畠山重忠「自分こと畠山重忠は武力と権力に任せて略奪と暴行を事とし、民百姓を害していると噂されるのはこれは自分にとって最大の恥辱である。だが反逆して鎌倉を攻め落とすと言われるのはむしろ乱世の武人にとって誇りとするところ!…しかしながら源頼朝公が鎌倉で創府されて以来、鎌倉殿の覇業を成されるのに微力を尽くしてきた。その点についていささかの疚しいところはない!」


うーん、今回の畠山重忠から漂うロイエンタール臭。

たとえ、陥れられていると分かっていてもそれに弁明するために膝を屈するくらいならむしろ正々堂々と反逆したる!とまで言い切ってしまう点がまさにピッタリくる。

北条義時「考え直せ、次郎。卿が俺に任せてくれたら、俺は自分の身に代えても卿の正当な権利を守る。鎌倉殿には平賀朝雅を詮議するように申し入れた。少しずつ事態は良い方向に向かっている。今度は卿自身の誠意によってそれを加速すべきではないのか。俺を信じてくれ」

畠山重忠「小四郎の約束には千金の価値があるな。いやだめだ、小四郎。卿の身は俺などと引き換えて良いものではない。卿は常に政道に立つべきものだ、俺とは違う」

 

畠山重忠「どうやら接点も見出し得ないようだし、無益な長話はやめよう」

北条義時「待て、次郎!もう少しでいい、話を聞け!」

畠山重忠「さらばだ、小四郎。俺が言うのはおかしいが、鎌倉を頼む。これは俺の本心だ」プチツ

 

北条義時「次郎の大馬鹿野郎!!」(床ドン)

二俣川合戦はそんな双璧相撃つ!感の戦いになりそう。それにしても中川大志くん、実年齢ではオグリンやヤマコーよりも10歳以上も若いにもかかわらず、まったくそんな年齢差を感じさせない見事な演技。これは次回の歴史劇でも武将役を是非とも演じて欲しいものです。次回は精悍な武将もいいですが、ここに雅にして戦闘力が凄まじいという意味で南北朝での北畠顕家を希望。これは南北朝のラスボスも大苦戦必至となること請負です。

さてここのところ記事更新速度が遅くなりまして申し訳ございません。コメントもいつの間にか溜まる一方で、自分でも色々何から手を付けたらいいのか分からない状態ですが、何とか後半には余裕できますので、「宿題」を片づけていく所存です。そのため、今回は感想短めで。それでは本編感想参ります。

 

〇崩れた均衡

北条義時「子というものはできたらできたで苦労するものだ」

なんだか凄い自家の重大事にもかかわらず、他人事満載で異母弟・政範の死を評する小四郎。政範の急死がもたらすパワーバランスの崩壊。前回にも記した通り、本来の北条の跡取りは時政親父とりくさんの間に生まれたこの若い異母弟が継ぐ筈でしたが、このコースはかなり微妙なものでした。本来であれば、小四郎義時は「江間」の分家…すなわち北条家の庶家である雑魚北条にすぎない立場です。しかし小四郎の声望と立場は単なる庶兄というには巨大すぎた。亡き頼朝から信頼された側近であり、なおかつ時政親父が何度も干されたり、田舎に引き籠ったりしている間でも鎌倉において政務の場で活躍した実績がある。そして十三人の宿老では唯一父親と対等の立場にある。もしあのまま政範が長生きしていれば、果たしてこの両者が並び立つのだろうか…という素朴な疑問があります。というのも単なる北条家という家での範疇ならともかく、天下人の家となると話は違ってきます。そもそも現在の時政親父が鎌倉殿の外祖父として我が世の春を謳歌している権力の源泉はどこから来るかというと娘の尼御台・政子に依存しているからなんですね。元々時政親父・りくさん夫婦と政子・小四郎姉弟との仲が微妙なものだったのは『鎌倉殿~』でも描写されている通り。そしてそんな政範の急死で一番得をした人間は誰か?と聞かれると

まさに本主人公の小四郎君に他ならない

のですね。もちろん、本作の小四郎のキャラ的にもそして視聴者からも「それはない」としか言いようがないのですが、りくさんの視点からすると全く異なった光景が見えてきます。りくさんには政範以外に子はなく、最早北条家の後継者は小四郎が継ぐ以外の選択肢はありえないものとなっていました。そして継母の彼女は政子・小四郎とは上手くいっていない。そんな彼女の立場を今や守るバリアとなっているのは高齢の時政親父のみですが、既に60を超えて、当時の平均寿命から考えればいつ死んでもおかしくはない彼が亡くなれば、もう彼女は実質的に無力化されてしまうのです。かてて加えて、義時が新たな後家であるのえを妻に迎えたタイミングも最悪。二階堂の孫娘であるのえと小四郎が結びついたということは既に血縁で結ばれた畠山・三浦に加えて、文官たちまでも取り込んだという解釈がりくさんの視点からすれば可能なのです。気が付いてみれば、りくさんにはもう自らの身を守る盾がいないボッチ状態。本作での娘婿の平賀朝雅の讒言はその意味でも彼女の急所を突いたものとなってしまったのですね。

かくしてなりふり構わなくなってしまった時政親父とりくさん夫婦の暴走は遂に理性を忘れさせ、ひたすら自らの保身を守るための悪行に手を染めることになってしまいます。それこそ周囲が「まさかそこまですまい」というレベルを遥かに超えて。

 それにしてもまんまと父親と同じ橋を渡ってしまった小四郎には…「おお、もう」としか言いようがありません。「泰時が跡取り」とその場は謙虚な態度を崩さないのえでしたが、もちろん内心は多くの人の予想通り正反対。ここでも早くも将来の「伊賀氏の変」へのフラグが着々と。何としてでも自らの産む男子を跡取りにしようと悪女なりの情熱に燃えるのえ。そしてそんな裏の顔を知らない小四郎。僅かな観察で早くも本性を洞察してのけたヤマコー義村。この三角関係が凄い気になるところではあります(笑)

 

〇君のような勘のいいガキはキライだよ

そして鎌倉殿の婚礼が執り行われる中で進む時政親父とりくさんの暴走。我が子の死を嘆き悲しむあまりにどんどんと精神状態がヤバくなっているりくさんとひたすらオロオロとしている時政親父。今回、どんどんと株暴落しているのはりくさんではなく、むしろ時政親父の方なんですね。確かに一個人としてみれば、愛妻を何とか慰めようとしているまさに善良で素朴な、だからこそりくさんも愛している優しいオヤジ。

でもやらかした行為は吐き気を催す邪悪でしかなかった。善良な親父がそれゆえに自覚なく悪事をやらかすその不条理

突然の政範の死について鎌倉で重大な真相が暴かれることになりました。畠山重忠から小四郎に告げられる平賀朝雅の策謀。密かに政範に毒を盛らんとしている密談を聞いてしまったのが重忠の息子の重保。おお、ここで平賀と畠山に因縁につなげるのか。それにしても、重保は若いからしゃーないにしてもいきなり本人に問い詰めるという行為においおい!と思ってしまいました。

ミステリものだったら確実に「口封じ」されてしまうタイプですね

何しろ重保の目撃した密談だけでは証拠としては弱い。更に言えば、小四郎が今回かなり遠慮したのが分かる通り、平賀は京都守護として後鳥羽院らとの関係も深い人間。そんな相手にいきなりしかも誰もいない場で追及したりすれば、確実に相手から反撃されることは目に見えていました。

りくさんに向けて自らの行為を畠山に擦り付けようとりくさんへの讒言を繰り出す平賀朝雅。先の項でも記した通り、平賀の讒言は実にポイントを衝いたもので、「本来ならあり得ない」筈の讒言に説得力を持たせていました。武蔵の所領をめぐる時政親父と畠山重忠の確執、そして先のりくさんのウィークポイントを衝いた現在の北条家における孤独な状況…一たび強迫観念に取りつかれたら最後「人は自分の信じたいものを信じたがる」をそのままにいきます。そして自らの娘婿にもかかわらず、りくさんに言われるがまま畠山重忠を討伐しようとしてしまう時政親父。今の彼は単なる愛する女性の言われるがまま動く操り人形でしかありませんでした。自らの意思を放棄し、ただただ言われるがまま動く親父を押しとどめんとする小四郎とトキューサ兄弟。鎌倉殿の下知がなければ、軍勢を動かせないと親父を止めます。これも先の項に記した通り、時政親父が現在好き勝手できる根拠は単に娘の権威に依拠しているという脆弱な立場であり、その彼女及び小四郎・トキューサから反対されれば動くことのできない弱い立場。トキューサ「父上、継母上に振り回されるのはもうおやめください。息子として恥ずかしゅうございます」

時政親父「うるせぇ!」

義時「…最後のは余計だった」(ボソッ)

実はこのトキューサの諫言、余計なものに見えて実際には小四郎が早くに言うべき台詞だったのですね。もっと早い段階で、特に全成さんの一件の時に、強く時政親父と取っ組み合ってでも継母の政治介入を阻止するべきだった。しかし、小四郎は父との対決を意識的に回避しようとして、実は問題の先送りをしていた面がある。今回のラストの重忠の台詞にはそういう意味が込められています。

三浦義村「次郎を甘く見るな。あれは優男だが、必要なら立場を変える覚悟がある」

普段はイケメンで紳士的立場の重忠だが、必要な場面とあれば容赦なく命を奪う戦士としての本性を存分に発揮するという人柄が分かっているヤマコー義村。やはり人物の観察眼に関しては

パプテマス・シロッコ並みの洞察力の高さを発揮しています。

いや、本当に木製帰りの男と外星人のヤマコー義村は本当にタイプ的によく似ているのよ。表向きは傍観者的立場を崩さず、それでいて裏では色々と糸を引いて、確実に組織の盛衰よりも自らの利益は確保していくという意味で。そんな彼がのえさんを見る目…あれは確実に

ヤマコー義村(この女は確実に利用できる)

というヤバい目。これはまた一波乱ありそう。

 

〇実朝の御忍び

平賀の讒言から始まった一触即発の危機。重忠は息子と平賀との公開の場での詮議をするよう小四郎に申し入れしますが、平賀が後鳥羽院との関係の深い立場故にどことなく及び腰の小四郎に苛立ちを露にしてしまいます。

畠山重忠「我らが謂れなき罪で責められても良いのか!」(床ドン)

もはや膝を屈するくらいなら、誇り高き反逆の道を選ぶロイエンタールな重忠。

どことなく自らの婚姻にも、そして鎌倉殿の立場にもどこか心ここにあらず状態の実朝は泰時を連れての和田義盛。義盛の裏表のない性格が実朝にはどこか頼りがいのあるオッサン風立場。あ、これはあれだ。

『銀魂』の松平のとっつぁん風味あふれる和田義盛

将ちゃん…じゃないや「鎌ちゃん」を連れての御忍びであちこちを遊びまわります。歩き巫女の下で占ってもらう一行。

泰時「子供のころから双六をするとどういうわけか具合が悪くなってしまいます」

前世の上総が双六の場で誅殺された記憶がトラウマになっている泰時

これはあれだ、間もなく生まれる政村は絶対「音曲に拘りがある」に違いない。何故なら…

そして歩き巫女から「雪の日には気を付けろ」と鶴岡八幡宮フラグが立ちます。

すっかり和田義盛には心を開いて笑うようになった実朝。あ~これは確実に和田合戦後に厭世的になるわ。

そして今回、実朝が御忍びで不在になったことが大きな騒動へとつながってしまいます。御所では騒ぎにならないようにしつつ、捜索が行われ、これがまさかこの後に次回の悲劇への導火線となるとか余りにも残酷すぎる。自らの御忍びが大騒動になったことを大きな反省した実朝の下へ忍び寄る時政親父。この演出もBGMもホラー風味があった。好々爺らしさ全開で文書への署名をお願いする時政親父。文書の内容は巧みに隠して、まんまと花押入りの畠山討伐の法的根拠が出来上がってしまいました。息子から強く言われれば、その場では引き下がり、かといって愛妻から強く迫られたらまた態度を翻す。そして行ったことは孫を騙しての娘婿をでっち上げの罪で滅ぼす…

お人好しの凡人が自覚のない悪事を行ってしまうというこの不条理の構図

 

一方、父親の邪悪な行為を知らず、武蔵で従兄弟にして盟友の重忠と酒を酌み交わす小四郎。あ~この不在がとんでもないことになってしまうとは…既に北条との戦争を覚悟した重忠と未だ煮え切らない小四郎。冷然と自らの家である「北条」を味方するであろうと容赦なく本質をズバズバと述べる。

畠山重忠「本当に『鎌倉のため』を思うのなら貴方が戦う相手は…」

北条義時「…それ以上は」

畠山重忠「貴方は分かっている」

北条義時「…それ以上は」

思えば、ここまでの事態の悪化の要因はどこにあったかというと「我が世の春」を謳歌して好き勝手やりだした時政親父とりくさんの腐敗に、そして裏で様々な策動をする後鳥羽院との対決を意識的に回避しつづけた小四郎にも原因のあることでした。重忠が述べたのはまさにそのこと。本当に戦うべきなら、父親だろうが朝廷だろうが容赦なく戦うべき。これが重忠なりの小四郎への最後の忠告だったのでしょう。いや、それにしても凄いわ中川大志。