避で武蔵まで出向いていた小四郎にトキューサから重忠追討の報せを聞かされます。おり悪しく、そんなどう見ても尋常でない雰囲気の中で、息子の泰時が

北条泰時「やはりここは息子として伝えた方がいいと思いまして…

のえさんの事ですが…」

なんでこのタイミング?場の空気が読めないの?

案の定、小四郎から「今はそれどころではない!」と一蹴され、トキューサからも出直してこいと言われてしまいます。どうも前回の和田義盛との御忍び旅行で「KY気質」に感化されてしまったのではないかと疑惑がチラホラ。そして継母ののえと廊下にすれ違い様に彼女に妊娠の気配を感じます。いよいよ「伊賀氏の変」待ったなしですな(笑)

 

一方でそんな緩い鎌倉とは打って変わって、武蔵の国では重忠が妻のちえと別れの挨拶をしていました。一番つらい立場なのは間違いなく彼女。夫はいま実の父と戦をしようとしている。仲の良い夫婦だけに本当に辛い。余りに短すぎるそして台詞そのものが少ないのが辛い。彼女のその後にはまたドラマがあるのですが、果たして『鎌倉殿』で描かれるかどうか…

 

〇綸言汗のごとし

三代将軍実朝にもようやく自ら署名した文書がとんでもない事態を引き起こしてしまったことを知らせる小四郎。

実朝「下文を取り消すことはできないのか?」

小四郎「一度だした御下文を容易く取り下げれば、鎌倉殿の御威信に傷がつきます」

 

後白河院「前言翻してもいいじゃん」

後鳥羽院「あれは実は朕が出したものじゃない、テヘペロ」

後醍醐帝「(新田義貞をなだめるために)恒良に譲位すると言ったな、あれは嘘だ」

孝明帝「攘夷断行の勅書は全部攘夷派が出した贋物。八月十八日の政変以前に出された勅は全て無効!!」

どう見ても鎌倉殿よりも尊い御身分の御方たちが前言翻し過ぎな件について

まあある意味ではこの人たちのようによく言えば柔軟、悪く言えばどう転んでも自分の保身を優先する姿勢こそが、長きにわたり、尊い御家を存続させてきたというのも本質なんですが、やはりその無責任な姿勢には「ノブレスオブリージュってなんだ?」という素朴な疑問が湧いてきます。それに比べれば、自らの責任を痛感している実朝の方が少なくとも為政者としての能力や識見は別にして、真っ当で好感が持ててきます。ここら辺はやはり父や兄との決定的違いですね。小四郎は何とか畠山重忠に弁明の機会を設けるために上洛させて、彼を死なせないように奔走しますが…

人質とするはずだった息子の重保は最後まで抵抗して遂に殺害に及んだために遂に破綻。この辺はシチュエーションは正反対ですが、ウルヴァシー事件でルッツが死んだために引き返せなくなったロイエンタール感満載。息子の死を知ったことで遂に重忠は戦闘態勢に移行。二俣川に陣を布きます。ここで今まで「戦争」を肌で知らないりくさんとこれまでの熾烈な戦争を体験してきた男たちとの空気差。相手は武勇をもって知られた歴戦の武将、それが戦争を覚悟したという意味が理解できないりくさんは安易に「さっさと滅ぼせ」と言い出し、周囲からの反感を買う一方です。普段は妻にひたすらゾッコンの時政親父でさえ、妻を𠮟りつけるレベル。

北条家の面々の中で一番「人が変わってしまった」といえば、小四郎と並んでりくさんがピッタリでしょう。

かつてのりくさんは腹黒くも彼女は彼女なりに北条家の事を考えて、夫や前妻の子供達にも意見する女性でした。しかし、今の彼女は愛息を失い、理性を失って権力に執着しようとする悪女に堕してしまった。それこそが周りからの反感を買って、自分をどんどん苦しい状況に追い込んでいるのにそれに気づかないでいる。普段はおとなしいトキューサに直言されるレベルなのにそれが意味することが分かっていない。

 そして小四郎の方はというと畠山討伐の大将を志願します。勿論表向きの目的は重忠との戦闘回避するための交渉を自らがあたること。でもそれと同時にある目的がありました。それは最後に明らかになります。そして、妻の懇願を聞いて時政親父は御所にとどまります。時政親父も「変わらない人」であったのですが、やはり彼もまた変質してしまっていました。そんな父の変質を見抜いていた小四郎は姉の政子にある計画を打ち明けます。今の鎌倉の元凶は政権のトップにいる執権が定見なきまま政治に混乱を引き起こしている。糺すには「排除」する必要があると…。

小四郎「これまでと同じことをするだけです」

 

〇交馬語

最後の話し合いとして和田義盛が使者として、重忠の陣へ単騎赴きます。敵陣の中でも水を酌み交わし、語らいあう義盛と重忠。ここら辺は、やはりまだ昔の時代ということでどこか合戦も牧歌的な光景が広がっていていいですね。中国でも『三国志』の時代には血みどろの殺し合いをする殺戮の戦争のさなかでもどこか牧歌的な部分がありました。魏の創始者・曹操と涼州軍閥の韓遂の「交馬語」がそれで、二人は元々かつては後漢帝国の役人で同期だった関係もあり、敵対していた大将同士が単騎で会見し、親しく昔話に花を咲かせて盛り上がっていました。ここら辺は流石に歴戦の武将同士だからこその余裕でしょう。しかし、韓遂と同盟していた馬趙はというと、これで韓遂の内通を疑い出します。史書ではこれを曹操による離間策として説明されることが多いですが、私は残念な子による単なる勘違いでは無いかと思っています。なお、最終的には韓遂と馬趙は仲たがいし、結果曹操に大敗。そして曹操は人質にしていた韓遂の一族を皆殺しにしてしまいました。たとえ敵対していても仲良く話せる一方で、容赦なくその相手の一族を皆殺しにしてしまう曹操…「交馬語」って一体…?

まあ、それはおいといて二人の会話も長年一緒に戦ってきた相棒だからこそ通じ合う空気を非常によく醸し出してくれました。なんというか、本当に仲の良さそうで何より。北条が天下を獲って専横を欲しいままにし、そして今畠山をも容赦なく滅ぼそうとしている。そこには重忠の悲痛な思いがありました。

畠山重忠「戦など誰がしたいと思うか!!」

たとえ、ここで生きながらえたとしてもそれは北条に屈したということ。その誇り高さ故に重忠には北条が専横を極める鎌倉では生きていくことが出来ない。だから命を惜しまず、死ぬ事で後世に名を遺す

和田義盛「もうちょっと生きようぜ、楽しいこともあるぞ」




うーん、まさか和田義盛が時行くんの役割を果たすとは思わなかった。

それにしても北条も「潔く」散った筈なのに後世に称賛を浴びなかったのはやはり小四郎たちの行いがあったからなんだろうな…

それにしても全ての和田義盛の思考を読み切り、腕相撲提案もそして側面からの伏兵戦術も読み切ってしまう重忠、これも父親の考える事全てを見通した小四郎といい意味でのコンビですね。かくして、交渉は互いにとって気持ちいい形で決裂。何というか、良い意味で「潔い手切れ」というのがしっくりくるんですね。まあ残念ながら小四郎にとっては最後の機会が不意にされたようなものですが。

一たび、戦いが始まるとそこはそれ、畠山重忠の「歴戦の将帥」ぶりが光りました。和田義盛の作戦もあっさり看破、更に総大将であり、盟友の小四郎をおびき寄せるために跡取り息子の泰時の陣を襲撃する。まさに単なる自己陶酔ではない「武士の鑑」らしい戦いぶりです。そして小四郎にとっては亡き八重ちゃんの遺児である泰時は絶対になくてはないならない存在。のえがいくら策謀しようと絶対に崩せないものなのです。

 馬上の一騎打ちのように見せかけての飛びついての殴り合い。ヤマコー義村が「誰も手を出すな」という言葉で周囲の兵士も傍観者に。もちろん当時の作法としては当然なのでしょうが、ヤマコーなので「体のいい小四郎を殺させるために傍観させているだけでは?」というのが可哀そう。だってヤマコー義村、大事な所では常に小四郎を見捨てたりしてないじゃん。

殴り合いの果てに遂に重忠が小四郎に刀を突きつけ…!いえ、彼は小四郎の命を取りませんでした。大将同士の一騎打ちで勝利をおさめ、なおかつ小四郎には自らの覚悟「鎌倉を頼む」を盟友に託したのでしょう。それこそが彼にとって最大の見せ場。本当に中川大志さんお疲れさまでした。

 

〇藤内光澄の悲劇、再び…

結果的に畠山重忠はまさに見事な最期を遂げることで、自らに掛けられた疑惑を、冤罪であることを御家人たちに強くイメージさせることに成功しました。息子から重忠の首桶を改めるように言われても、逃げてしまいます。

変わらない人のように見えて、当人も自覚ないまま変質してしまった時政親父

どんどん自分の器の小ささを露呈しつつある時政親父、そんな父を見限るように小四郎は大江広元らと「執権」を追い落とすための策動を開始。無実の罪で畠山重忠を滅ぼした反感が広がり、時政親父に稲毛重成に押し付けるよう進言する小四郎。一度は反対するものの結局は「自分が責を負う」ことを回避するために娘婿を見捨てる決断をする時政親父。そう全ては父親を追い落とすためにその思考を見抜いて、そう行動するように仕向けさせるためにしていたのでした。

かつて時政親父は伊東の爺様の軍勢に包囲されていた時にも「断固として守る」という気概を見せていた親分肌の武士でした。しかし、今の彼は娘婿に全責任を押し付け、しかもその非道さに直視することもできないどうしようもない「弱い」人間に成り下がっていた。畠山重忠を滅ぼす時も安全な御所にいたままであり、そして自らが葬り去った重忠の首を直視することもできない弱い人間。

表面上の人柄は変わらないように見えて、その内面はどうしようもないほど変質してしまっていた

今の彼は愛妻と最高権力の座にしがみつくだけの単なる老人と化していました。それにしても稲毛重成粛清の役目をヤマコー義村にその役目を押し付ける小四郎。

小四郎「私に隠れてこそこそと動き回った罰だ」

かくして、哀れな稲毛重成は悲痛な叫びの果てに斬首。ああ、かつて藤内光澄粛清の役割を押し付けられた小四郎が今度はヤマコーに押し付けるのか。それにしても本来は忌むべき役割にもかかわらず、淡々とこなし、塩対応な小四郎にむしろ愉悦を見出すヤマコーの表情がヤバい。あれは確実に盟友の闇堕ちを喜んでいるヤバイ愛がある(笑)さすがはヤマコー、変態属性の愛がこもっています(笑)

畠山重忠を無実の罪で滅ぼしたこと、更にその責任を稲毛重成に押し付けたことで、御家人たちから完全に見放された時政親父。ここに小四郎と大江広元らは政治の実権を時政親父から剥奪するために、尼御台・政子を政治の表舞台に立たせる段取りを整えました。稲毛重成を捨て石にすることで父親を追い落とす策だったと打ち明ける弟とそれを受け入れる姉。鎌倉の存続のためには父とも敵対する道を選んだ姉と弟。あくまでも自らの権勢のみしか頭に無い時政親父やりくさん、そして今は一緒にいるが潜在的な敵対者である妹の実衣との断絶。もちろんこの姉弟の目的は実朝が鎌倉殿として成長するまでの中継ぎであること。それにしても自らの責任をきちんと痛感している実朝君、ああこれは本当に生きていて欲しいのよね。でも(以下略)

 かくして全て息子に嵌められたことを悟った時政親父はりくさんと共に怒りを隠せないでいました。かくして次回はいよいよこの夫婦にも引導を渡される時が…

 

次回予告の謎のワード「オンベレブンビンバ」

ちょっと待って、何この謎ワード。話題独占してしまっているじゃない!